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「エルフの里は入り口を閉ざしてしまったわ……」

 しばらくして口を開いたナリュの声音は悲しみを含んでいた。シナーラの顔に絶望の色が浮ぶ。

「でも、人界との境は閉ざしてしまったけれど、海の向こうにはまだ神話の世界が残っていると聞いたわ。海を統べる海王様のお力は遍く海原に満ちているはずだもの。きっと、そこへ行けば道は開けると信じているの……」

 唐突に、シナーラの頬を大粒の涙が伝い落ちた。

「……どうしたの?」

 おろおろと、ナリュはシナーラの肩を抱き寄せたが、その涙は止まらない。ナリュはしばらくそっと、シナーラに寄り添っていた。夜の静寂の中で二人はしばし、互いの鼓動の聞える距離にいた。やがてシナーラは溢れる涙を拭うと、はにかむように微笑んだ。

「ありがとう。こんな風に<里>の事を知っている人に会えるなんて思わなかったから、驚いちゃったよ。いつか君は行くんだね?」

「ええ。ここでそのチャンスを掴もうと思って。あなたも行きたいの?」

 ナリュはそっと問いかけた。

「ううん。僕じゃないんだ。僕の遠い祖母がエルフなんだそうだ」

「おばあ様?」

「そう。人と結ばれたエルフの一人。もしかしたらもう、最後の一人かも知れないって」

「そう」

「おばあ様は今も少女の様にしか見えないけれど、今では起き上がる事もできなくなってしまった。最後に仲間に会いたいって……」

 シナーラの瞳に涙が滲む。ナリュはそっとその涙を指で拭ってやった。

「エルフは長生きだから、里にはきっと懐かしい方々がおいでになるのね」

「きっとそうだと思う。必ず僕はおばあ様をその地にお連れしようと誓ったんだ。いつか、僕の船におばあ様を乗せて<里>を知る人々を訪ねながら探そうと」

「きっと見つかるわ」

 優しく微笑むナリュを振り仰いで、ふとシナーラは思いついた。

「ありがとう。そうだ!君もおいでよ。いつか君も神話の世界に行くのだろう?」

「私?」

 驚くナリュの手を取ってシナーラは大きく頷いた。

「一緒に行こう。そして、君にもおばあ様に会って欲しいんだ。今、僕が乗っている船なら人数も少ないからきっと見つからないよ」

「……そう。そうね。もう、翅も隠せないし……」

 2人はナリュの震える翅を眺めた。透き通る翅は薄暗い室内でキラキラと光を放っていた。

「朝、早くにここを出よう。きっと<里>は見つかるよ。僕が必ず連れて行ってあげる」

 ナリュは半信半疑ではあったが、シナーラに笑いかけると同意のしるしに頷き返した。



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