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 少女の頬に浮んだ不信の表情は暫くの間、その瞳の中を彷徨っていた。しかし、真摯な様子のシナーラを信頼したのか、やがて少女は小さく頷いた。その様子を見守っていたシナーラも、嬉しそうに肯き返した。改めて少女はシナーラに背中を向けた。

 シナーラは少女の裸の背に両手の指を当てる。ナリュは僅かに震えたが、あえてその手を振り払わなかった。そのままシナーラはゆっくりとナリュの背中の筋に沿って指を滑らせた。小刻みだった震えも徐々に収まっていく。白い筋の半分も指を滑らせた時、その背から淡い光が溢れ出した。

「あ、れ……?」

 慌ててシナーラは手を離したが、その光は止まらない。溢れる光を押さえようと手で覆ってみるが、止まらない。シナーラが手を離すとやがて、中から溢れ出した光は少女の背に透き通る繊翅を作り出した。縮んでいた4枚の翅は徐々に広がりやがてピンと力強く張り、ろうそくの光を受けてキラキラと輝いていた。ナリュは俯いて両腕で震える体を支えるように抱き締めている。

「もしかして、君は……<妖精>?」

「!」

 驚いて思わず問いかけたシナーラの瞳には絶望的な色を湛えたナリュの瞳が映った。ややあって、か細い声でナリュが囁いた。

「誰にも……誰にも言わないで……」

「どうして?妖精だと困る事でも……?」

 そこまで言ってシナーラは思い出した。妖精達が自由に飛び回っていた世界はフェナが人から離れると共に遠に過ぎ去り、今では僅かな数が隠れ住んでいるに過ぎないと。

 いや、もしかしたらもうどこにもいないのかも知れないと言われている妖精が 何故、今目の前にいるのかシナーラは困惑していた。しかし、つい最近同じように思われている人魚をサグレスは見たと言っていた。

 まだ、神話の時代は終わっていないのかもしれない……?もしかしたら、まだ完全には神々の世界と人の世界は分かれていないのかもしれない。

 一方、ナリュは怯えた表情の下で事態の把握が出来ないでいた。人間に混じって暮らすために翅を隠す呪いをかけた筈なのに、こんなに簡単に解けるものだったなんて。しかし、呪い師は保証したはずだった。触れたぐらいでは解けないと。改めて、シナーラを見つめたナリュはその瞳が薄い緑色をしている事に気付いた。緑は魔の色。人外の色。

「まさか、あなた……も?」

 恐る恐る問いかけたナリュにその意味を理解したシナーラはゆっくり頭を横に振った。

「僕は違うよ。でも、君に聞きたい事があるんだ。君はエルフの里を知らないか?」

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