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「さぁて」
重苦しい空気を振り払うように女主人は手を叩くとサグレスとシナーラに向き直った。女達が笑いさざめき、いつの間にか2人は注目の的になっている。思わず一歩下がったサグレスはすぐ側に立っていたシナーラにぶつかり、互いに困惑した顔を見交わした。
「そんなに怖がるもんじゃないよ。ここがどこかは分かっているね?さぁ、どの子がお好みだい?」
女主人は笑いながら女達を指し示した。その言葉に釣り込まれて、サグレスは改めて女達を見回した。そこにはサグレスと変わらないと思しき年恰好のものから、年齢不詳のものまでそろって、くすくす笑いながらこちらを眺めている。誰も皆、それぞれに個性的で魅力的だった。見ている内に赤面していくのが自分でも分かる。それを、見て更に女達が笑い崩れた。
サグレスが憮然とした時にシナーラが小さく叫んだ。サグレスが振り返るとシナーラの瞳は一点を見つめている。サグレスがその先を辿ろうとするより先に女主人が口を開いた。
「おやおや。こちらの坊やは決めたのは良いけど、この子は難しいよ」
女主人はまだ少女と思しき女の肩を抱いて笑った。少女は恥ずかしいのか俯いたままだった。
「え?」
思いもかけない返事を聞いて、シナーラは困惑している。シナーラが言いかけるのをさえぎって、女主人が優しく続けた。
「この子は今日が初めてなんだよ。うちでは初めての子は自分で客を選べる決まりになっているからね。見た所、あんたも初めてだよねぇ。悪い事は言わないから、他の子にしときな」
「そんな……」
シナーラの表情は諦めきれないと言っている。サグレスは思わず助け舟を出した。
「だったら、その子に聞いてみろよ」
サグレスの意見に困ったように女主人がシナーラとサグレスを交互に見ていたが、可哀想に思ったのか少女に問いかけた。
「あちらが、ああ言っているけどどうするね?」
少女は弾かれたように女主人の顔を振り仰いだが、その言葉にちらとシナーラを見つめる。しかし、シナーラと目が合うと急いで逸らしてしまった。脈が無いと見た女主人は穏やかにシナーラに告げた。
「残念だけど、今回は……」
「待って……」
今、少女はシナーラを見ていた。線の細い印象の顔立ちだが、その緑の瞳ははっきりした意思を秘めている。
「いいのかい?あんた」
慌てて少女を見返した女主人はその瞳を見て、強く頷いた。
「よし、決まった。二人で上へお行き」
そして、シナーラが嬉しそうに少女と階上へ上がると、残るのはサグレスだけになっていた。サグレスは自分に痛いほど視線が集中しているのを感じた。
「さて、あんたはどうするね?」
「え……っと」
慌ててきょろきょろと周囲を見回すサグレスに決まりそうも無いと思ったのか一人の女性が立ち上がった。肉感的というよりは、人の倍近いふくよかさに圧倒されるような女性だった。
「ジョアンナ?」
「あたしに任せなさいよ」
女主人が止める間もあらばこそ、ジョアンナはあっけに取られるサグレスを抱えるように階上連れ去った。