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折角の上陸だと言うのに、相変わらずサグレスの気持ちは晴れなかった。しかし、初めて見るザルベッキアは活気に溢れ、イングリアの港町とは異なる異国情緒に彩られた町並みを連ねている。シナーラが嬉しそうにきょろきょろと辺りを見回している姿にサグレスも釣られて次第に目を奪われていった。通りには色とりどりの品物が並び、旨そうな匂いがそこかしこから立ち上っている。ザルベッキアは明るい色彩に満ち溢れていた。言葉もほとんど変わらないはずだが、売り子の呼び込みが独特の節回しで、サグレスもシナーラも時々立ち止まっては周囲に気を取られるが、ゲオルグその様子には頓着せずにどんどん先へ進んでいく。結局、横目で眺めながらも二人は慌ててゲオルグの後を追うことになってしまうのだった。
そのゲオルグは周辺の地理に明るいのか複雑に絡み合う小道を迷うことなく拾っていく。道は次第に登りになっていった。道の左右は出店ばかりだったのが、進むにつれて石造りの家が増えて落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「どこまで、行くんだ?」
日も傾いたらしく、夕闇が迫りつつある頃、相変わらず何の説明もせず、一人で先に進むゲオルグに堪りかねてサグレスが背後から尋ねた。しかし、ゲオルグは聞こえたのか聞こえないのかそのまま進んで行く。
「馬鹿にしてるのか!?おい!」
「やめなよ、サグレス」
勢いゲオルグの前に立ち塞がったサグレスを慌ててシナーラが押し留めた。立ち止まったゲオルグの隻眼が二人を映している。サグレスの表情が思わず硬くなった時、ゲオルグが顎で指し示した。
「ここだ」
そこはいつの間にか瀟洒な建物が軒を連ねた一角だった。そして、ゲオルグの示した建物は一際美しかった。