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サグレスは心底面白くなかった。船に戻ったものの、エスメラルダの容態は知れずシークラウドもその世話と船の改修でしばしば、サグレス達の事は忘れがちだった。更に船に残っているはずの他の候補生達がどうやら遊びに出たとなると面白いはずが無かった。
最初の内、昼間はサグレスとシナーラが交代でエスメラルダに付き添い、夜はシークラウドが看病していた。どこが悪いのかも全く分からないまま側にいるのは不安でしかなかった上に、まったく目覚めないというのも気にかかる。サグレスにはその病状がなんというものなのかまったく検討もつかなかった。
そして、2日経った頃いつの間にかゲオルグも船に戻ってきていた。サグレスはこの海軍提督の息子と名乗ったゲオルグのらしからぬ振る舞いがどうも気にいらなかった。サグレスの目から見ると海賊の方がよっぽどマシに見える。更に、上級生達が全幅の信頼を寄せるという事がどうにも納得がいかない。
確かに堂々とした見た目や、全身から醸し出す力量などは他の者とは違うというのも感じられはするが、それを認めたくないサグレスだった。
そうこうする内、船に戻ってから殆ど顔を合わす事も無かったゲオルグが夕刻近くなってサグレスとシナーラを呼び出した。ちょうどシークラウドに忘れられていた遅い昼食を取っている所だった。
流石に港に着いているだけあって、食材には不自由しないらしく航海中よりもずっと美味しいのが救いだったが、遅れがちなのが困りものだった。
「これから街へ出る。ついて来い」
ゲオルグは士官服ではなく、ラフな軽装だった。
咄嗟に反発しようとしたサグレスだったが、その前にシナーラが元気良く返事をしていた。
「すぐに仕度して甲板に来い。遅れたら置いていくぞ」
それだけ言うとゲオルグは踵を返して甲板へ向かって行った。
「何であんなやつについて行くんだよ」
ゲオルグが去ってからサグレスはシナーラに詰め寄った。
「え?だって、これ以上船にいても面白く無いじゃないか。サグレスはザルベッキアの街を見たくないの?」
「う……」
サグレスは国から出た事は無い。従者で付き従っただけでも物珍しい物を沢山目にした事を考えると、自然と街の様子に胸の高鳴りが聞こえてくる気がする。
「エスメラルダも気がついたみたいだし、僕らが出来る事はもう無いと思うんだ。そもそも、シークラウドが僕らの世話を焼かなくて済むようにゲオルグが誘ってくれたんだと思うんだけど?」
「あ……確かに」
結局これ以上船に残る事に嫌気のさしていたサグレスも渋々後に従った。