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 フェナ。

 創世の時代に荒れる自然をその力で平定していた者達。揺れる大地は大地母神ガーナによって強固となり、荒れ狂う大波は海王により、一定の流れを作り出した。何より日輪が太陽神ソルの導きと月の女神ルナディースに寄って規則正しく明けて暮れるようになり、やがて大地は豊穣の恵みで満ち溢れる様になった。その者たちを敬意を込めてフェナと呼びならわしたと言われている。

 しかし、人々の間からフェナと呼ばれる神々が遠い存在となったのは、いつの頃からか。古老達の話や吟遊詩人の物語で多くの者はその存在を信じてはいても、間近で見た者も言葉を交わした者も無く、全てはみな伝聞ばかりだった。

 サグレス達が海王に初めて会った時にはその存在の大きさに驚くばかりで、現実からかけ離れた存在と次第に思い始めていたが、このザースと言う者は一見するとサグレス達となんら変わりは無い様に見える。どこからともなく現れたのでなければ、フェナと名乗っても信じないところだったろう。

 しかし、ザースの穏やかながら芯のある物言いに、シークラウドは逆らえずエディラに近寄ると、その剣の柄を握りしめて一気に引き抜いた。先ほどのナイジェルニッキの様に弾かれる事も無かった。剣は既にエディラの体に半分程も埋まっているところだったが、不思議と血も傷も無い。

「何で、俺が…?」

 戸惑うシークラウドから剣を受け取り、ザースが高く剣を掲げて見せた。陽光を弾いて、キラリと光る。

「さて。お前さんが、ファンの血統だったって事だな。とはいえ、ファンの子は娘だったはずだから、異性のお前さんは直系と言う訳ではないが、それはお前さんが自分で見つけるんだな」

 孤児の自分がいきなり王家の血統と言われて混乱するシークラウドにはそれ以上関わらず、ザースは天空を仰ぎ見た。

「海王!悪かったな!てっきりお前さんが剣を海底に隠しているのだとばかり思っていたが、この通り見つかったぞ!この地上にはこれ以上探す物は無いから、人界との関わりはこれきりだ!お前さんの養い子の末裔は元気にやっているから、これ以上心配する必要も無いぞ!」

 ザースに言われた事が通じているのか通じていないのか、巨大な海王は白い翼の片方を手にしたまま突然ザブンと泡となって消え去った。海水の壁も大量の水を撒き散らしながら、海へ戻っていく。

「ザース!用は済んだか!?」

 今度は天空の戦車からの声だった。

「ソルか!?済んだぞ!」

「そうか!神門を閉めるぞ!神界へ来たいあやかしはこれが最後だ!後へ続け!」

 金色の髪をなびかせて、若い男が戦車を操っている。その美しい声が天空いっぱいに響き渡った途端、あちこちから湧いて出た様にありとあらゆる人で無い者達が現れた。空を飛べる者も飛べない者も、人に似た姿の者もそうで無い者も空いっぱいに埋め尽くさんばかりに異形の者達が現れ出た。

「あ!おばあさま…」

 シナーラは天空の一点を凝視していた。直ぐに群衆に紛れてしまったが、それは紛れも無くあの温室で眠っていた祖母だった。隣にはナリュがいた様に見えた。一群はソルを先頭に天空を駆け抜けていき、しんがりは1頭だての小型の戦車を操る女性−ルナディースだった。太陽はソルに追い立てられたのか、空は夕刻の色を示している。

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