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航海記~往路編からの続きの物語になります。よろしければそちらからお読みください。
午後も遅くなってからようやく集まって来た評議員達を見てガサラフ評議長は内心溜息をついた。早朝に外国からの使者が着いたとの知らせを受けて、すぐに召集をかけたにもかかわらず、ほとんどの者が昼前に集まるどころか行方さえ掴めない有様だった。ガサラフには自治独立国の統治者としての自覚が足りないとしか思えなかった。
「ロクゼオンの坊やがまだのようだけれども?」
欠伸を噛み殺しながらエリキシア・リグオールが空席を示した。昨夜は派手な乱痴気騒ぎを引き起こした事がガサラフの耳に入っている。
「ロクゼオン卿は昼前まではいたがなぁ。また女の所じゃないか?」
だぶつく腹を揺すりながら、リュクオールがげらげら笑った。
「ロクゼオン一人が居ない所で、評議に影響があるとも思えない。先に進めたまえ評議長」
こちらは反対に針の様に痩せたアクセオールが尊大に口を挟んだ。粗野とも評される大陸風の調度を贅沢にも優美に昇華した調度に囲まれた広間は上品にまとめられているが、そこに集う面々をそっと見回し結局の所、その通りだとガサラフは老いて静脈の浮き出た自らの手を眺めながら考えた。もともと交易自治都市ザルベッキアの評議会はこの土地の名だたる大家が一団となって自身の利益を守るために組織されたものであった。しかし、現在では11人の評議員のうち5人がオールア一族と呼ばれる旧家の出身であり、その総意はオールア本家であるアクセオールに委ねられている。評議長とは名ばかりの立場でしか無い事を日々ガサラフは痛感させられていた。ようやく口を開いたガサラフの口調は苦々しげだった。
「では、本日の評議に入る。今朝ほど、港湾局に外国からの使者が着いたとの知らせが入った」
「そんな事は港湾に任せておけば済むものでは無いの?」
物憂げにエリキシアが口を挟んだ。
「人の話は最後までお聞きなさいな」
もう一人の女性評議、エスカッシュ・ミリエがエリキシアを軽く睨んだ。
「すみません。おば様」
エリキシアは悪戯を咎められた娘の様に小さく舌を出した。自由奔放を主義とするエリキシアもアクセオールの実姉であるエスカッシュだけは敵わないと見える。そのエスカッシュに促されて、ガサラフは先を続けた。
「港湾局によれば、同盟国であるイングリアから正式な書簡を携えているとの事だ」
それぞれの思惑を胸に、沈黙が支配した。やがて、アクセオールが口を開いた。
「では、会う必要があるな」
その言葉に、既に別室で待たされていたいイングリアからと言われる使者が呼び込まれた。大きく開いた扉から複数の靴音が響く。
「ほう」
やがて、その一団が入って来た時、評議達はそれぞれに驚きを洩らした。