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二十三話 -年末年始の物語-【11】

「今となっては十割蕎麦というのは、趣向に近い代物でしてね。全体的な美味しさで言うならば、小麦粉を混ぜた二八蕎麦が一番なのです。それは、そば職人を長年やってきた私でも言えることです。でも、それでもやはり十割蕎麦にこだわり続けるのは、味に対する強いこだわりを持っているからなんですよ」

「……強いこだわり?」

「ええ、そうです。そば職人になった以上は、最高の味を提供したいと思っています。それが消費者に全てを伝えられなかったとしても、職人としては、最高の作品を届けたいという気持ちで溢れています」

「最高の作品を届けたい……」


 今、私の漫画家としての何かと通ずる何かを汲み取った気がした。

 自分のこだわりを強く持って、読者に伝わらなかったとしても、自分なりの最高の作品を出したいという野心——

 私とは全く関係のない業界の人でも、そんな強い気持ちを持っている人がいるのか——と、自分の世界の狭さを思わず恥かしく感じてしまった。


「私の祖父はそば粉の農家をやっていましてね。いつも最高のそば粉を作るために一生懸命でした。そんな祖父の情熱を、どうにか蕎麦に注げないかと考えた結果——」

「全てのそば粉を使う十割蕎麦を作るという考えに至ったと……」

「……その通りです」


 なんとも熱い物語じゃないかと思った。

 漫画化したら、共感されそうなエピソードな気がする。

 今度、単発のやつでやってみるかな。


「もぐもぐ……なるほどなぁ。どうりでザラザラだけど、いくら食べての飽きないんだなぁ。特盛頼んだのに、んぐっ…んぐっ…………はぁ??! 完食できちゃうんだもの」


 そう言って、翔子は私達の熱い会話を尻目に、豪快に蕎麦を食べ尽くしていた。

 大量に入っていた汁に湯を注ぎ、蕎麦湯にして豪快に飲みつくすところまでフィニッシュ済みという、なんとも豪快かつ高速な食事道だと感心してしまう。


「私がやっているのは自分勝手なのはわかっています。でもね、あなた達のように、美味しさに気づこうが気づくまいが、美味しいって言ってくれることに喜びを感じているのですよ。もう七十二歳になるっていうのに、やったぜ! ってガッツポーズを取ってしまいます」

「へぇ?メッチャ若いじゃないっすか。普通に百歳まで蕎麦屋いけんじゃないっすか?」

「ははっ、私もそう思っていたんですけどね。でも体はそうも言ってくれないようでしてね。一度倒れてしまってからは、安静にって子どもたちから念を押されています」


 体がついていかないって、とっても悲しいこと。

 それでも決断したっていうのは、きっととても強い気持ちを持って決断したことだと思う。

 この優しげな微笑みの中に、強い野心と悲しみ、勇気といった様々な人生の感情が含まれているのだと思ったら、なんだか感慨深く感じてしまった。


「でもね、やりたいことをギリギリまでやらせてもらえたのは、とても幸せでした。いつも努力し続けて、成長し、お客様に喜んでもらえて、自分が大きくなっていけた。楽しかった!」


 私と翔子はその言葉を聞いて、それぞれが今やっている仕事に思いを重ねた。

 やりたいことを全力でやれる幸せ。

 それは、すべての人ができることではない特別なこと。


 今自分がやっていることに幸せを感じつつ、努力を続けて悔いのない人生を歩むこと。

 長い長い道のり——

 様々な苦悩——

 全てを楽しみ、

 全てを超える。


 その先にある光に向かって、輝かしい未来を求める。

 それはきっと、簡単なことではない。


 挫折したいと思うこともたくさんあるだろう。

 でも、


「私達なら——」

「いける」


 そう確信していた。

 互いに、信頼をして。

 

 ………

 ……

 …

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