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二十一話 -年末年始の物語-【09】

「ねえ、店長さん。メニューの殆どがバッテンばっかりついているけど、今日は食材全然仕入れていないの?」


 疑問を先に感じた翔子が、店長さんに質問をする。


「ああ、申し訳ないですね。この店、今日で閉じることになっていまして……日持ちしない食材とかは、もう入荷していないんですよ」

「えっ、閉店しちゃうんですか」

「ええ……今日の二十時前には」


 と、店長さんが、少し寂しそうにいう。

 確かに、店の中には引っ越し用のダンボールがいくつも積み重なっており、テーブルもいくつか畳まれている光景が目に映る。

 営業中の店としては、確かに違和感を感じざるを得ない。


「店自体は程々やっていけるくらいお客様は来ていたんですけどね……なにぶん年なものでして、店を畳んで息子たちの家にお世話になる予定なんですよ」

「へぇ……それは、ずいぶんと……」

「すごいタイミングに来ちゃったものだね」


 翔子が止まろうって言わなかったら、確実にスルーしていた高級路線っぽい蕎麦屋。

 まさか、年末にこんなイベントに遭遇するとは思いもしなかった。


「いえいえ、私も体が元気なら生涯現役を貫きたいものでして……メインの十割蕎麦だけは、ギリギリまで頑張ろうって思っていたんです」


 確かに、一番のメインとなる十割蕎麦だけは、バッテンがつかずに残っている。

 蕎麦も準備が大変という意味では、残す選択肢の優先度は高くなかったというのに。


「そんなわけで、メニューは蕎麦だけになっちゃうのですけど、二人前作るということでよろしいですかな?」

「あ、はいはい。お願いします〜、あ、ちなみに私は特盛で」

「ちょっと翔子、値段まだ見ていないっていうのに、勝手に決めちゃうのは……」

「ははっ、お金のことならお気になさらず。余ったそば粉を使いますので、お安くしておきます。私がいうのもなんですが、結構この店の蕎麦はお高めですからね」


 そう言ってメニューを指差し、十割蕎麦並盛りが二千円、特盛三千円という価格が書かれているのを店長は私達に知らしめた。


「う、うへぇ……」


 思わず私はだらしがない声を漏らしてしまった。

 カップ麺の蕎麦しか普段食べない私にとっては、次元が違いすぎる価格設定だからだ。

 いや、値段なりの上品な美味というのがあるのかもしれないが、数分で胃の中に消えてしまうものに高額を掛けてしまうのは、どうしても私のポリシーに反してしまう。


「ありがとうございます! うちのお姉ちゃん、ケチだから今すごく心の中で喜んでいます!」

「ちょっと翔子、なに人様に失礼なことを言っているの!」


 思っていることは事実だけど。


「まあまあ、若い人たちはもっと別のことにお金を使いたいでしょうが……十割蕎麦も、原価がかかっている分、確かに美味しいんですよ。せめて、今日の思い出で、味だけでも持って帰ってください」


 店長さんはそう言って、私達の粗相の悪さを軽く受け流してくれ、蕎麦の準備をするために厨房の中へと入っていった。


 ………

 ……

 …

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