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二話:エトナの散歩(冬の星空)後半

 ひゅぅぅぅぅ……


「うぅ……やっぱり寒い。北風が私に意地悪する……」

 

 上着のポケットに両手を入れているのにもかかわらず、冷気が上着の布を貫通し、冷気を私の両手へと送り込んでくる。

 凍える手を何とか動かしながらスマートフォンの天気アプリを見てみると……


「うへぇ、現在の気温一度。一桁というか……もうすぐ気温ちゃんのHPがゼロになってしまうじゃない」


 和歌山って滅多に雪が降らない地域だから、そこまで気温下がらないと思っていたけど、ただ雪が降らないだけなんだ! っていうのを理解した。

 空を見上げると、雲一つない夜の快晴で、チラホラと星空が輝いている様子が見える。


「ふぅ……こればっかりは、田舎の特権だよね」


 東京で、なぜ星空が見えないのか私には理由はわからないけど、私が生まれ育ったこの町は、昔も今も、星空が輝いている。

 私がこの町を地味に飛び出さないのは、変わらない町が理由なのかもしれない。 


「食材の買い出しは、スーパーが開いている時に行くとして……この時間だと、コンビニしか無いかな……」


 家から近いスーパーを見てみるが、やはり明かりが消えている。


「そりゃあ、こんな田舎じゃ老人どもは寝ているからね」


 少し前までは十九時に閉店という、明治なのか大正なのかわからないような時間設定だったけど、この町も以前と比べて家庭を持つ人が住む比率が増えベッドタウン化したこともあり、二十四時まで開店するようになったのだ。

 しかしながら、私のような深夜に徘徊する人の確率は少ないので、てっぺんを越えてまで営業はしていない。


 そうすると、自ずと選択肢は一つしか無い。


 ――コンビニだ。


 この田舎といえども、チェーン店というなの制約的束縛の影響で、二十四時間営業をこの町でも例外なく行っている。

 私にとっては、無くてはならない存在だ。


「弁当にしようか……パスタにしようか……私のお腹はどっちを所望しているのだろうか」

 私がよく行くコンビニはパピーマートという。

 弁当なら米の量を、パスタなら麺の量を無料で任意に増減できるという神サービスを行っている所だ。

 頭の中で何を食べようかとウキウキとさせながら、私はパピーマートへと早歩きで向かう。


 ――十分後


 ちりんちりん……

「……あっ、いらっしゃいませ」


 レジの中から、少し眠たげな表情をした大学生らしき女の子が私に声をかけてくる。

 田舎のコンビニで、滅多に客が来ないこともあってか、油断をしていたのだろう。

 眠たげなところに水を指して申し訳なく思うけど、私も空腹だから、お邪魔させてもらうよ。

 そう思いながらレジの前をそそーっと通り、私はお弁当コーナーへと向かう。


「うー……ん、やっぱり深夜だから、ラインナップが少ないなぁ……」


 弁当の陳列棚には、肉野菜弁当、オムライス弁当の二つだけしか置いていない。

 パスタは残念ながら一つも置いておらず、私がずっと迷っていた選択肢をバッサリと切り落とすような結果になってしまった。

 田舎コンビニの弁当配給の事情を知ってしまう瞬間だ。


「まっ、特別何かが食べたかったというわけでもないし、お腹が満たせればそれで良し」


 私は食事に関しては強いこだわりはなく、食べるものが美味しいと感じられればそれでいいと思っている。

 残っているものが著しく不味いものでは無ければ、私は余り物でも不服はないのだ。


「じゃあ、これかな……」


 特に迷うこともなく、肉野菜弁当を手に取る。

 単純に、塩味がするものが食べたいという気分だったからだ。


「いらっしゃいませー」


 女の子に弁当を手渡すと、目が冷めたのか、手際よくピッとバーコードを読み込ませ、レジの対応をしてくれる。


「お米の量はいかがいたしますか?」


 女の子が私に訊いてくる。

 お弁当のお米の枠は最初は空っぽで、レジの後ろにある炊飯器からよそう事で、初めて『お弁当』が完成する。

 量については、既に決まっていて――


「特盛り、おねがいします」

「はい、かしこまりました」


 女の子にお願いをして、お弁当がタプタプになるまでご飯をよそってもらう。

 一日経過した腹を満足させる為には、特盛りでないといけないのだ。


 女の子が予想姿を見ていると、何やら炊飯器の中身を気にしているようで――

 

「あの……申し訳ありません。新しいご飯を炊かなくてはいけないですので、ちょっと多めに入れてもいいですか?」

「えっ、ああ……大丈夫ですよ。むしろ、お願いします」

「はい、ありがとうございます」


 女の子は、既にタプタプになった弁当箱とは別の容器を取り出して、残ったご飯をかき集めるようにしてよそう。

 そういえば、あと数時間で早朝だから、朝のお客さん向けに作らないといけないのかな。


「ありがとうございます。ご飯特盛り、合計三百七十円になります」

「はい」


 女の子が言う。

 やっぱり安いなぁ……こんな田舎で潰れないか心配になるくらい。

 私にできる事といったら、せめて定期的に買い物をするくらいかな。


「ありがとうございましたー」


 そんなことを思いつつ、私は弁当と、サービスご飯が入ったレジ袋を片手にコンビニを後にする。

 外を出たら、また極寒の寒空だ。

 残念、数分程度じゃ気温は変わらないか。

 ふと、スマートフォンの時計を見てみる。

 

「はぁ……もう二時か。流石にそろそろ寝ないとな……」


 空腹で弁当を食べるというミッションをこなしつつ、明日は八時から担当さんとの打ち合わせがある。

 目覚まし時計に支障があれば、たちまちスケジュールが崩れてしまう可能性大だ。

 私は、気持ち早めで帰路を急ぐ。


 担当さんは同い年だけど、それを感じさせないように、怒る時はめっちゃ怒る。

 私はそれに純粋にビビっている。


「深夜まで仕事、夜に散歩、寝る前に大盛り弁当――そりゃあ、私から見ても女子力高くないと思う」


 自分でも、あまり健康的ではない生活をしているなあという自覚はある。

 面倒だけど、直したいなあという意欲はある。

 しかし、その意欲も宣言してから三年ほど経過した気がする。


 なぜなら――


「私、きっと夜が好きなんだろうな……」


 空を見上げて私は言う。

 今も変わらず、星空が輝いている。


 ――今日も私の町は変わっていない。

 それを目で見て安心すると、私はいつの間にか子供のようにスキップをしていた。


 深夜に子供がスキップしている。

 ここはそういう平和な町だ。



終わり

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