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第4話

 案内された先は何の変哲もない客間で、こぢんまりとしているがとても品のよい調度品で整えられていた。僕がリュックを下ろし、上着を脱いで、勧められるままに緑の革張りのソファに腰かけると、彼もまたテーブルを挟んだ向かいに座った。既に用意されていたカップから、湯気がやわらかに立ち上っている。周りを見回すが他に人の気配はなく、どうやら彼自身が淹れたらしかった。それからは、互いにしばらく黙ったままで紅茶を啜ったりなどしていたが、僕がくつろぎはじめたのを見計らったかのように彼は口を開いた。

 「改めてようこそ、ジェラルド。僕はダニエル。君の……叔父になるのかな」

 やはり彼は僕の叔父さんなのだ。僕は自己紹介も忘れて、呆けたように彼を見ていた。長身で細身、ネイビーの丸首セーターに綺麗な深緑色のパンツを合わせた出で立ちで、組まれた足からは品の良さが窺える。短く切りそろえられた金髪が父のそれとよく似ていた。

 と、ここで無遠慮な観察に気がついた彼は、慌てる僕の目を真っ直ぐ覗き込んだ。そして微笑みかけた。レンズの奥の細められた両目が、吸い込まれそうな妙な輝きを放っている。この瞬間に僕はすっかりこの不思議な男のとりこにされて、あとは彼が、

 「十一歳になったって聞いたけど」とか、

 「学校は楽しいかい」

 「悪いね、部屋、散らかってて」

 だとか、その他にもあれこれ訊くたびに、返す言葉もなくただ夢中で頷くだけだった。彼はおかしそうにくすくす笑って、それからこんな提案をした。

 「よかったら自由に見て回っておいで。家の中。ただし走り回らないこと、本以外のものには許可なしで触らないこと。それから、他の部屋には入らないこと」

 「ぜったい?」

 「絶対に」

 強く頷き返した僕に、叔父は「よし。行ってこい、小さな探検隊長殿」と笑った。よく笑うし、えくぼがチャーミングだな、とぼんやり思った。

 あちこちを探索した後で、また紅茶をごちそうになる。どうやら叔父のほうでも僕を気に入ってくれたらしくもっと話をしたがったが、生憎もう日は沈みかけていた。数時間はあっという間に過ぎていた。「またいつでもおいで」と声をかけてもらって、その日は帰った。

 こうしてすっかり懇意になったのだけれど、ダニエル叔父が何をしているのか、どうして急に故郷へ戻ってきたのか、ということに関して彼は一切教えてはくれなかったし、僕もそれでいいやと知らずにいた。ただ叔父が非常に優秀らしく、越してくる以前は何かの研究をしていたらしいこと、それから大分昔に亡くなったある大物歌手、以下Fとするが、そのF氏の愛用した品を幾つか所持していることは、親睦を深めるうちにわかってきていた。

 「叔父さん、こういうものの収集が趣味なの」

 いつだったかそう問うたことがあった。すると彼は紅茶を淹れながら、

 「趣味といえば趣味だけど。それが全てじゃないんだ、僕はね。実益もある、というか益の創出が目標さ」

 振り向いた叔父は、エキのソウシュツ、とオウム返しで目を瞬かせる僕を見て、また笑うのだ。


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