第1話
「ジェラルド・ドット」、つまり僕宛のその小包は火曜の午前中に配達員が届けに来たが、受け取りのサインを適当に済ませる最中も既にうんざりしていた。大方両親からの仕送りであろう。こういう世話焼きが煩わしくてわざわざ故郷から遠い大学を選びそのまま居ついているのに、未だに彼らに根付いた厄介な習慣というか習性は抜けないらしい。ありがたいと感じられる範疇の既に外にある。年齢的にも、程度としても。もういい加減二十五だぞ。だから放っておいた。大体二日ほど。弁明させてもらうとただ面倒だったというわけでなく、仕事も立て込んでいたのだ。
送られてきた未完成の原稿を多忙なその主に代わり執筆してメールで返すのが、現状僕が稼ぎを得ている手段で、これは所謂ゴーストライターってやつだ。稼げる額はまともだが随分と厳しい守秘義務が課されるし、まあ当然仕事としてはまともでなく感心されることはあまりないわけで、だから未だに独身で、親には「雑誌のライター」と説明してはいるものの相手は察しているのかやけに転職の是非を気にかけるし、アパートメントの管理人からも胡散臭がられている次第である。
話を戻すと、届いた小包についてなのだった。小包とは言うが意外と大きくてずっしりしている。少なくとも両の腕で抱えねばならないくらいには。伝票の差出人欄には流麗な筆記体で「D・D」とだけ書いてあって、これだけ達筆でかつイニシャルに該当する知人はちょっと思い浮かばない。だが確かに僕宛である。はて、と首をひねった。こんな物を寄越すのは、一体どこの誰だったっけ?
しばらく掃除していない床に箱を下ろすと、結構派手に埃が舞う。咳き込んでしまったけれどこれの始末はあと。一刻も早く中身を検めたい、という強い関心のみで僕の全身は今や占められていた、と言っても過言ではなかった。紙テープを伸びた爪で無理やり切断し、そこで一旦手を止めて呼吸を整える。三つ数えて、一息に開いた。