ひとり
「思い出したの?」
同じ質問を、看護師さんは問いかけてきた。
僕は黙って頷く。
「……そう」
看護師さんも静かに頷いて、そのあと何も言わずに退室した。
僕は泣いた。声を圧し殺して泣いた。
泣く権利なんてないのに。僕は菜々ちゃんを見捨てたんだ。あんなにも苦しんでいた菜々ちゃんを、ひとりでいかせた。
ひとりに、してしまった。
「僕は、どうしたら、いい?」
最後に菜々ちゃんは何を言っただろう。
そこだけもやがかかっている。
「もう一回教えてよ」
「目、覚ましてよ」
「菜々ちゃん」
ここで目覚めてくれれば感動的なシーンとなるのに、そんなできた話があるはずなかった。
面会時間ぎりぎりまで側にいたけれど、菜々ちゃんが目覚めることはなかった。
あれから、毎日病院に通っている。もちろん自分の診察ではなく、菜々ちゃんに会いに。
菜々ちゃんはかわらず眠ったままだ。
「さすがに寝すぎだよ?」
「夢でも見てるの?」
「そこに僕はいる?」
全部一人言になってしまう。
菜々ちゃんのせいで僕はすっかり怪しい人だ。
泣くことはなくなった。少しずつ現状を受け入れつつある。
菜々ちゃんから返事はないけれど、菜々ちゃんは眠っているだけだ。
上下する胸に安堵する。菜々ちゃんは、生きているのだから。
「僕さ、菜々ちゃんに伝えたいことがあるんだ」
生きていてくれるだけで充分。
そう言い聞かせてきたけれど、やっぱり正直なところ目を覚ましてほしいのが本音だ。
「菜々ちゃんが起きたら、また一緒に海に行こう?」
もう、間違えないから。




