忘れ物
検査入院中、いろんな人がお見舞いに来てくれた。学校の先生やクラスメート、近所のおばちゃんとか色々。たくさんの人に心配をかけてしまったようでなんだか申し訳ない気持ちになったけど、同時にこれだけの人が心配してくれたんだと温かくもなった。
ただ、やっぱり空虚感は消えなかったけれど。
すべての検査が終わり、身体に異常はなかったので案外すんなりと退院できた。退院後もすぐに学校に復帰した。
このまま学校生活を勤しんでいれば、この空虚感もいつかなくなるだろう。
そんな気持ちで過ごした。
それが一番いいと思ったんだ。
隠されていることも、知らないままでいよう。
何も意地悪で隠されているわけではないだろうから。僕のために、みんな隠しているはずだ。
そう言い聞かせて、僕は日常を再開したんだ。
だけど。
それも長くは続かなかった。
その日は、定期検診の日だった。
特に体調に変化はないけれど、念のためだと勧められるがままに病院に来ていた。
案の定、結果は異常なし。欠伸をしながら病院を出たときだった。
「あれ、優紀?」
「あかね?」
同じクラスの吉川あかねだった。
あかねは風邪を引いたのだと、少し掠れた声で教えてくれた。
「あかね、身体弱そうだもんなー」
「別に軟弱ちがうし。てか優紀こそ、なんで?菜々ちゃんのこと?」
それは、聞いたことのない名前だった。
「…菜々ちゃん?」
「え…。あー、うん、そっか…」
急に歯切れの悪くなったあかねに、僕の心臓が騒ぎだした。薄れつつあった空虚感が、警報音を立てて戻ってきた。
それは、知っている名前だった。
「僕の、忘れちゃった記憶の中にある人だよね?」
「…うん。ごめん」
「謝らないで。むしろ感謝してる」
名前を聞いただけで、こんなにも僕の気持ちを揺さぶっている。不快ではない。なぜかほっとした。
あかねはそれを与えてくれたんだ。
「そっか。僕、大切なこと忘れてるんだね」
「優紀…」
「ありがとう、あかね。ちゃんと向き合うよ」
「記憶のこと聞いてたけど、菜々ちゃんのことだって知らなかった」
「その菜々ちゃんって、今どこにいるかわかる?」
「それは……」
あかねが見た先、それは僕がさっきまでいた場所だった。




