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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/23 懸命せよ、強者の希求


 ――高まっていく緊張感。ぞくりと走るのは高揚による武者震いだ。

 さっきまで、和やかとはいかずとも落ち着いて、話をしていたのに。

 私の内心に浮かぶ言葉は間がぬけたものばかりだったのに。

 馬鹿馬鹿しさは、霧散した。

 変わった空気は、重く鋭く、熱い。


 踏み出したのは、どちらだろう。


 一瞬だ。何もかもが。弾いた指先、奔ったのは炎。揺らめいたのは氷塊。

 この世界の魔術に『呪文』というものは実は必要ないと割と初期に私は気付いた。言霊はあくまで補助で指針。――前世で見た数々の映像からヒントを得る私には好都合だ。


 さあ、焼き尽くせ。


 私が投げた疑似太陽ともいえる巨大な火球に、エイヴァの発した氷山がぶつかった。

 爆発、豪風。四肢が吹っ飛びそうな感覚、真っ白な蒸気が散っていく。


 その間に、周囲に巨大な結界を展開。この結界、私とエイヴァを完全に包囲。お前はもう逃げられない。

 まあ正しくは私たちがぶつかり合ったら、軽く地形が変わるからです。国王にはちょっと荒地を不毛の地に変えてくるけどいいよねって言質取ってるけど、まあ一応。良心的な破壊犯なので。


 ともかくそんな私に次に飛んできたのは数百もの小さな雷の槍。紛れて風の刃。さすが私と同じ全属性。多彩だ。

 左手をひと薙ぎ、石槍で相殺。


 立ち止まりはしない。目の前にいるのは見境のない変態と言う名の師匠連ではなく快楽主義者の魔なのだ。隙を見せれば殺しに来る。師匠連もわりと高確率で急所狙ってくるけど。

 ともあれ。


「くっ」


 押して押される魔力の量に空気が悲鳴を上げるように高く鳴った。脳髄に響くそれに声が、どちらからともなく漏れる。

 亜空間から剣を取り出す。私の愛剣。日本刀によく似た片刃は漆黒。さらに黒炎を纏わせる。炎熱で不毛の大地がさらに削れる。人なら、触れれば即死の業火。


 でも爆発の黒煙と水蒸気の白煙の中光る透色の瞳は炯々としていた。


「はははっ」


 その口から、笑いが漏れる。紛う事なき戦闘凶である。

 彼の手にも、知らぬ間に現れていたのは、氷。


 炎を纏った私の刀。凍てつく冷気のエイヴァの刃。喉笛を掻っ捌くように一閃すれば甲高い音。震える大気、鍔迫り合い。水蒸気を凍てつかせ極小の氷の刃で襲わせる。雷撃でエイヴァが相殺、けたたましい雷鳴から飛び込んできたエイヴァの剣をはじきあげて体勢を低く、背後に回って足元を狙うが土壁が私の足場を崩す。頭上から降る炎の龍を剣圧で叩き臥せ重力場を弄る。が、エイヴァはすでに中空、空を覆う真っ赤な溶岩の群れ、瓦礫の全てを氷で連結、溶岩を飲み込みあがった水蒸気を伝って雷撃。


「あはははっ」


 手ごたえに、私の口からも、笑いが零れる。


 私もエイヴァも全属性を操る者同士。その魔力はどちらがどちらかもわからない。マジ分からない。本能と反射と悦楽と興奮。


 雷がエイヴァの体を貫く。が、土が纏わりついて私の動きを阻害する。光線、目晦まし。抜け出た瞬間襲い来る闇。しかしその没視界は意味がない。感覚は鋭敏。重力を歪ませる。崩れる足場、天と地の反転。空中を蹴って刃を交え急所を狙い、弾き、回避し。


 火と水と雷と土の龍が舞う。爆炎に土煙。耳はとっくに許容量を超えてそれでも些細な違和感を拾い上げる。一つ掠れば致命傷。


 轟音と共に大地が抉れた。


「「あはははははははははははっ!」」


 笑い声が反響。

 ――ああ、歓喜だ。力に力をもって争えることへの、悦び。

 そして狂気。持て余した巨大な秘めたるものの解放。


 風圧で裂けた皮膚から噴き出す鮮血、ねじ切れるような重力と粉砕される骨、やけど、刺し傷、凍った皮膚。それが気にならないのだから大概だ。それだけ負傷してる分際でまだまだ元気なんだけど、元気だからこそ多分大丈夫じゃない。主に頭が。


 ただ攻撃と同時に治癒も行うのはもう癖で、手加減遠慮斟酌いらない攻防が、なんかもうめっちゃ解放感。


 何度も何度も、刀で打ち合う。槍が飛び道具が魔力が。飛び交い交差し火花を散らし相殺され。

 全てを破壊しつくしてゆく。もう、どこが屋敷跡だったかもわからない。負傷した端から完治していくおきあがりこぼしの如き私とエイヴァより土地へのダメージが尋常じゃない。これは誇張でなく不毛の大地が完成するかもしれない。まあタロラード公爵領は元王領だし公爵がエイヴァと手を組んだ時点でこの辺はただの魔物の生息域だからまあいいや。


 とめどない破壊。むしろ止める気のない破壊。

 殺戮本能。闘争本能。

 やべえ楽しい。


 智略を巡らせるのも、裏を掻くのも、他人を陥れるのも、楽しかった。前世でも今世でも悪友にも同類にも声を揃て『外道』と言われたが楽しかったのは事実だ。

 でもこうして、力の限り戦うことも、どこかでずっと望んでいた。


 ――だって、私は……


 私は私の生きたい道を行く。

 ただ、信じる道を行く。誰かに罵られても文句を言われても知ったことではない。大切なものだけ、護りぬく。

 それが、私だから。

 この力を自分のために使おう。私の世界を護る為に使おう。


 そのために、この国を陥れようとして、その上人の命を弄びいろいろとやらかしまくったあの『魔』は私の道の障害物だ。そこを退け。退かないのならばよろしい、力づくだ。


 ずっと、楽しみだったんだよ。

 ――期待を裏切ってくれるなよ。

 まだまだこんなもんじゃない。


 楽しんで、踊ろうか!










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