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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/22 狂気を飼い慣らす非日常に


 纏う色彩は白だ。

 絹のように輝く白髪は腰まで伸びて、風に揺れるさますら麗しい。

 透度の高い瞳は完璧な形でその小さく白い顔に配置されて、まるで作り物のようだ。

 精巧なお人形。そんな形容詞がよく似合う。精悍さなどは感じない、繊細な美貌。ともすれば女性にも見えるだろう。ただ、体躯は男性のそれだ。


 完成された芸術品のような。非現実感。


「――正反対ね」


 思わず、呟く。

 そう、びっくりするほどに正反対なのだ、男――『魔』たるエイヴァと、私の纏う色彩は。そりゃ『物語』情報で知ってたけど百聞は一見に如かずを超実感してる。


 なんでだ。


 目の前に本当に存在することが不思議なほどに、伝説上の存在である。お伽噺に出てくる悪役(ヒール)。私にとっては、かつて本当に、ただの物語上の存在であった彼。まあめっちゃ実在していて暗躍していて私の邪魔をしてくるクソ野郎だけど。


 漆黒の髪と純白の髪。

 アメジストの瞳と透光の瞳。


 まるで正反対の美しい、一対の幻想のよう。そして配色から言うと私が悪役(ヒール)だ。私が悪か。お前が正義か。そんなわけなかった。……勿論逆もないが。

 強いて言うならどっちも自分勝手の自由主義者だ。悪辣な笑みが似合いすぎる。


 うむと頷いた私、ふわりと髪を揺らしたエイヴァ。


「……正反対か? ……我は、よく似ていると、そう思うが」


 どの面下げて言うのだろう。確かに私も絶世の美少女だしお人形さんみたいねなんてよく言われる身ではあるけれど、色彩が超自己主張してくる私はどっちかと言うとほら、アニメキャラ的な、二次元の美少女なの。そして目の前の白い『魔』はガチの人形。急に生物として動き出すと驚くレベル。できればそのまま観賞用であってほしい。


 ああホント、喋りも動きもしなかったら飾っておきたいくらい完成度高いのに。……あれ? でも私、そう言えば国王から割と心底『お前、黙ってじっと座ってればただのすごい美少女なのにな』って言われてる。ついでに前世悪友からも『黙ってピクリとも動かないで。ただの非現実美人の完成だわ』って言われたけど。彼女は私を何だと思っていたのだろうか。


 うん? 動くと周りがビビる、人形染みた美貌。まさかの私の認識違い。エイヴァの発言が的を射ている可能性について。でもほら、私の場合は動くとはっちゃけた性格があらわになるっていう意味であって。エイヴァみたいな残忍さは……あるな。あったわ。嬉々として魔物の軍勢を虐殺したのが私だったわ。


 いや、話がそれた。

 なんだっけ。

 そう、エイヴァの発言。私と奴は、正反対どころかよく似ている、と。


 その声も、腰砕けになりそうなほど艶めいたもので。

 なんという性犯罪者まっしぐら。

 幼女から熟女どころか老若男女全部やられる。一部視界の暴力だが。


 いろんな意味で犯罪である。


 思わず、戦いに向かって高揚していた気分から一転、胡乱な目になった私。だってー、この場面でー、色気垂れ流した性犯罪者予備軍とかー、超場違いじゃないですかー。


 なんでここまで色気ダダ漏れ? 押さえろよ。ここをどこだと思っているんだ。見渡す限りの焼け野原なんだけど。破壊の限りを尽くしたかのような屋敷跡に、二人で立ってるんだけど。

 別荘とか避暑地とかそんな面影欠片も潰えて、空すら煙がくすぶって視界はとっても黒いし。風が強いのでどんどん飛んでいくのに、どんどんわいてくる黒煙。ここは何処の世界の終わりでしょうか。


 白髪透目の色気ダダ漏れ美男子に黒髪紫目の美少女in焼け野原。


 この光景、何かが間違っている。どうしてこうなった。

 しかし、犯人は私だ。目の前の魔ではなく、私だ。私が破壊しました!

 ……。………。


 ともかく。


「……そうね。見た目の色彩は真逆でも、私とあなたは確かに共通している部分もあるわね」


 主に思い切りが良くて普通じゃないところが。


 場違い感にはそっと目をつぶって、ははっと私は笑った。するとエイヴァは面白そうに、あごに指をからませて私を見る。そこはかとなく苛立ったのでその長い指を反対方向にぽきっと折りたい。思いつつ見返せば、彼は尋ねてきた。


「……度胸のある娘だな。久々に、面白い。……名は?」


 根本的な質問だった。

 やだ、報連相出来ていない事実がここに。タロラード公爵よ伝えておいてあげて。それともあれ? 伝えたけどエイヴァが聞いてなかったの? そんな感じする、だってこの『魔』適当そうだもん。


「――シャーロット・ランスリー。……名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものでしょう?」


 ふっと笑って言ってやれば、彼は眉をくいと上げた。


「シャーロット。……そう言えば、あの愚か者が何とか言っていたか」


 やっぱ言ってたんじゃねえか。聞いといてやれよ。私と公爵のために覚えておけよ。てか一応仮にも協力関係にあった人間を『愚か者』呼ばわりとはわかっちゃいたが友情のかけらもない。なぜそれで公爵はエイヴァを『友人』と称せたのか。勇気がいっぱいなのか。思いつつ、ジト目で見れば、さらに彼は口を歪めて。


「……ふふ、面白いな。ああ、我の名はエイヴァだ。……聞いたことくらいは、あるだろう?」


 そりゃありまくりですよ。それこそ前世から。執念深いだろ?

 とりあえずこくりと頷きを返しておく。


「もちろん。貴方に逢うために、私はここまで来たのよ?」


 しっかり視線を合わせ、吹きつける風の中不敵に笑った。

 ――空気が変わる。


「……お前、今まで随分と、我の遊びの邪魔をしてくれたらしい。目障りで、腹の立つ存在とあの愚か者が言っていた。……だが、」


 楽しそうに、エイヴァが言う。

 その眼に浮かぶのは堪えようともしない愉悦だ。



「強いな」



 ああ、心底、楽しそう。

 私の目にも、同じ感情が浮かんでいることだろうけど。

 そうだ、私たちは、エイヴァの言う通り、色彩こそ正反対だけど、確かな共通点がある。どうしようもなくて普段は自覚しているかすら怪しいけれど確実にくすぶっていたそれ。


 ――その瞳に浮かべる狂喜の色。そこに浮かぶ闘争本能、殺戮本能。

 今この場で、戦えるという事に高揚していくその(さが)


「あなたも、―――強いわね」


 あっはは、嫌になるくらいよく似ている。空気を探って敏感に反応をする。力量は今まで出会った誰よりも上。そりゃそうだ、ラスボス染みた最古の『魔』が目の前の美青年。普通ならビビるし逃げるし逃げても死ぬし、一人で立ち向かうとか猟奇的な自殺でしかない。


 ……でも、私も、強いんだよね。







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