表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
95/661

3/19 今はまだ、ここで(エルシオ視点)


 ――怖い。


 何が怖いって、シャロンがいったい何をやらかすのかが怖い。怖すぎる。


 むしろすでにやらかしているんだろうか。やらかしてしまったからの現状だったりするんだろうか。怖い。


 ……考えても見てほしい。

 不可解に僕を遠ざけた義姉。とても楽しそうに裏口から出て行った義姉。タロラード公爵邸についた時、輝く笑顔でサムズアップし、邸に入って行ったという義姉。


 なんでそんなあからさまによからぬことを企んでいるの。

 そしてランスリー邸ではシャロンが帰ってこなかった時点で全員集合、円陣を組んだ。そして聞いた。


「シャロン()何かあったと思う人」


 静かだった。


「シャロン()何かやったと思う人」


 ばっと全員挙手をした。一糸乱れぬ動きと真顔だった。全員の脳裏に浮かんでいたのはサムズアップする輝く笑顔のシャロンだっただろう。だって僕の脳裏にも浮かんだもん。

 満場一致で『シャロンが何かをやらかす』は確定事項だった。


 でも何をやらかすのかはわからなかった。だから報連相は大事だと思うんだけどオープンが過ぎてぐいぐいくる積極的社交性を持っているくせに秘密主義者でもあって教えてくれないことは頑として教えてくれないのがシャロンだった。本気で何をやらかすつもりなの。


 なお、彼女の中に存在する物事の基準は常識から大分メモリがずれてるのでこうなったらだめだ。何が駄目かもわからないくらいにはもうだめだ。


 怖い。

 すごく怖い。

 何が怖いってシャロンが怖い。もうその存在が怖い。

 何を案じているかって彼女がいったい何をやらかすつもりなのかを案じている。巻き込まれる周囲には憐憫しかない。あと多分国王陛下も巻き込まれてる。だってちょっと前にいい笑顔で『ちょっと国王をシメてくるわね』って出て行ったことあるもん。御愁傷さまです。


 しかしだからと言ってシャロンの頭の中にあるシナリオは聞かされていないので、僕たちがどうすればいいのかと言うとどうすることもできないという事実だけが残っている。

 下手に騒ぐこともできないというのが全員一致の意見だ。ここまで反対意見が出ないなんてシャロンという存在への信頼度が分厚くて歪みない。


 なお、シャロンがやらかしたという全員一致の決を採った後の議論は。


「これからどうしたらいいと思う? 僕はいつも通り勉強と鍛錬と仕事をするよ」

「わたくしは仕事をいたします」

「私も仕事をいたします」

「私はシャロンお嬢様のためにお菓子を用意します」

「私はシャロンお嬢様の楽しみにしておられる焔の祭りの準備を行います」

「私は筋肉と語る! きっとこの熱い思いがシャロン様にも届く! 見よ!」

「わたくしはエルシオ様とシャロン様の視察の準備をしなくては」

「ほほっ、ほほっ。魔術……魔術ですじゃ……ふほほほほほごっほごほっ」

「わたくしは商会の新商品の統計を取ろうかと」


 通常運転だった。なんで決意表明みたいに宣言するの。議論にもならない。そして宣言通りを実行する、それがランスリー公爵家の人々だった。僕もその一員だけど。


 ――ただ。


 あんまりにも、シャロンが楽しそうで。よからぬことを企んでいる顔をしていて。笑顔が輝いていたから。

 どこか、不穏な空気を感じなかったと言えば、嘘になるんだろう。

 シャロンは何処までも強くて、規格外で、というか殆ど人外染みている。負けなどない。想像ができない。彼女は多分世界を笑顔で滅ぼせる。


 信頼はしている。シャロンは、帰ってくる。帰ってきてくれる。

 ――でも。


 でも、だ。


 あの人はとても優しくて残酷で、ずるい人。

 心配しないわけではなくて。不安が、まったくないわけではなくて。

 彼女のことが大切なのだ。

 いつかどこかへ消えて、帰ってこなくなりそうだとどこかで思っているから、余計に。何処にもいかないでほしいと思うのだ。


 ああ、怖い。

 ――僕の役目は、貴方のいない屋敷を護ること。

 混乱なく、間違いなく。

 此処にいる、という事。

 あなたをさがすことではなく。

 あなたを案じることでもなく。

 そんなことは判っているけど。


 ――ねえ。


 シャロン。

 シャロン。

 シャロン。


 帰ってくるでしょう?

 いなくなったりなんてしないでしょう?

 置いて行ったりなんて、しないよね?


 不安の根源はぬぐいきれない恐怖だ。

 判ってる。

 寄りかかっていると、こんな時痛いくらいに自覚する。


 信じている。どうしようもなく信じてしまう強さがあって、でも。

 ……帰ってきてね。わがままを、言いたい気分なんだよ。

 待っているから。

 ちゃんと、ここを護るから。

 











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ