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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/18 貴方がいない(エルシオ視点)


「……シャロン……」


 焦燥から、思わずつぶやく。

 無意味とわかっていながらもじっとしていられなくて、ひたすら部屋の中を僕は歩き回っていた。

 僕の義姉・シャーロット・ランスリーが姿を消して、二日がたった。


 ……二日前の、とある茶会。


 今まで何の接点もなかったはずの、王弟公爵・クラウシオ・タロラード様が主催で、その趣旨は特に突出した魔術の才能を持つ子供の交流会であった……らしい。実は毎年恒例で、どこかの高位貴族が持ちまわりで主催する会なのだそうだ。義姉はもちろん何度かいったことがあるはずだ。


 本来なら、今回は僕も行くはずであったと思う。まあ昨年まで……アッケンバーグ伯爵家にいた頃は僕は魔術を行使できなかったし家族ともかかわりが薄かったから、その茶会の存在自体を知らなかったのだけれど。ちなみに知ったのは三日前だ。つまりシャロンがその茶会に出向いた日だ。「らしい」、や「だそうだ」、と伝聞系が多いのはその所為である。だってシャロンも教えてくれないんだもの。徹底してた。教師と使用人の皆もさりげなく口止めしてた。その執念は何なの。


 ……ともかく、そもそも義姉とはいえシャロンと僕は同い年。僕は公爵家の跡取りとなっているし、魔術もここ一年でそれなりに使用できるようになっている。招待される条件としては十分で、むしろ義姉が招かれて僕が招かれていないというのが可笑しいくらいだ、と一昨日メリィに言われた。「ふふふ、あのお方は全くもう」とか言っているメリィの目はどこか遠くを見ていた。大丈夫だろうか。


 ともあれ、もう一つ言うのなら義姉が希代の魔術師で、その能力が常軌を逸していることはわかっているし周知の事実だけれども、その実態がいかほどのものかは、実際それほど知れ渡ってはいない、ということだろうか。


 なぜなら義姉は楽しそうに自分自身に関する情報統制をも徹底しているからだ。だからその執念は何なの。せめて真剣にやってくれないかな、だまくらかされていく人たちが可哀想でならない。その裏でシャロンの笑顔は輝いているのに。


 いや、まあつまりみんなしてシャロンの可憐さに騙されてころりと転がされているものだから魔術師姉弟としてここ最近注目されている僕たちの、『義姉だけ』を招く理由がそこにはない。


 きっと招待状には僕の名前も載っていたはずだ。そうでなければ不自然だからだ。逆に言えば、それなのに僕が茶会に赴いていないのはほかならぬシャロンが判断したからなのだ。


『エルはお留守番よ』と。


 ぶっちゃけ裏口からこっそり出ていこうとしていたシャロンを捕まえた結果飛び出てきた言葉なんだけど。


 何で裏口から出ていこうとするの。後ろめたいことがあるの。ていうか一人で勝手にどこかに行くなんてなんか嫌だから僕も行く。


 そう主張した僕はしっかりシャロンの服の裾をつまんでいた。逃がさないという思いがこもっていた。

 ――ああでも、今となっては、こうなること(・・・・・・)を予測していたから来るなと、そう言ったのだろう、あの奔放な人は。


 というか、今回のことを僕には全く知らせる気がなかったに違いない。

 なぜなら裏口から出ていく彼女は最高に楽しそうだったが口は一切割らなかった。何処の茶会に行ったか僕が今知っているのは、シャロンが帰らなかったその日の夜に乾いた声のメリィから聞いたからだ。


 なお、


「――じゃあ、行ってくるから、いい子で待っててね、お土産は見繕ってくるよ!」


 これが捨て台詞だった。ちょっと遠出するお母さんみたいなこと言い出したなあとジト目をして見送ってしまったのを覚えている。そしてその後思ったのだ。


 ……いやいやいやいや。何処に行こうというのだこの義姉は?

 お土産はいらないので、いや出来ればあったらうれしいけれどもそうではなく。報連相が重要だと思うんだ、家族なら。


 しかしすでに裏口はもぬけの殻。見事な脱出だった。


 ちなみに共も連れない奔放ぶりだ。彼女は本当に公爵令嬢だろうか。いつもの事ではあるけれど。

 そう、とっぴな義姉は外出する時共をほとんど連れて行かない。大体自分でできる上にフットワークが軽々しすぎる彼女にとってはあまりにいつものことで最近はメリィも諦めるくらいにいつもの事ではある。しかし今回は連れて行ってほしかった。だって同格の公爵家に招かれているというのに令嬢が一人で突撃して行くとか。


 馬車だからさすがに御者はいた、しかし従者も侍女もつけていなかった。

 それでも何とでもなると思っているうえに実際なんとでもするのがあの義姉である。自由すぎる。


 ――だがその結果がこれとはやはりもっと食い下がるべきだったと今更後悔をしている自分は阿呆なのだろう。


 帰ってきたのはからっぽの馬車と御者だけだ。

 いったい、何が起こっているのか。あまりにも情報が少なかった。

 御者にも問い詰めたが、なぜかかなり混乱していて要領を得なかった。義姉が教育した優秀な御者だというのにだ。


 これまで、義姉が家を空けることはたびたびあったけれども、本気で、まったく、誰にも何にも告げずにいなくなるという事はなかった。

 何も言わない場合は、誰にもばれないうちに帰ってきていたらしいし。


 本当に、どうして今回に限ってはこんな。


 ――さりげなく問い合わせた茶会自体では、体調不良で早めに帰還したという事になっていて、そこからの足取りがさっぱりつかめない状態だ。

 もちろん、あの義姉が体調不良などあり得ない。

 一考する価値もない。天地がひっくり返ってもあり得ない、それだけだ。


 けれども何の違和感もなくタロラード公爵邸ではそう処理されていて、疑うべき余地もほころびも見つからない。

 他の出席者も、何も疑問に思っていないようだ。義姉の容姿はひどく目立つはずだが、不自然に消えたであろう彼女の動向について誰も何も疑問に思っていない様が、不気味だった。


 不安で、不気味で。

 ――怖い。










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