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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/16 彼が切り捨てた全てと


 眉間に渓谷を作り繊細な美貌を歪ませるタロラード公爵。

 私は挑発的に、鼻で笑う。


「『あなたの計画』? 馬鹿馬鹿しいですわね。魔たるものに踊らされてただけでしょう? あなた自身は、何にも持ってなどいないでしょうに」


 言えば、ピクリと肩を震わせた。


「……愚弄する気か。小娘ごときに、何がわかる?」

「愚問ですわ、分られたくもないのでしょう」


 にっこり笑う。大きく公爵の顔がゆがんだ。

 ああ、美形はどんな顔をしても美形というけど、さすがにこれを美しいとは思わない。

 醜悪で、頑なで。

 ……なんて、愚かなんだろう。


「生意気な。状況がわかっていないのか? こんなところまでのこのこついてきて、しょせんはのぼせ上がった小娘か」


 声が少しずつ強くなる。

 こちらを睨みつける視線は鋭い。

 私は笑みを深めた。

 冷たい冷たい、笑みを。


「のぼせ上がってるのはお互い様でしょう。……公爵さま、貴方様は目的のためなら何をしてもいいとでも思っているのですか?」


 私は、不愉快なんだよ、とてもとても。

 だからこの場を待っていた。ずっと。正面からやりあいたかった。

 楽しいよ。正面からたたきつぶすのが、一番楽しい。


 笑えるくらいに不愉快なんだ。


 魔石が新しく置かれるたびに、流された血がある。奪われた命がある。

 陣を完成させないために、魔石を壊して回った。そのたびに修復されていくそれにどれだけ歯ぎしりを隠しただろう。太古の魔たるエイヴァの『遊び』のために、弄ばれた命だってあるのだ。


 ……タロラード公爵の境遇を哀れと思わないのかと言われればノーだと答えるだろう。比べられ敗北し、最愛の人を失った。劣等感と喪失。誰かを怨み何かを呪いたくなることだってあるだろう。


 だがそんなものは自己完結してくれ。巻き込むな。そんな権利はお前にない。


 死んだ人は、帰らない。


 これは『物語』。でも、現実だ。

 たった一人の狂気のために、壊されていいものではない。


 でもいとも簡単に、馬鹿みたいに、何の価値もないもののように、彼は壊して回った。自暴自棄になって周囲を巻き込んで自分も壊れようとしている。

 ああふざけろよ?


「正論を吐くな。綺麗ごとをいうな。お前だって醜く汚い私欲で動いているのだろうに」


 タロラード公爵は、哄笑をあげる。

 私欲で動く。そうだよ。私は勝手だ。自分の望みの為には手段を選ばないと豪語している。

 それはこの怒りさえも。


 傲慢? 身勝手? 私だって他人を陥れているだろうって? なんとでも言えばいい。

 私の矜持が彼を許さないだけなのだから。


 冷えた怒りと歪んた微笑み。私と公爵の表情は、先ほどまでとは入れ替わっていた。


「欲は誰でも存在するもの。それを責められはしませんわ。他人を巻き込むことだってあるでしょう。ですが命はあがなえないのですよ」


 私は確かに他人を巻き込み教育的指導をすることだってある。罪を突き付け司法に突き出し、精神的に苛むことだってある。

 でもそれは短慮じゃない。自棄でもない。


 自分が奪った命や他人の人生を背負う覚悟もないくせに同列に並ぼうとするな。虫唾が走る。


 睥睨する。でも公爵は炯々と目を光らせて。


「ああ、知っているとも。命が贖えないことなど、よく知っている。誰より知っている。だからこそ、……だからこそ」


 にい、と嗤う。

 私は感情の、全てを殺す。

 彼は言った。


「全部、壊したい」


 子どものような、無邪気さで。

 それは純粋さとは程遠いのに。


 ――ああ。どうしようもなく狂っているのだ、彼は。

 きっと、もうずっと昔から。












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