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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/15 驕る者たちの共演は


 広い広い屋敷の、誰もいない小さな部屋。

 それが私が通された場所だった。


 なんて言うか、アレだ、隠し部屋的な。実はうちにもいくつかある。その部屋は私以外マジで誰も知らないやつもあったりする。人に聞かれたくないとか見られたくない時に利用するやつだけど。おそらくここも、そうだろう。


 さてそんなところに私を連れ込んで何を『見せたい』というのか。


 出口を確認。ドアは一つだけ。窓はなし。人の気配も、今のところはない。

 やっと巡ってきた機会に、気分は高揚する。此処までついてきたのは私の意志。

 警戒はする。演技も忘れない。私は女優なのよ。


 それはともかく階段をいくつか降りたから、ここは地下だ。閉塞的な空間に、頼りなげに蝋燭の火が揺れている。……何処からか緩い風が吹いている。


「……私に見せたいものとは何ですか、タロラード公爵さま」


 何もわかっていないかのように小首をかしげて、私は問うた。

 するとおもむろに、公爵は振り向く。


「……ふん」


 冷たく鼻で笑ったその表情は、先ほどまでの愛想などかけらも浮かんでいなかった。


「三文芝居はやめることだ。……反吐が出る」


 頼りなげな仮面を脱ぎ捨てた公爵はそう吐き捨てる。

 やだ、見事な豹変ですこと。

 私並みの変わり身である。朗らかな猫かぶりからのごみを見るかのような低い声音。完璧だ。


 王族ってそういう才能があるの? あなたのお兄さんといい甥御さんといい……脱ぎ捨て方が華麗すぎる。


 何にせよ公爵の不快指数は限界を突破しているようだ。なんというお互い様。


 だからこそここが、彼と私の正念場。

 だからこそ私も猫を野に放し、メリィに叱られるどころじゃないレベルでにいいいいっと笑った。


 エルのトラウマ矯正事件以来の悪役面再びである。


「あらあらひどいですわ。せっかく苦労して調べ上げたのですよ? ほめて頂きたいわあ」


 うふふふ、今度は上品に口元に手を当てて笑う。


 ああ、楽しいなあ。

 仕方ないね。


「……貴様は、どこまで知っている?」


 でも公爵さまはあくまで冷静を装う。眉間には深い深い渓谷ができてるけど。そんなに眉を寄せたら皺になると思います。


「あら直球ですのね。もっと会話を楽しみましょう?」

「下らない。さっさと吐け」


 バッサリである。ええ下らないですとも。そんなことは判っているが、これがきっと、彼と私の最後の機会だ。

 だからこそ、好き勝手に振る舞わせてもらう。それでこそ私。


「無粋なひとですわね? まあ、構いませんわ。私が知っていることは全部ですしね」


 ふふ、と笑って目を細めた。

 公爵は静かに、闇を孕んだ瞳で私を見つめる。


「……」


 無言に浮かぶのは苛立ちか、計算か。

 まあいい。手札を切ろう。


「――そうそう。最近愉快犯な人外と仲良しのようですわね? そのお友達と一緒に東西南北、御旅行にお忙しいとうかがっておりますわ? うふふふふ、それにしても、不思議ですわねえ、公爵さまからつかず離れず行方不明者が続出してるという情報も聞いておりますの。恐ろしいことですわ……それなのにご旅行なんて勇気がおありですわね?」


 大事なのは輝く笑顔だ。

 私は全てを、知っていると。

 あなたの罪も愚行も、その犠牲も。

 防げなかったからこそ、容赦なく切り込む。罪悪感はこの場では要らない。攻めるのみだ。


 テンションは高く。

 楽しげに。


「ほかにも王宮内でこそこそ帳簿弄っておられますわね? 『魔』への供物と称した犠牲も結構なものだとか? エルシオの誘拐事件に留まらず、近年国内で起きている怪奇事件は魔への捧げものなのでしょう」


 傲慢が過ぎるよ、クラウシオ・タロラード。

 畳み込めば、公爵は口元を歪めて呟く。


「……やはり、貴様か。私の計画を、邪魔していたのは」


 もちろん。ちゃんと気づいてくれて、嬉しいよ。

 私は不敵に笑った。








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