表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第一章 貴人の掌
9/661

1/1 美少女は立ち上がった


 記憶を取り戻してから、一年がたった。季節は春。

 十歳になった私は現在、邸の中で優雅に紅茶を飲みながら本を読んでいる。


「……あら、美味しい。また腕を上げたわね」

「恐れ入ります!」


 一口含んで笑みを浮かべれば、深々と紅茶を淹れた侍女が頭を下げた。その頬が心なしか上気している。ああかわいい。



 ――あれから。唐突に性格の変わった私、予想たがわず、屋敷は一時阿鼻叫喚。まさに地獄絵図。悲鳴を上げる侍女とメイド、号泣し謝罪を繰り返す執事と下働き、ひたすら震えて固まる料理人。


 断言しておくがシャーロット・ランスリーは化け物ではありません。


 やめて、発狂しないで、泣きたくなるだろう。

 泣かないけれども!


 ……まあ、自業自得という言葉が頭上を乱舞するからこれ以上は言及しない。藪蛇である。黒歴史よ過去に眠れ。二度と浮上するな。


 なお、心配したとおり、医者が呼ばれかけました。

 そして全力で拒否しました。

 子供の特権を駆使した私は神がかった演技だったと思う。


 必殺、涙目上目づかい。


 ふっ、どれだけ性格が内弁慶で破綻していようと腐っても貴族。その中でも私の顔は極上ものなのだ。艶やかな射干玉の黒髪に、こぼれんばかりに大きい宝石のような紫の瞳。白皙の肌は染み一つなく、通った鼻筋に形のいい唇。思えば両親も美男美女。遺伝って素晴らしい。


 可愛らしい女の子が涙目で、『父様と母様がいなくなって寂しいの……今までごめんね……』って縋ってくる光景を想像してほしい。


 どんなわがままお嬢様であったとしても、どれほど恐れられていたとしても、見た目は武器。


 そもそも本当にラブラブ親子ではあったのだ。正直前世の記憶が戻ってからそれほど両親が全てという世界観の持ち主ではなくなっているが、別に彼等への愛情が薄れたわけではない。だからまあ、彼らを一気に失ったことで精神的にショックを受けて改心しましたという方便が成り立つ。半年放心期間があったのも、階段から落ちて奇声を上げたのも思いのほかいい方向に作用した。まあ、最も近くで私に接していた侍女・メリィの雇用が放心期間に入る前三か月という短さだったのも幸いしたのだろう。


 さすがに最初は訝しがられたが、正真正銘見た目は幼く、両親を亡くして傷心中、領主代理に家を乗っ取られて放置されている薄幸の美少女。


 使用人の中の私のイメージを大幅改善に成功。人心掌握。


 最初は同情でもその後の私の使用人さんたちへの対応はきめ細かで丁寧を心がけた。領主代理という駄目の見本のような比較対象が別にいたのもよかった。純粋な使用人さんたちは思った以上に早くしっかり私の味方に。脱四面楚歌。


 前世云々を言っていないだけで別に嘘はついていない私。罪悪感などない。なぜならば新生・私はこれから全力で使用人さんたちを大事にする所存だからだ。


 まあそれはいいとして。


 屋敷内を掌握すれば、次に私が目を向けたのは領地だ。


 そう、いくら使用人からの待遇が良くなったとしても、領地の経営は思わしくないままだ。端的に言って荒れまくっていた。不満のブリザードで凍りつきそうな荒廃ぶりだった。


 あの豚ペテン領主代理殿のおかげで。


 私としては、領地が荒れているのは非常に困る。現実的な話をするならばダイレクトに生活にかかわる。かつ、要らない怨みを買いたくない。


 ていうか、私の両親はまともな貴族であったと言ったと思うが、そもそも『ランスリー公爵家』とは魔術特化の家系なのだ。つまり『公爵』という地位はその内包せし能力と魔術師としての武功が大きく関係する。


 それは、私の父も例には漏れない。だからけっして彼らを最善の領主であったとは言わない。


 ……だが、今までの『シャーロット・ランスリー』としての記憶を探った限り、最悪の領主でもないはずだ。この国の国王は豚領主を送ってきた間抜け野郎だが、基本的には敏腕として名をはせている。時にポカをやらかすだけだ。今回の失態はでかすぎるポカにつき影の支配者と噂される王妃殿下にでもシメられればいいと思う。最終的に私も加勢する。


 ともかく。


 そんな国王の治める国で、一応仮にも最高貴族として今までやってきたのだ、我が両親は。魔力という武器でのし上がってきた家であるとしても、領主であったことに変わりはない。つまり最善ではなくともそこそこうまいこと経営していたはずなのだ。


 それをぶち壊しやがった豚野郎が代理人様だ。こんがり丸焼きにしてやろうか。


 公爵領は裕福だが当然財は無限ではない。


 どうにもあの豚領主代理、もとは国家中枢に所属する外交官であったようだ。……つまり根回しがうまく情報の操作が得手だ。だからこそ国王をだまくらかして領主代理におさまれたし、これだけ内部事情があれているにもかかわらず今なおその役目を解任・処断されていないのだろう。小賢しい、豚のなりで。


 ま、おそらくは公爵家を乗っ取って豪遊するのが目的、というよりはランスリー公爵家自体が気にくわなかったようだけど。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ