3/11 楽しみは先にとっておく
そんなことを思いつつも、まったりと手紙をさばいていく。
いつもの事だけど半分くらい差出人がストーカーという。
前に王宮に殴りこんでから一気に減ったんだけどねえ。最近またじわじわと増えてるんだよね。何度でも問おう、奴は何を目指している? というか私にどんなリアクションを求めているんだろう。もしも今の塩対応をこそ求めているとしたら戦慄が走る。私はどうすればいいんだ。混乱に陥り氷魔法でもぶっ放して地形を変えたくなるような気がするのでそうではないと思いたい。
……つまりはどれだけ出しても私が返すのはせいぜい月一。まったくもって紙の無駄だ。
いっそ奴の目の前で全部まとめて燃やしてやろうか。
王族男子、めんどくさい。王妃様よその拳をうならせてくれないか、と願うが「あの執念はちょっと……」と引いていたのを覚えている。あの王妃様をドン引きさせるとは。
まあ、今は数が一ケタだからとりあえず目を通すけど。……それがいけないのだろうか。でも不意に面白い情報を潜ませてくるから質が悪いんだよあのストーカー。
ネタだけはホント多種多様。学内のこと、勉強のこと、教授のこと、魔術のこと、国王の事、本のこと、行事のこと、政務の事、大臣たちのこと……。
確かに、飽きは来ない。
文章も、面白い。
さすがだと言うべきなのだろう。
これだけ頻繁かつ大量に来るとドン引きしかないが。
ていうか自分で自分の行動にドン引きしないんだろうか。秋も終わりだというのに、今年も彼は冷静に己の行動を振り返れないようだ。絶対黒歴史だと思う。
いや、もういいや。それよりも、楽しいことを考えよう。
秋も終わりと言えば、そろそろあれの季節だし。ジルの手紙にも書いてあった。
『焔の祭り』。
秋の終わりに行われる、今年の実りに感謝し来年の豊作を願う祭りだ。それが、もうすぐなんだよね。あと二~三週間くらい? 名前の由来は、三日三晩、町の中心で大きな炎を燃やし続けるっていうのだけど。
イメージとしては、キャンプファイヤーだろうか。
何が楽しみって、この祭りの間は無礼講。屋台が出たり炎の周りで踊り狂ったり朝っぱらから酔いつぶれてみたり。
貴族も大々的なパーティで騒ぐのだ。庶民も招いてどんちゃん騒ぎするところもある。まあうちだけど。だって領民交流の絶好の機会。無駄にはしない。服も着替えて普通に庶民に混じって踊り狂ってるのは私です。初めてやった時は五度見ほどされて慄かれたけど今はゲラゲラ笑いながら肩組んでくるからさすが私の領民。心が強い。
ちなみに昨年はエルも巻き込んだ。割と楽しそうだったので何よりである。今年ももちろん強制参加は決定事項です。
ま、毎回引っ張り出しているので年末、新年、春・夏と回を重ねるごとにエルも慣れていってるしね。
――そうそう。そんな感じで、このメイソード国には、国を挙げて行われる五つの大きな祭があるのだ。
秋に行われる『焔の祭り』もその一つ。
季節ごとに一回ずつの感じだ。冬は二回だけど。
もちろん私は毎年毎回奮って参加している。領民の中ではどの町に出没するか当てるのが流行っているようだ。そして出没すると歓声が起きる。私は縁起ものなのだろうか。
ともかく、そんな感じでこの夏にあった『星祭り』も、もちろん中心になって楽しんだとも。
うん、この祭りは日本で言ったら七夕だろう。真夏に毎年一回、流星群が流れるのだ。昼間に準備して、夕方から夜にかけては屋台が並んで、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。まあ、これはあれだ、提灯祭りみたいな要素もあって、四角い木枠に紙を張ったものに明かりを灯して道に飾る。地上の星のようで大変美しい。そんで最終的にそれを川に流す。
で、流星群は真夜中だから、その頃には明かりを落として空を見上げる。星に願いを、じゃないけど、もともとは祖先に祈りを捧げる行事だったはず。お盆的な意味もあると思えば少しは感覚的にわかりやすいだろうか。
年末にあるのは『雪祭り』。日本で言う大晦日、読んで字のごとく、雪で彫像とかを作って町全体を飾るのだ。これはセンスが問われるし目にも楽しい。毎年屋敷の人間総出で大作に挑戦しているのがランスリー家です。昨年は宮殿を作った。メリィとアリィが二人で細部に凝りに凝って芸術品のようだった。言うまでもなく飲めや歌えの以下略もあるしね。
まあ、この祭りは鎮魂祭の意味を持っていて、比較的厳かな雰囲気があるといえばある。比較的だけど。つまりないと言えばない。気のせいレベルだ。でも一応その年の終わりに、この一年で亡くなった人々が安らかに天に昇れるようにと言う意味があるのだ。
そして冬にはもう一つ、年始に『歌祭り』がある。これは王族を讃えるお祭り。新年を悦び王を寿ぎ、飲めや歌え以下略。王族の威厳が紙ぺらであると実感しすぎている私はジト目になりたい気もする。まあこの祭りに関しては『歌』もメインだけど。建国の祖を讃える歌が国中から聞こえてくる。陽気なお祭りだ。旅芸人とか吟遊詩人とかの昔語りも、この時期多く見られるのが特徴だろう。
そんでもって春にあるのは『神祭り』。文字通り、神を祭る行事だ。まあ祀ってる神が自称神かどうかは知らんが、一応この世界の創造神として世界で一番信仰されている神様だ。ま、神を祭るといってもお堅いものじゃなくて、別名『花祭り』とも言って、そこら中花で埋め尽くされる華やかな祭りだ。もちろん飲めや歌以下略。当然、屋台も出るんだけど、ここでは神官が大々的な祈りを捧げて国から神酒が配られる。それによって身と心を清めましょうという。
それぞれに毎年楽しんで参加しています。昔から祭りは大好きだ。そしてなぜか見知らぬ人間と謎の意気投合を遂げる私。かつて前世で参加したお祭りで意気投合したおっちゃんおばちゃんたちとバカ騒ぎしながら屋台を制覇して健闘を称え合って、解散近くに半目になった我が親友に、『ところで彼ら、誰?』と言われたものだから互いに顔を見合わせ『そういえば誰だろう』からの今更過ぎる自己紹介が始まったこともあった。実は今もある。名も知らぬ人々よ、今年も出会いを期待している。
この他にも、小さなお祭りとかはいろいろあるしね。異世界だなーって思うところも、日本に似てるなーって思うところも様々だけど。聞き込みしてはお忍びで参加してます。隙あらばはるばる隣国まで行きます。
超楽しい。