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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/10 用意は周到、臥して待つ


 どれほどの時が経っても、受け入れられない現実というのは存在する。もう何年も同じ場所に立ち止まって、前にも後ろにも進めていない事なんてわかっているのだ。

 例えば病やただの事故で彼女を失ったのであればいっそ諦めもついたのだろうか。


 ――誰かに殺されるくらいなら私が彼女を殺したかったのだ。


 それが論理の破綻した凶弁であるなんて自覚している、……それでも。

 それでも。



  ✿✿✿



 はい。

 帰ってきましたマイホーム。

 現在地はランスリー公爵邸執務室でございます。


 やっぱり王宮の煌びやかさもいいけど自分の家が一番落ち着くわー。可愛い可愛い使用人さん達もいるしね。メリィが用意してくれたハーブティーが日々そんなに削れてもいない精神を更に万全の状態にしてくれるね。まあ私の執務室に領主代理殿は立ち入れないので、猫かぶる必要が全くないから、そういう意味でもやっぱり楽だわ。呼吸するようにかぶれる猫と言えどもたまには散歩に出さないとね。


 まあ、なんだかんだ言いつつ、王宮を急襲してから早一週間という月日が経っているんだけども。


 この間、もちろん国王に協力などという阿呆なことをさせられてしまった領主代理殿にはじりじりっとお灸をすえた。今も書類に埋もれて頑張ってるんじゃないかな? 私がタロラード公爵に手を回す分もぶん投げたからね。


 あとは勿論魔石を破壊して回ったし。


 お貴族様たちも脅して回った。正体不明の黒装束に追いつめられて汚職の証拠を突き付けられ没落の憂き目をちらつかせられて震えあがるいい年した彼らの無様な姿は魔道具で映像に収めさせてもらった。この世の終わりみたいな顔をしていたけど彼らが加担していたのは国を亡ぼす計略である。同情の余地はない。まあ今は大人しくさせておいて、おいおい罪を追求するつもりではあるが。


 まあそうやってさらに色々と、最後の仕上げを施して。

 加えてこの間、勉強や修行を欠かさなかった私は大変働き者だと思います。


 そんでまあ、何かんやで楽しんでたらやれるとこまでやった感が出てきた。あとは、あっちの動きを待つだけなんだよね。

 まあ、そんなに急に事態は動かず、現在まったり中ですが。


 まったりって言っても執務中だけどね。メリィの淹れたハーブティー片手にね。彼女の淹れる飲み物は何時だってプロ級なのです。私は紅茶が好きだけど、彼女の淹れるものなら何でも嬉しい。これからの季節ならあっつい緑茶もいい。緑茶を片手に炬燵にミカンは最高だと思う。我がクール毒舌な前世友人にさえ『私……炬燵となら結婚してもいいわ』と言わしめた魔力を秘めている、それが炬燵。


 話を戻そう。


 領主代理にぶん投げたくせにまったり執務中とはどういうことかというと。

 大したことじゃない。うちに来た手紙を検分しているだけだ。

 ジルからの手紙とか、どこぞの茶会の招待状とか、ジルからの手紙とか、エルへのラブメールとか、ジルからの手紙とか、私への遠回しな見合いの打診とか、ジルからの手紙とか。


 いつも通りだ。

 適当に選別して、いくつか返事を書いて。


 最近私にもエルにも、よくよく見合いだのなんだのの手紙が増えたなとしみじみ思う。まあ高位貴族なのだから常識的にはそろそろエルにも、本格的に婚約者とか考えなきゃいけないだろう時期に来ているのだ。ジルの手紙と競うかのように日を追うごとに増えてきているよ、マジで。


 顔は広いからなあ。肉食系ハイエナ令嬢量産機なんだよなあ、エルは。

 そんなにお嬢様方をたぶらかしてどうするの。本人はシスコンを若干拗らせている気配がある元コミュ障だというのに。


 ただでさえ超優良物件の王太子殿下が早々に売れちゃってるから、エルはジルと並んで最優良物件なんだよね、どう転んでも。お嬢様方の獲物を狙う目つきは観察している分にはたいへん楽しい。観察している分には。エル本人は今は同性の友人が欲しいみたいだし、ハイエナ女子には頬をひきつらせているけど。


 まあうん。ハイエナ女子はね、実際問題私も観察しているだけじゃいられなかったりするから同感だ。だって私とエルは義姉弟だから。そして私は美少女なので、最大のライバルだと思い込んでしまうお嬢さん方は多い。うんざりするほど多い。ジルも私に馴れ馴れしいし。彼らと並ぶとお嬢様方の視線の鋭いこと猛禽類の如し。


 アグレッシブだ。喧嘩を売る相手を間違えてるから敗北した令嬢もまた山の如しだけど。


 ま、シスコンにストーカーという非常に残念な一面は、今のところ二人とも隠しきってるからねえ。そこさえ知らなけりゃ、あの二人はタイプは違えど絶世の美少年。しかも家柄は王家と公爵家。エルは次期当主、煩い姑は既におらず。ジルもその名声は轟いてるしね。将来有望すぎる。玉の輿、玉の輿。


 令嬢もその親も狩人(ハンター)と化すのは必然だ。


 そういや、国王様もジルの婚約者決めで未だに悩んでるってため息ついてたっけ。

 何でも水面下での牽制が激しすぎるとかなんとか。ジルの影響力を考えると、安易に決められないらしい。何年悩んでんだあの中年。三、四年前だからな、私とジルが出会った婚約者候補選びの茶会。


 まあジルに関しては私から追及はしないけど。だって隙あらば婚約者候補から華麗に滑り落ちた私を再び引っ張り出そうとしてくるんだもの。

 曰く、『本性を隠せばお前が適任だから』だそうで。


 そこは多分だけど本性隠しちゃだめじゃね?


 ていうか国王、本音は私を国につなぎとめるくさびが欲しいだけなのだから失笑しか出ない。王妃様は理解して最初から勧めてこないのに。


 面倒臭い。








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