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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/9 背中合わせと妥協点


 私たちは同類だが、ある一点においては相容れない。


 なぜなら目の前のこの男は中身がチンピラ染みていようが中年だろうが、アレクシオ・メイソード。この国の王だ。

 国王は最後の時に絶対に国をとる。その心根をもってして、彼は君臨している。

 それが彼の最優先だ。


 でも私は天秤いらずの公爵令嬢なので。最後に絶対に『人』をとる。


 それこそ、手段など選ばん。次元を捻じ曲げ自称神すら目的のためなら屈服させてみせようではないか。


 だから、彼と私はよく似ているが、相容れない。

 これはもう仕方ない。私も国王も割り切っている、最初から。そういう生き物であって理屈じゃない。まあ割り切れるからこそ私たちは同類ではあるのだろうが。


 どうしようもなく彼も私も、護られる側ではなく護る側なのだ。お飾りの国王ではなくか弱い公爵令嬢ではない。

 腹黒猫かぶり国王と肉食獣系令嬢だ。


 彼は国を守るためならば、私を切って捨てる。

 私は不要だと感じたなら、躊躇いなく彼を潰す。


 普段ちゃらけていようが言動がふざけていようが、今この場で馬鹿みたいに掛け合いをしていようが躊躇いはしないだろう。

 それがいっそ誠意だ。誤魔化しはいらない。反吐が出る。てかキモイ。何気遣ってんの。鳥肌が立つほどに合わない。


 しかし今一度言おう。これはあくまでも『もしも』の仮定の話であって基本的に愛国心を簡単に捨てるつもりは私にもない。だってそんな軽率なことしたらうちのカワイイ義弟とか使用人さんにダメな子を見る目されちゃうじゃない。あの子たち、容赦ないんだよ? だからつまり何が言いたいのかというと、私は負ける喧嘩は売らないので私が国を見捨てる未来は予測するだけ精神と時間の無駄です。


 ただまあ、言わないのもフェアじゃないかなあと思っただけの事であって。だから国王の言うとおり私は正直者です。それが何か。


 にっこり笑った。

 国王は、目を細めて私をじっと見つめた。

 無機質な目。値踏みするような。推し量るような。

 裏も表もあるけれども、探られて痛い腹は……なくもない気がしないでもないけどまあ気にするほどの事じゃない。


「ご理解いただけました?」


 小首をかしげる。

 ぷっくり国王は頬を膨らませた。典型的な不満顔である。うむ、安定の可愛くない。美丈夫は一応美丈夫だというのに。内面か、内面の残念さがにじみ出過ぎているのか。かわいそうに。


 ともかく。


「……クラウ……弟に、猶予はあんのか?」


 一応の折り合いはつけられたらしい。


 ――そして、うん。やっぱりそこは気になるよね。まあ、実の弟の事だからね。多少は情も入るだろう。家族に対する評価がずれているとはいえ、愛が薄いということにはなっていないのがこの国王だ。むしろ国王一家四人の仲が良好であることを考えてもどちらかと言えば家族に対する情愛は深い。どこかで狂戦士(バーサーカー)の血が混じっている疑惑があるうえに王妃様が最恐なものだからちょいちょい肉体言語でお話合いがあるのも知っているけどそれも愛だ。多分。それに、王弟公爵とは政権争いで疎遠になっているとはいえ以前は仲が良かったとも聞いている。


 聞いているがしかしだからといって容赦する予定はない。それでこそ私。こんな時こそ輝く笑顔で応えよう。


「ありませんわね」

「物理か?」

「あのように細い方を吹き飛ばしても楽しくありませんわ?」

「……処分は?」

「沙汰は司法機関のお仕事ですわよ?」


 国王は、深く、深く、ため息をついた。

 疲れているのかもしれないが私には特に関係ない。だって私は元気だからだ。

 でもまあ、疲れていてもやはり国王は国王で。


「あー。判ったよ。好きにしろよ」


 答えは簡潔。肯定以外の選択肢はないが、ようやく観念したようだ。まあその裏ではいろいろ考えているんだろう。


 まあいい。言質は取った。大義は我にないかもしれないが、言質は取った。


 そして部屋に響くのは朗らかな私の笑い声と、死んだ魚の目をした国王の腐敗寸前の湿った笑い声だけだった。









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