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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/8 だからその手は繋がれない


 私の冷笑は、板についていた。

 しかしそれでもこの国王、食い下がってきた。この吸着力、すっぽんのようだ。食い下がってくんなよ。そのままぽっきり心折れろよ。


「身内関わってんだぞ! もっと巻き込んでくれよ! 俺を!」

「嫌よ。これほどの問題だからこそ、余計に事を荒立てるべきじゃないってことも分かっているでしょう。貴方の身内がかかわっているからこそ、貴方はあなたの仕事をするべきですよ『国王様』?」


 国の根幹を揺らす問題であるからこそ、大々的に動いて民衆に知られるのは危うい。秘密裏に動く裏の部隊を所持していないわけはないだろうが、国が動けばどこかしら感じ取ってしまう鋭い輩はいる。そして王室は『タロラード公爵』に近すぎる。


 最悪何もかも露呈して、パニックが起こって収拾がつかなくなる。

 それじゃあ結局、被害はまぬかれない。

 言えば、それは理解しているんだろう、多少静かになった。


 でも多少だった。諦めの悪い中年だ。


「おれだって手駒は持ってるぞ! お前ばっかやる必要はねえだろ!」


 煩い喚くな。

 そしてどうにも迂遠だ。ナニコレ最近はまってんの遠まわしな言い方。面倒臭い。

 だから。


「『私ばかりがやる必要がない』のではなく、『国が第一』でしょう? わかっておりますわ」


 言えば、途端に口をつぐんだ。ここでつぐむなよ正直だな。


 そもそも。

 別に国王様、本気で国だけでこの問題を片付けたいわけじゃない。


 さんざん喚いたけど。多分参戦したいとか息子への嫉妬は本気だけど。つくづく大人げない親父だ。嘆かわしい。

 でも、『自分をまきこめ』と強硬に主張したその本意はそこにはない。


 なぜならば力も、権力も、情報収集力も。

 最低限の力で、最短の時間で。

 それに、私以上の適任などいない。誇張ではなく純然たる事実だ。例えば相手が他国であれば国王の方が適任だろう。個々の撃破能力ではなく幅広い情報収集能力とコネクション。経済力と権威。それをこの男は持っている。しかし今回はタロラード公爵とその後ろを陣取る『魔』が相手だ。攻撃力と隠匿性、そして私自身が動けるという事が重要なのだ。国の部隊とは違って私のブレインは私自身だし、国王とは違い私はフットワークが軽い。そういうことだ。


 それが分からない国王ではない。


 ただ、国王は危惧しているのだ。私の身を案じているのではなく、それによって国に不利益が、厄災が降りかかることを。

 それを私が気にせず突き進むのではないかと。


 つまりは国王()私に釘を刺したいわけだ。

 やりすぎんな、と。


 ――しかし。


「私も最低限の愛国心は持ち合わせておりますのよ」


 これでも国民。貴族。そして私は私の領民が大好きだ。


「わざわざこの国に不利益をもたらすようなまねは致しませんわ?」


 私は確かにちょいちょいはっちゃけているおちゃめさんだ。認めよう。

 しかし私は勝てない喧嘩は売らない主義だ。安心して指をくわえてみていればいいと思う。


 ぶっちゃけ『魔』と対峙するのに国王は足手まといさんだというのはあるけど。


 だがしかしだからと言って彼を侮っているつもりはない。私とは違う力を国王は持っているからこそこの国の頂点に立っている。これでも私は国王のことをある程度は信用はしているのだ、その実力も。だから私の行動によって国に危害が及ぶことを私が仕方がないと思うような状況であれば、それこそ邪魔をさせないために徹底的に隠し通しただろう。


 現状、やらかしてはいるが一線は越えない良識は残っている。

 越えていない、一線は越えていない。魔物討伐という虐殺現場で狂戦士(バーサーカー)ぶりを露呈した王子とか砂上の楼閣のごとく失脚していく貴族連中とかいるけど、節度は保った。だってその裏に私がいる事バレてないもん。


 まあ誠意をもって付け加えるならば。


「私が護りたいと思うものを傷つけられた瞬間に、愛国心(そのようなもの)は瓦解するというのは間違ってませんわね」


 天秤いらずの事実である。

 なぜならば私は護りたいものの為なら国くらい潰して初めからなかったことにするからだ。手段など選ばないこの真っ直ぐさ。


「私はぶれていません、安心なさって?」

「欠片も安心できねえ!」

「なんてこと。いいえ、それが私と陛下の決定的な違いで相いれない部分だとはわかっていますわ」

「判ってんならもっと妥協しやすい感じで言ってくれよ!」

「嫌よ面倒臭い」


 くそっ、正直者がいる! と国王は頭を抱えたが私は涼しい顔をしています。


 でも、だってどうしようもない。

 私と国王は、よく似ている。人前で完璧に猫をかぶっているところも、裏で手を回して動かすところも、必要であれば権力を振りかざして見せるところも、それらを楽しんでいるというところも。目的のために手段を選ばないというところまで。


 まごうことなく同類だ。乾いた笑いも出るくらいに下衆い同類だ。


 ――でも、私たちは相いれない。それも事実なのだ。









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