3/7 正直者の一歩先
さて。
私は話した。
私のこれまでの活動報告及びこれからの予定についてを、あけすけに。これでもかと。マシンガンの如く。
まあ、つまりだ。
残念なお知らせですがお宅の弟さんはやらかしているようです。それを甘受できない私はボキリと根元からその計画をへし折るために今後やらかす予定です。おわかり?
包み隠さずお知らせしてみました。
国王、さすがに呆然。
険しい顔からの、呆然。むしろ絶句。
「……あ、あ、ああああ~。ホント、お前は! 面倒臭いことに俺よりとっとと食い込みやがって……!」
ため息が深い。
身内がやらかしているからこそ溜息を飲み込み幸せを捕まえておくべきだと思うよ。
いや、そりゃ面倒臭いだろうけど。
何と言っても身内の不祥事。抉られるよね、いろんな意味で。それでなくても王弟公爵とは色々とあってぎくしゃくしてるんだから。
だから肝心なところでこの国王は詰めが甘いというんだ。いや、今回に関しては身内に対する評価が結構ズレているというべきなのか。己の息子然り。国王自身がだいぶアレな性格をしているのだから己を基準に考えようと思うのがそもそも間違っていると思うの。まあ王妃様も息子二人も大概だから余計にあれだというのは否めないが。
――ま、それでもある程度は予測して、動いていなかったわけじゃないようだけど。
でも私の方が行動速かったんだから仕方がない。
潔く諦めて全面的に私の行動をバックアップすべきだと思う。
そう言ってドヤ顔したら国王、文句を垂れた。
「くっそ腹立つ! その顔腹立つ! この箱いらず娘! 報告しようぜ! 俺の立つ瀬がねえ!」
「そんなもの最初からありませんわ」
「傷口に塩!?」
「なぜあなたの面目などを考慮しなければならないのでしょう。意味不明ですわ」
「心底疑問な顔で小首を傾げんのやめろよ、賛同しそうになんだろ!」
「賛同するのが正解ですわ」
「何その歪んだ正解。どんな紆余曲折を経たの? 考慮しろよ。てかもっと早く俺も混ぜろよ。ジルの奴は魔物退治に連れて行ったくせに」
「嫉妬ですわね見苦しい」
「殺傷力高い視線はやめて凍える」
息子相手に本気で悔しがってる一国の王。ないわー。
確かに冒険と称して魔物退治に駆り出してみたけど、お宅の御子息。
一応許可は取ったはずだ。忘れたとは言わせない。どれほど胡散臭い腹黒笑顔のストーカーでもあれは王子だ。打診した。そしたらサムズアップで送り出したのは国王、お前だ。目的も大して聞かずに「魔物退治? マジかよ俺もいきたいけど行けねーから盛大にやって来いよ! お前がいれば焼け野原の完成だな!」って書類に埋もれて王妃様の拳に怯え、三徹の瞳から光が失われつつある状況でのたまったではないか。挙句の果てには「あっはは、全部燃えちまえ!」と狂人のごとき妄言を吐いて王妃様の拳が唸った。王妃様は上品な微笑みで気を付けるのですよとハンカチを渡してくれた。いいにおいがした。
ではなくて。
そもそも国王を冒険まがいの魔物退治クエストに引っ張り出せないと理解しているくせになぜ口をとがらせて拗ねるのだこの国主。
いや、いつかエンカウントした路地裏無双で国王は大層いい笑顔で嬉々としていた。そういう性格なのだろう。きっと長い歴史のどこかで狂戦士の血が混じっているのだ。だってジルも魔物退治という名の一方的な蹂躙のさなか一瞬狂喜の笑顔浮かべたもん。王室の将来が不安だが私には関係がないのでどうでもいいや。
ともかく、立場上無理なことは理解しているのだから駄々をこねるな中年男、ということだ。国王と第二王子じゃあ重さが違うのだ。
まあその国王、今だ大層悔しそうに地団太踏んでるけど。
「そんでこの期に及んで俺には傍観を強いるのかよ!?」
悔しそうに国王、喚いた。喚くなうるさい。
私は肩をすくめた。
「仕方がないでしょう。迷惑なのですわ、邪魔しないでいただけます?」
うん、そう。
『私の行動に、干渉しない』。
私が国王に求めているのはそれに尽きる。
理由は前述のとおりですが何か。
外面狸の内面チンピラ、国内最高権力者がしゃしゃり出てきたらもう面倒で面倒で。
遠慮? してるよ、だってまだ敬語使ってるもの。それに本格的に事を起こす前に事前報告してるし。ほら遠慮してる。まあ無駄に勘の鋭いこの国王は私が言わなくてもどこかで何かを察知して勝手に動くだろうからくぎを刺しに来たってのが大部分を占めていないこともないけど。
そんなことを考えていたら国王が叫んだ。
「関わるなっていうなら包み隠さずお知らせすんなよ! 参戦してえよ!」
だから喚くなよ煩い。てか報せろといったり報せるなと言ったり。何わがまま言ってんのこの中年。強制禿げの刑に処すぞ。
私はハッと鼻で笑った。
「だから邪魔だと言っているのですよ理解してくださいな面倒臭い。どうせ私が教えなければ中途半端に探って中途半端に首を突っ込むのでしょう貴方」
私の顔はこれ以上ない冷笑を浮かべていたと思います。