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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/5 相哀れまずに笑っている


 まあそんなわけで。


「ごきげんよう、国王陛下」


 そんな言葉でサプライズ実行。

 国王は、驚いた。

 掴みはおっけー。


 というか、もともと不意打ちに弱いのだこの国王。

 ので、それはそれは盛大に驚いてくれた。


 ガタッと盛大な音を立てて、椅子から文字通り飛び上がる。連鎖で書類の山は雪崩を起こし、ペンがその拍子に手からすっぽ抜けてあらぬ方向へ飛び、揺れた衝撃で激しく揺さぶられた机からは、当然のようにインク壺が書類へダイブした。御愁傷さまです。


「シャ、シャーロット嬢……」


 驚きと納得のまじりあった声音で私の名を呼ぶ国王。

 納得までが早い。


 最初の対面は謁見の間で畏まっていたはずなんだけどね。いや、記憶覚醒前までさかのぼるなら生まれたての小鹿で気絶したんだけどね。


 色々あった二、三年。関係性は斜め四十八度くらいに逸れたまま軌道修正の気配がない。

 そんな私たちだからこそ、私による国王へのこういう奇襲は初めてじゃなかったりする。思い立ったら即行動が私のモットー。……いやいや、ちゃんと周りに人が居ないことを確認してからやってるけど、ね?


 まあ、私と国王陛下は、ははっと乾いた笑いが出るほど同類なので。


 裏表が激しいっていうか、裏が結構ぶっ飛んでるっていうか。そしてその本性に対してまるで悪びれない所かなんか文句ありますかにっこり、って性質してるっていうか。『いっそ清々しいわね。褒めていないけれど』と前世悪友が苦々しく言っていたそれである。


 いや、最初はお互い本性を隠していたんだけども。ジルの所為で王室と交流が多くなってきたし、そのおかげで互いにこいつ猫だなと悟らざるを得なかった。あの子にしてこの親あり。腹黒タヌキ王子の父親は腹黒猫かぶり国主なのだ。


 だからこそいっそカミングアウトしたほうが動きやすいかなと一方的に私が思いました。


 国王が当時どう思っていたかは知らん。そしてそんなことはどうでもいい。ただ国王の顎が外れかかったことだけは覚えている。そんなに彼の予想の斜め上を行きすぎていただろうか。ならば常識を棄てる新たな一歩になったのだ。むしろ感謝をしてほしい。これから先こんな衝撃的肉食獣系令嬢に遭遇することはそうそうないかもしれないが。


 だがしかし国王の本性も大概だからお互い様だ。


 それを目の当たりにした時冷静に分析した私は思った。盛大なキャラ崩壊だと。何せチンピラ。本来の一人称は『俺』。時折私の日常を語れば這いつくばって地面をたたき爆笑している。この本性をあの理想主義宰相補佐殿が見たらぶっ倒れて一週間ぐらい寝込むと思う。


 でもまあ、そういう国王であるから私としては案外信用に足ると思っているが。

 彼は国の統治者であり、唯一絶対の支配者であり、権力者だ。

 私を含めた貴族の頂点でもある。

 そんなことは誰でもわかっている。


 ――メイソード王国現国王、アレクシオ・メイソード。


 弟との権力争いを制し、頂点に立った。その治世の評判は上々。諸外国とそれなりにわたりあい、貿易の手も広げている。戦争を起こすことなく、波風を立てることなく。


 まあ、うちに豚領主をよこした辺り、肝心なところで詰めが甘いのも確かなんだけど。その点については粛々と報復を行った。具体的に言うのなら新食材発掘・新魔道具開発着手のための情報収集や貿易交渉に馬車馬の如くこき使った。だが一時期げっそりしていたがいつのまにか復活を遂げていたのでもっとキリキリ働けばいいと思う。私は執念深いのだ。

 そして結果はキャラ崩壊はなはだしい協力関係成立である。


 話を戻そう。


 さて、サプライズ襲撃からの珍しい『シャーロット嬢』呼び。ならばここはもちろん優雅に返事を。


「はい、シャーロット・ランスリーですわ。お久しぶりですね?」


 にっこり。

 女神の様に笑ったらこれでもかと引き攣った顔をされた。失敬な国王である。


「……神出鬼没だな、いつも」


 死んだような声はしかしどこか私の機嫌をうかがうように震えていました。

 うん、驚愕から納得、そして立ち直りまでが速いのは学習の成果だと思う。

 なぜなら最初は尋常でなく驚かれた。ドッキリに弱いという弱点を掴んだ瞬間だった。そして仕返しの如く礼儀がどうの礼節がどうの威厳がどうの作法がどうのと注意を受けたのも懐かしい。


 どの口がと鼻で笑ったら違いないと爆笑していたが。


 まあいい。


 そんなこんなでサプライズについては軽く流した国王様、動揺をおしこめ無表情を張り付けなんの用かとお尋ねになった。白々しい。

 空とぼける態度に苛ついたので私も冷たく目を眇め、まさに緊張した空間が生まれる。


 見つめあって数秒。威圧感は半端なかった。

 空気はこの時は大変真面目。シリアスだったと言ってもいい。見る人が見れば一触即発だったと感じたかもしれない。


 だがしかし。


 それを維持することは私たちには無理だった。

 ――すなわち。

 冒頭に戻る。


 素直に『ごめんなさい』をすれば許す可能性がなきしにもあらずと譲歩を見せた私に対してそっぽを向いて国王が拗ねた。イマココだ。








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