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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/4 金と赤の為政者


 妄執であることは判っている。誰かはそれに気づくだろう。そして誰かは憐みを寄せるのだ。

 時間が解決してくれると聞いたのはいつだっただろうか。

 例えば蛹が蝶へと羽化するように、時の流れと成長は喜ばしく美しい。あるいはそれが残酷であるとして、痛みをいやす薬にすらなり得ることも知っている。


 それでも私は、永遠が欲しかったのだ。



  ✿✿✿



 室内にあるのは整えられた調度。歴史を感じる重みが漂い、色彩はブラウンで統一されている。一目で最高級品とわかる品々にはしかしまるで嫌みがなくその部屋の中に調和する。

 広く静かな部屋だった。此処にいるのは私と机を挟んで向き合った男、たった二人。

 流れているのは重い、重い空気だった。

 呼吸さえも止まりそうなほどの緊張感。


 その、中で。


「――判っていらっしゃるのでしょう? 私が、なぜここにやってきたのか……」


 私は、そう冷たく微笑んだ。


 相対する男は父親ほどの年齢。さらりと流れる金髪に紅い瞳の美丈夫である。がっしりとした体形は雄々しさとともに重厚な威厳を醸し出す。何の感情もその整った顔には浮かんでいないが、決して目は逸らさなかった。


「ああ……。判っているとも。それが、何を意味するのかも……な」


 紡がれた声は低く落ち着いている。誰もがひれ伏してしまうような気高さが、確かに宿っていた。

 それは、見た目は私がよく知る友人のそれとまったく同じなくせに、その友人には未だ持ちえない深みがあった。

 私は笑みを絶やさない。目の前に鎮座する男はただそれを見つめ返し……



「さあごめんなさいしなさい。そうしたら許してあげなくもないかもしれないわ」

「それ許してくれないやつ! 嫌だ! 俺は謝らん!」



 顎をしゃくった私に男はふんすと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 いい年した大人が何というなんというクソガキ染みた態度だろうか。先ほどはあったかもしれない緊張感など鼻息で吹き飛ばされてしまったかのようだ。


 いや、正しく吹き飛ばされてにらみ合っていた鈍重な空気は雲散霧消。むしろ外見美少女な私が叱り、一見美丈夫な大人が反抗。なんというシュールな光景。そもそもそんなにらみ合いで発生した空気に緊張感も糞もなかった。あるのは残念さだけだ。


 しかし何を隠そうこの男、国王であったりするから始末に負えない。


 そう、国王陛下。

 ――何度でもいうが、唇を尖らせ、頬を膨らませ、そっぽを向いて「ぷんぷん!」とまさかの口に出してのたまう、この目の前にどっかと座る金髪赤目の美丈夫は、我がメイソード王国の列記とした、国王だ。


 世に名高き賢王とは何だったのか。

 威厳とは紙ぺらの如く薄く軽かった。


 お前の親父はどうなっているのだとジルに真剣に問いただすべきかもしれないが、よくよく思い返せば王太子殿下はブラコンで王妃殿下は最恐でジルに至ってはストーカーだった。

 王室御一行は成るべくしてこうなっているのかもしれない。何とかと天才は紙一重。合掌。


 ともかく。


 ここ、国王執務室に私が堂々と立ち入り国王が拗ねているという現状に至るまでの説明をしておこう。

 風のざわめく晩秋の本日、意気揚々とランスリー公爵邸を飛び出し、転移を駆使してやってきました王宮。ものの数分で着いたというハイスピード。計測すれば国内最速だと言えるだろう。測らないけど。


 なんであれ、今回の襲撃先はご存知国王様でした。


 ええ、正しく襲撃です。なぜならば文字通り、転移で執務室に突如出現しサプライズをかますといういたずら心が炸裂したからだ。

 まあ、さすがに王城外部から内部へ気づかれずに転移は私でもできない。腐っても王宮、侵入防止の結界くらいある。それもなかったら平和ボケも過ぎて破滅願望を疑う。


 ただし、そんな結界も内側に一度はいれば内部から内部へは、普通に転移可能だ。多少通常より魔力を使うぐらいなので私には問題ない。私には。


 で。


 そんな私は一切の躊躇なくメイソード王国現国王、アレクシオ陛下の目の前に突如出現というイベントを敢行。

 むしろそれ以外の選択肢など最初からない。


 なぜならこの時間は絶賛執務室に引きこもり中だと知っている。

 密談しましょ、そうしましょ、と手をこまねいているとしか思えなかった。

 これはもう突撃の一択。


 だからこそ窮屈な執務タイムに息抜きサプライズのプレゼント。他意などない。あるのはおちゃめないたずら心だけだ。


 お偉いさんたちと結構顔見知りになってるっていうか可愛がられてるっていうか。そんな私は王宮内はほぼ顔パス。サクっと内部に侵入ミッションは完了。案内が不要であることすらすでに周知。それでいいのか王宮警備と言われるかもしれないがその警備案にすら私の意見が国王経由で反映されていたりするからもはやここは私の第二の庭だ。


 国王一家との信頼と利害の一致で成り立っている関係性です。まあ捕まるようなへまはしないしね。


 ともあれ。


 そんなこんなで自由に王宮内を闊歩。清々しいほど馴染んでる。

 遠慮? 礼儀?


 そんなものはここ二、三年の間に消し炭になったね。そういえば前世でもかの国の象徴たるお方と懇意になって『天ちゃん』と愛称で呼んでいた。きっとそういう巡り合わせだ。前世友人は『めぐり合ってるんじゃなくてあなたがブラックホールの如く吸い込んでいるんでしょう。たまには吐き出しなさい、この厚顔無恥』と青ざめた顔で言っていたけど。


 まあつまりそんなこんなでいろいろあった私たちはこの程度の無礼はもはやいつもの事だったりしないでもない。いや、ここまではっちゃけてるというのは公にできるわけもなく、ぶっちゃけジルどころか国王様本人と私しか知らないけど。王妃様も知らないのは割とスリリングだ。でもあの人は実は知っているかもしれないという底知れなさがある。だって最恐だもの。


 まあ一応互いに立場も思惑もあるから気を付けてるし、部外者がいるときは猫かぶりがすごい。すごいというかやばい。別人レベルだ。特に国王。こんなにガキくさいチンピラなのに。腐っても国主ということか。


 褒めたりなどは絶対しないが。


 なぜなら今回私に喧嘩を売ったというかへたをうったのは国王だからだ。自業自得という言葉を百回書き取りすればいいと思う。











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