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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/2 歓談日和に氷点下


 そう、唐突に現れた私に喜んでるのか引き攣ってるのかわからない微妙な顔をしている王子様を、容赦なく私は殴り飛ばしましたが何か。


 遠慮? 資源の無駄遣いをする輩には必要ないと断ずる。国王も王妃様も王太子殿下も微笑ましそうに笑っていたから問題はない。ロイヤルファミリー公認である。盛大に吹っ飛んで天井にぶち当たったジルを見ても「あらあら元気ね」とか笑っている彼らは肝が太いというか若干ズレている気がしなくもないが私と彼等は意気投合しているからやっぱり問題はない。


 なお、国王一家の家族仲は非常に良好です。王子兄弟に至っては兄がブラコンを患っている節があるくらいだ。そして王妃様最恐。国王夫妻のやり取りは完全に夫婦漫才かかあ天下である。


 ともあれ。


 資源の無駄遣いをしたジルに昏々と説教をかまして、最後に聞いたわけだ。


「……どうしても、エルに会いたいと申されますの?」

「会いたいですね」

「……何にもおかしなことをしないというなら、わかりました」


 ――けれど余計な詮索は身を亡ぼすということを覚えておいてくださいませ。


 聖母のような微笑みを浮かべてそう付け足したら顔面蒼白でキラキラスマイルを振りまくという器用なことをやっていたけど。そしてそのあと少し機嫌が上昇するかと思いきや下降したのはなんでだ。私はジルのわがままを受け入れてやった身だというのに解せなかった。そこはかとなく苛ついたので王妃様とタッグを組んで弄り倒した。


 まあいい。


 そうして相成ったエンカウントinランスリー公爵邸でのお茶会。

 はっきり言おう、すっごく空気が悪かった。

 ……なんでか?


 心地よい木漏れ日溢れる庭園にブリザードが吹き荒れていたからだ。

 発生源はジルと、エルと、私。


 そう『私』。むしろ三人の中で最も凍えた空気を醸し出していたと言えよう。それなりに気温が高い日だったのだがそっとメリィが暖かい紅茶に淹れ替えてくれた回数が何回あっただろうか、覚えていない。


 まあ悪いのは私を除くアホ二人だ。


 まず初見からジルがエルを威嚇しまくっていた。何をしている年長者。その狸な笑顔はつねってほしいのだろうか。しかしエルも負けていなかった。なぜ負けていなかった我が義弟。猫は育成途中だったけど、自前の素直さで特攻をかますとはいい度胸をしている。さすが私の義弟である。そうか私の義弟だからか。何てこった。


 ……ともあれ、そんな彼らは。


「シャロンとはもう一年以上の付き合いなのですよ。私のことを一番に理解してくれる、素晴らしい、大切な友人ですね。(まあ腹の中は真っ黒ですが)」

「はい、シャロン姉さまはすごいんです! 『僕の』大切な家族ですから!(身内も容赦なく千尋の谷に突き落とすけど!)」


 此処から始まり。


「シャロンと私は裏町へ忍んで行ったものです、あのスリルはたまらなかった(主にシャロンが怖かったですが)」

「シャロン姉さまとはいつも一緒に稽古をつけてもらってるんですよ!(大抵シャロン姉さまが師匠を空へと打ち上げるけど!)」


 こう展開していった。


 お前ら、本当は、仲が、いいだろう。


 何故話題の中心が私なのかも問いただしたいが、私との仲の良さを張りあっていると見せかけて副音声で的確に私をディスってくるのはやめろ。目の前に鎮座しているご本尊たる私が見えないのだろうか。報復か? 復讐か? 精神攻撃を打ち合わせてきたのか? ふざけろよ。


 そして話が盛られている。確かに腹の中は真っ黒だがそれはお互い様であることは言うまでもなく、確かにトラウマは抉ったが救急隊員の如く俊敏に谷底で受け止めたはずである。


 一体、お前ら、何が、したい? せめて私が聞いていないところでやっていただけないだろうか。私の耳目が届かないところはぶっちゃけあんまりないけど、目の前でやられるよりましであるし、そもそも本人の前でやらかす神経を真剣に疑いたい。


 だのに彼らは懲りずに「シャロンは」「シャロン姉さまが」「シャロンが」以下略。


 ……。………。

 ええもちろん、精神年齢は高い私、その場で器物破損の愚行などは冒さなかった。そして静かに紅茶を飲んで淡々とブリザードを生成していた。

 しかし。


「「シャロンはどっちを選ぶんです(の)!」」


 その言葉でもって二人は敢えて外野に甘んじていた私を舞台に引っ張りました。

 聖母のように私は微笑みを返しました。

 硬直した美少年二人、そよそよとそよぐ風、さらさらと流れる木漏れ日。


 私は言った。


「ねえメリィ、庭のあの一角は植え替えのために土を掘り起こすのでしたわね」

「はい、庭師からそのように聞いております」

「私が今少し、使っても問題ないわね?」

「ええ、全く」

「そう、ありがとう。――そういうことですわ、ジル、エル」


 私は笑っていた。メリィは微動だにしなかった。

 そしてジルとエルは……


 全速力で、逃げ出した。


 まあすぐに捕まえて肩まで土に埋めたんだけど。

 王子でも埋めた。義弟でも埋めたとも。メリィお墨付きの庭の一角。とても気持ちいい日差しが降り注ぐ中数時間。魔力封じのおまけつき。


 美少年の生首が生えているかのようでたいへんシュールな光景だった。


 それからあとは、顔を合わせても(私がいるところで)険悪な雰囲気になることはない。……皆無ではないけど。









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