表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
68/661

2/32 優しい子


 はっきりにっこり言ってみたら、思った以上に動揺されました。まさかの真似をしている自覚がなかったという可能性が浮上。それはそれでエルの中で一体私はどういう存在なのか問いたい。虚勢を張るために無意識で真似をされるってどういうことだろう。


 ともかく、先に私からぶっちゃけよう。


「私の目的は、そうね、単純明快と言えば単純明快。私は私が大切だと思うものを護りたいの。それだけ」


 はっはっは。

 ええ、嘘偽りなくそれだけですが何か。


「自分勝手でしょ?」


 傲慢さこそが私のトレードマーク。前世と今世の悪友が言ってた、「殊勝なあなたなんて貴方じゃない」って。判っていらっしゃる。

 しかしエルは疑わしそうに眉を寄せた。


「……本当に?」


 そうだねそれが正常な反応だと私も思う。だってちょっと前に盛大に裏切って混乱させた張本人が私だからね。それでも素直に信じて納得されたら逆に心配になるよ。詐欺の危険性をこんこんと言って聞かせるよ。


 ま、もともと『憎悪』がテーマの人間不信キャラだったし、その傾向実際あったしね。

 例えば今『私』を信じ切れないことも、『自分の幸せ』が続くと思えないことも。

 今、彼の瞳に浮かぶのは、『恐怖』と『猜疑』が強いけど。


 まあどっちにしろ私は、エルの前では猫は野に放しているわけで。


「私は、別に優しい人間じゃないのよ」


 笑う。それも、エルはちゃんと知っていたはずだろう、と。

 だって『ランスリー家の怪』は知ってたみたいだし。此処に引き取られてからの私を見ていたって、私は本性隠してなかったんだから、知ってたはずだ。


 そうでしょ?


「……」


 うん、その沈黙は肯定ととらせていただく。反論は認めない。

 笑みをさらに、私は深めた。


「自分勝手で優しくない、だから、私は守りたいものの為なら何だって利用するわ」

「何だって?」

「そう。それがたとえ、後継ぎとなるはずの義弟でも」

「今回の、ことも?」


 エルの表情は動かない。視線もじっと固定されている。

 只隠し切れずに不安げな色を映した目が、まだまだ子供だなあ、と思ってしまう。可愛い。すごく甘やかしたい。可愛い。

 まあ今甘やかして誤魔化したらなんの意味もなくなっちゃうからしませんが。


 ただほら、外見上は私とエルは同い年で義姉弟だけど精神年齢的なあれを冷静に考えると私がエルのお母さんでもあんまり違和感がなかったりするものでどうしても庇護欲が。これが母性本能。まさかの初仕事である。


 いや、それは今は置いておこう、うん。


 つまり、エルは馬鹿じゃないし、私のあの夜の言動はいろいろと落差があったから処理しきれないんだろう。

 そしてこの子は優しい。

 ……多分、信じてくれようとしているのだ。


 だから、教えるつもりはなかったけど、ついでに教えたほうがトラウマと自分からきちんと向き合う機会にもなるだろう。


「――エルは、自分がどうして魔術をつかえなかったのか、知っている?」


 問えば、エルは息をのむ。そのまま、数秒。


「う、ううん……」

「そう。じゃあ、そこからになるけれど」


 本当にいいの?


 問いを乗せ真っ直ぐに、エルを見る。

 エルは震え、唇をかむ。


 ……向き合うのは、怖いだろう。それはエルシオを苦しめ続けたトラウマでコンプレックスだから。

 それでも。


 ――エルは、小さく頷いた。


 私は紅茶で喉を湿らせて、口を開いた。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ