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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
エピローグ
657/661

∞/1 後に


 すうっと小夏の姿が消え、そして何もかもが元通りになった。約束通り、きっちり彼女がこちらに来てしまった、その日その瞬間、その場所に送ることも出来た。確かその日は冬、模試に行く寸前での異世界転移だったと聞いているので、頑張ってほしい。頭の中の切り替えがうまくいくことを願っている。


『シャロン。コナツさんは……帰っていったんだね』

『ええ。無事に、帰っていったわ』


 エルの声に応えれば、しんみりとした空気が流れる。しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。パチン、と指を弾いて、エルたちが展開していた結界だけを消し去った。


『錫杖と剣を抜いたら、みんな元の場所……神領域に呼ぶ前までにいた場所に戻るわ。まとめてメイソード王国に帰還してもいいけれど、まだそれぞれの場所でやることがあるでしょう?』


 というか、そもそも周囲にいたほかの人間にとっては、彼らが消えたと思ったら天変地異が起こるという恐怖体験だったはずなので、ぜひとも戻ってもらわねばならない。


 なお、この後の事後処理は恐ろしく大変だと思うけれども、私は知らん。まあ、屑将軍に青教の神の天罰が下ったとかなんとか言っておけばいいのではないだろうか。


 そして再度、パチンと指を鳴らせば、私の姿も『全ての女神・ローヴァ』から、『シャーロット・ランスリー』へと戻った。


『さあ、帰りましょう!』




   ✿✿✿




 ――さて、その後の話を少ししよう。エブロスト砦にまとめて詰め込まれていた屑……ベルキス・アセス・ウロム・ヴァルキアたちは正式に捕縛され、戦争は終結した。


 戦争にベルキス将軍……すでに将軍位は剥奪されたからベルキスか。ベルキス自身が赴いている隙に、シルゥ様たちはヴァルキア帝国の皇城奪還を企て、見事成功。ザキュラム帝の拳がうなり、いろんな建物が粉砕されつつも本人たちの肉体だけは至極無事に奪還計画を完遂したようだ。「あの皇帝は本当に皇族なのでしょうか。チンピラではございませんか?」とルフ達が真剣に問うてきていたが、間違いなくあれがヴァルキア帝国皇帝である。


 なお、南・北・西とベルキスの手が伸びていたところも表面上は平和を取り戻しつつある。……表面上、というからには当然、水面下ではそうではないということだ。


 つまり、北の連合が裏切り三か国の処理に奔走していたりとか、聖国の『統一派』が旗頭を失って空中分解を目前にちょっと不穏な空気が流れていたりとか、エイディワム共和国がここぞとばかりに荒稼ぎをしていたりとかいろいろある。……まあ、この辺は各国が各自どうにかこうにかするだろう。


 ちなみに、聖国についてだけれども、レイゼルフ大司教があんなことになったこともあり、そもそも投票でも無事勝利したこともあり、新聖王にはマラカヴィト大司教がつくこととなった。現在は即位式までの準備中である。


 その一方で、レイゼルフ大司教はどうなったのかというと、我が家に来た。語弊はない。レイゼルフ大司教は、我がランスリー公爵家に単身やってくることになった。居候である。……というか、いろいろやらかしたおかげで彼の位はすべて剥奪され、ただの神官となっているのでレイゼルフ神官と呼ぶべきだろうか。破門追放されなかっただけまだましととらえるべきなのかどうなのか……。


 何故って、我が家にやってきたそのレイゼルフ神官、アリィとメリィの監視下で、それはもう厳しい『ご指導』を受けているので。何の指導って、ランスリー公爵家使用人としてのすべてだよね。幼女なメイド見習いから老年の執事まで戦闘能力一騎当千、城の使用人よりも洗練されているともっぱらのうわさな、我が家の使用人として鍛えられているのだ。


 というか、聖国での懲罰すらなかった理由として、この使用人指導=懲罰に該当するとみなされたからのようだ。否定はできない。うちの使用人さんは毎日喜々としてこなしていることなのだが、うちの使用人さんたち以外からは『鬼畜な地獄』と呼ばれるプログラムである。だがしかし、我が家で過ごしているうちに大抵、いつの間にか喜々として日々を過ごすようになるという不可解な現象が起こるプログラムでもある。果たしてレイゼルフ神官はどうなってしまうだろうか。


 そんな中、ジルが我が家にやってきて、実に真面目に庭の手入れをしているレイゼルフ神官を発見したとき六度見していた。何度見ようともあれが現実である。


 まあ、うん。監視体制としては二十四時間三百六十五日、メリィとアリィを筆頭に使用人さんたちがぎらぎら見ているから完璧だ。


 それに、レイゼルフ神官の求心力を心配する声もあったけど、私とエルを心の底から愛している我が家の使用人さんたちのハートは付け入るスキなど皆無だった。内部からの裏切り者が発生することがない公爵家、健在である。


 ――と、ほかの国々もそうであるが、当然、戦争当事者なメイソード王国・ヴァルキア帝国が一番てんやわんやで処理に追われているのは間違いがない。世界滅亡イベントに関する問い合わせも殺到したのを何とかして丸め込んだし。……なぜうちに聞く、と思っていれば、なんか、うちの戦争と時を同じくして起こったものだから絶対何か関連性があると感づいた勘の鋭い王様たちがいてだね……。


 ともあれ、この間王城に顔を出した時には、国王様がげっそりしながらハイテンションに高笑いをしていたし、ラルファイス殿下は各国を飛び回っているようでここしばらく姿を見ていないし、ジルは逆に執務室に缶詰めでぎらぎらした瞳をしていたし、王妃様は美しく微笑みながら手に持った扇を粉砕していた。ストレスフル・王室に、私は無言でランスリー家が担当する書類を置いて帰った。


 そんなメイソード王国と同じく、ヴァルキア帝国ももちろん戦後処理とベルキス将軍派の排除にごたごたはまだまだ続いているようだ。ザキュラム帝とロッセイ宰相は、うちの国王様を上回る勢いで馬車馬のごとくキリキリ働いているという、シルゥ様情報。そのシルゥ様も、ソレイラと共に再び国中を行脚して、『ベルキス将軍に従わない』ことを受け入れた領主や属国などを巡っているらしい。ツンデレばかりが先立っていた、愛すべき『暴走皇女』が、いまや立派に『皇女』を勤め上げていて私はほろりと涙がこぼれた。


 そして、捕縛されたベルキスだが、メイソード王国ではジルとエルを筆頭に、ギリギリ締め上げて色々と絞った搾りかすとなったため、数日前にヴァルキア帝国に送還されたばかりである。この尋問には私は意図として参加しないようにしていた。なぜって、……ヴァルキア帝国でもギリギリ絞られる予定なのに、廃人にしたりとか、うっかり消滅させちゃったらまずいでしょう?


 ただ、一応最期に顔は拝んでおいた。というか、私としては、先述のとおり、使い物にならない状態に陥らせてはならないと自戒していたため、特に会う気はなかったのだが、ベルキスが私のことばかりブツブツ言っていると不快そうな顔でエルもジルも言っていたため、仕方なく足を運んでやったのだ。


「行かなくていいよ、シャロン」

「そうです。あんなものに、ただ目も耳も汚れるだけですよ、シャロン」


 と、エルもジルも言ってはいたし、ぶっちゃけ私もそう思ったが、……ルーが情けをかけた人間ではあるからね。そして死後、終わらない地獄に叩き落す予定も控えているし、最期の慈悲と思い、行ってきたのである。


 そしてその王城敷地内、貴族犯罪者等収監専用『白蟻の巣』の最奥にて面会したベルキスはと言えば、別人のように落ちくぼんだ瞳で、幽鬼のような顔をしていたが、エルとジルが頑張ったんだね、としか思わなかった。その時の私の表情は能面のようだった。


 そんな私を見て、ベルキスは問うてきた。


『復讐をして、満足ですか?』


 と。


 阿呆かと思った。わざわざこの私に足を運ばせてまで、聞きたいことがそれなのか。真意を測りたかった。私はベルキスをじっと見つめ……フッと息を吐いた。


(なるほど? 私を自分と同列に堕としたいわけね)


 救えない男だ。


 帝国の乗っ取りも出来ず、なけなしの自分の魔力も根こそぎ失った男。理想家で、魔力至上主義のベルキス・アセス・ウロム・ヴァルキア。彼が信望した魔力。彼が、心奪われた魔術。わが父・アドルフ・ランスリー公爵の極大殲滅魔術。ベルキスにとっての最大の『英雄(悪魔)』。父アドルフを至上と思い、憧憬し、熱望する感情がベルキスの根底にはあるのだ。……こう言ったらソレイラは怒り狂うだろうが、ソレイラの持つ父アドルフへの意識とわずかばかり似ている。


 だが、父の魔術を、私は軽々と凌駕した。それは彼の理想にはそぐわないものだったのだろう。


 そして彼の魔力を奪い取り、目的も理想も粉々に砕いた張本人でもある、この私。だから私の存在そのものを貶めようとしている。国に忠誠を尽くす、誠実で美しい男・アドルフ・ランスリーという偶像に対して、力ばかり大きく私怨で周囲をも動かす傲慢な娘・シャーロット・ランスリー。そういうことにしたいのだ。


 くだらない話だ。


 私にとって、ベルキス将軍への仕打ちは復讐か? そうだ。私怨だった。認めよう。この男が、私の父母の仇であり、墓荒らしをした糞であるのだから。恨みがないわけがなく、憎しみがないわけがない。……ちなみに、奪われた父母の遺骨や、それが利用された魔道具は現存しているものすべてを回収して、再度荼毘にふし、墓に収めている。


 ただ、私の行動に含まれる意義は『それ』だけではない。復讐だけを理由に動くならば、私がこいつを消して、とっくの昔に終わっている。


 私は、この世界のルールと、私の理性と、友情、そして国家間の事情にまで配慮して、この道を選んだし、この世界の崩壊を止めるためにきちんと手段を選んでいた。


 私は私がやりたいようにしか動かない。だから復讐することを前提に、私の大事な人々がこれからも面白おかしく元気に生きていくことができる道を選択したのだ。


 でも、そうね。どうせ、それを言ってももはや、このくだらない男には理解できないだろう。


 ならばあえて同じ土俵で、わかりやすい答えを上げよう。


「復讐よ。でも満足していないわ。これからもっともっとお前に苦しんでほしいもの。当たり前でしょう? ……それに、復讐だけが理由でもないわ」


 自分は十分に苦しんだと思った? そんなわけないだろ。


「……」

「お前は自分の目的に対して手段を択ばず、邪魔になるものは排除してきたでしょう。私も同じ。私の道にお前は邪魔なの。だから排除したのよ」














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