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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
651/661

10/115 初


 私はメリィから再度、小夏を受け取った。そして小夏には、私の一歩後ろに下がっていてもらう。そうして、亜空間からシュッと漆黒の愛刀を取り出した。


 ――ダン! と、取り出した勢いそのまま、鞘に納まっている黒刀を床に打ち付ける。ぱっと私の足元から光が散って、室内に浮遊する球が九つ、すいっと私たちの傍に寄ってきた。それらは、六組に分かれた国王様達それぞれと、エル・ジル・エー三人の頭上でふわりと浮いたまま動きを止める。


 私は最後に、一度だけルーを見た。彼は何を言うでもなく、ただ微笑んで私を見つめ返す。私も、ただ笑った。そしてエルたちの方へと振り返る。


『小夏、私につかまっていて。――さあ、行くわよ!』

「「「ええ!」」」


 ――ダン! と、再度床に刀を打ち付けた瞬間。私と小夏の足元には風が渦巻き、エルたちはそれぞれの頭上に浮いた球が粉々に砕ける。ハッと皆が息を飲んだが、声を上げる暇さえなく、次の瞬間にはそれぞれの位置へと移動を完了していたのだ。




   ✿✿✿




「ひょっ……!」


 パッと移動した先。――私の場合、それは『秘魔の森』の中心――すなわち世界の中心の、真上。上空一万メートルの高みだった。私の左腕にしがみついている小夏がそのあまりの高さにめまいを起こしたのか、若干ふらついて奇声を上げたが、気絶まではしなかったようだ。


 なお、念話全開でエルたち含め全員を繋いでいるため、世界各地の上空に転送されて互いの姿は米粒ほども見えないというのに、声だけはバッチリ聞こえている。そして各々奇声を上げていたりいなかったり。私に限って言えば、戻りつつある神様パワーにより、彼らの様子や引きつり切った表情までしっかり見えていたりする。


 いずれにせよ、次の瞬間にはもう、空中に転移した動揺よりも気にすべきことに各自が気付いていた。


『――これは……なんだ……!?』


 国王様の動揺しきった声が響く。息を飲む声、悲鳴、同じように焦った声が次々と聞こえてきた。カタカタと、私の左腕にしがみつく小夏の震えが伝わってくる。


「しゃーろっと、さま……、あれ、なんですか……? なんなんですか……っ!?」


 か細い声での問い。示す先にあるのは、ただただ、『真っ白』な空と海。光による白さではない。雲でもない。ただ白い。否、白く見えている。空も海も、全ての色を失って、ただただ透き通るだけのものになっている。例えば光の屈折、反射、法則のすべてを無視してなにもかもが白い。


 私の領域で過ごした時間は、こちらの世界ではたったの数秒。たったの数秒で、世界はここまで崩壊の道を進めた。


 世界は創造主(エイヴァ)に準じて『無』に帰そうとしている。


『あれは、世界が壊れ始めているのよ』


 小夏への答えはみんなへの答えだ。静かに、白く色を失い、そして世界は消えるだろう――このままでは。唐突に訪れた理解できない光景に、地上では阿鼻叫喚が巻き起こっている。今の私には、それ(・・)も見えていたし、聞こえていた。けれど意図的にそれらをシャットアウトする。それらは雑音になる。


 時計の針は進み始めた。カウントダウンは止まらない。

 あとたった十分で、私たちは世界を救うのだ。


『呆けている暇はあるの? さあ、構えなさい。『三撃』で決めるわ! 『初撃』で動きなさい!』

『『『は、はい!』』』

『『『了解!』』』


 合図の詳細を教えておかなかったのは、世界の状態を見て私がどう動くかを決めようとしていたからだ。そして私は判断した。三撃で終わらせると。


 初撃。この世界の『核』を射抜く。この世界の歪みは、創造主である『永遠の神(エイヴァ)』と、管理者である『世界の神(ルーヴィー)』の力が相反するが故にうまれている。だからエーと世界のつながりを砕く。


 第二撃。『核』を砕かれた世界はそのままではやはり崩壊する。だから新たに『核』を作り出す。私の力を撃ち込むことによって。この世界に生れ落ちて十六年……もう数か月で、十七年。この世界には『シャーロット・ラン(わたし)スリー』の力が満ちている。そして私は『全ての女神(ローヴァ)』である。私の力は、ルーにも通じる。ゆえに相反ぜず、適合する。


 そして第三撃。すべての力を固定する。小夏を帰還させるのであれば、この時同時に行わなければならない。


 ――シャラン、と黒刀を抜き放った。左腕にかかる力が強くなる。私は安心させるように微笑み、鞘に刀をつがえる(・・・・)ように構えた。


「!」


 小夏が息を飲む音がしたのは、するりと実に滑らかに『黒刀』が『漆黒の弓と矢』に変じたからだろう。長く私の力になじんだこの武器は、私の願いに応えてその姿すら変える。


 時間はない。小夏には腕ではなく背中につかまってもらい、私は弓を引き絞った。狙いを定める。眼下を見据えて。白く染まった空と海が異様な光景を作り出す世界は、中心たる『森』もまた、歪み変じて白く白く色を喪い、固まりつつあった。


 ぐっと、力を込める。見定める。一ミリたりともズレてはいけない。ミクロほどもたがえてはいけない。


 私には見えていた。世界の『核』、根幹をなすもの。『エイヴァ』につながる何もかも。『ルーヴィー』の力と絡み合い、混じりあい、それでも確かにそこにある。『底』に、在る。


 黒く黒く、私を取り巻く力が膨れ上がる。



『『シャロン!』』



 呼んだのは、エルとジル。初撃――一の矢が、放たれた。












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