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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/114 参と陸。そして壱。


 わんわん泣く小夏をぎゅっと抱きしめる。本当に我慢強い子だと思う。斗海が発行した『刈宮鮮花(わたし)』の伝記なるものをバイブルにしているのはどうかと思うが、それ以外は本当に普通の女子高生だった子だ。


 もっとパニックを起こしてもおかしくなかったし、自分のすべきことが分からなくてオロオロしていたって当然だ。たった十八歳の女の子が、言葉も常識も全然違う世界にやってきてしまって、しかも早々に政争や戦争に巻き込まれるという恐怖は計り知れないだろう。おかげでほぼほぼ軟禁に近い生活になってしまったし。せっかくの異世界なのだから、もっと見てみたい場所ややってみたいことがあっただろう。事故でこちらに来てしまった被害者なのだから、それくらい楽しむ権利は十分あった。


 そう、本来なら帰還までにあと半年、時間があるはずだった。戦争が終わればすべてを説明して、心の準備も別れの挨拶も、やりたいこともゆっくり、すべて、させてあげるつもりだったのだ、本当に。


 その時間が消えてしまった直接的な原因は何かと言えば『私』なので、平謝りするしかないところだ。……が、小夏自身が屑将軍に全責任をかぶせてきたので、全力で乗っかることにした。


 え? でも、私を怒らせたあいつが一番悪いよね? 余計なことしかしない迷惑屑野郎はこういう扱いでいいんだよ。その証拠に、私の周囲にはこの流れに疑問を覚えている人は誰もいない。シルゥ様たちは将軍赦すまじな勢いだし、我らが良心であるエルも、「あれは将軍が悪いよね」ときれいな微笑みだし、我らが常識人であるアーノルド様すらも「なるほど、確かにかの将軍に責任がありますね」と丸め込まれた。よし、大丈夫だ。


 ともかく、しんみりとした空気の中、それでも小夏が泣き止んだのを見計らってそっとメリィに預ける。そしてエルたちを振り返った。


『さて、組分けは決まったかしら?』


 私の問いに、エルたちは力強くうなずく。今回、私が世界の修復と小夏の送還をやっている間、いろいろ影響を受けそうな世界を鎮めるためにエルたちには動いてもらうことになる。そのために、エル・ジル・エー以外の人々を六組に分けてもらうことにした。私が小夏をぎゅっとしている間、男性陣の話し合いに女性陣も合流していたのだ。


 なお、一番影響を強く受け、不安定になるであろう『秘魔の森』は、エルたち三人の担当を私が指名した。そしてそれ以外の割り振りをエルたちに任せていたのだが、さてどうなったのか。


「魔力量や相性を考えて分けてみたんだけど、どうかな、シャロン」


 そうしてエルが示した先で、組んでいる者ごとに分かれてみんながうなずきあっていた。


 まずは国王様とアリィ。

 王太子殿下とメリィ。

 王妃様とリーナ様、そしてディーネ。

 ドレーク兄妹とマンダ。

 ターナル男爵夫妻とノーミー。

 そしてシルゥ様・ソレイラとルフだ。


 なるほど、と私はうなずき、考えられる中で最善の組み合わせだろうと納得する。ルーの表情をちらりと見れば、同じようにうなずき返された。作戦に参加できない彼は手出しこそするつもりはないだろうが、口出しする気は満々というか、『神々の与えた罰』の制限に抵触しないぎりぎりまで協力する気しかない。


 手塩にかけて育ててきた『方舟(アーク)』の未来がかかっているのだ。私たちと同じくらいに真剣である。あの子、私たちの中で一番愛情深い子だもの。


『さあ、みんな、これを受け取って』


 私はパシン! と手を打ち合わせ、ぱっと広げる。するとそこに、黒鋼色の錫杖が六本、シャランと涼やかな音を鳴らして現れた。エルたちがはっと目を見開くのを見ながら、私は現れた錫杖を国王様達、六組に分かれた人々に渡していく。当然ひと組につき一つだ。


「これは……?」

「この、私の領域から出たら、一気にそれぞれを所定の場所まで転移させるわ。ちゃんと足場も作り出すから、転移した場所が空中でも驚かないで。そして、私の合図で一斉に、その『足場』に錫杖を突き刺して、思いっきり魔力を込めてほしいの」


 国王様の声に私が答えると、皆しげしげと錫杖を見る。


「合図はなんだ?」

『その時になればわかりますわよ。簡単に言えば、私の力が『世界』を貫いた時、ね』


 国王様の更なる問いに応えつつ、私は次の準備に入る。すなわち、話しながら何気なく自分の髪を一束掴み、バッサリと切った。それはもう躊躇いなんてなく切ったのだが、……一瞬の静寂が訪れた直後、阿鼻叫喚の悲鳴に空間が埋め尽くされた。


「「「いやあああああああ! お嬢様の髪があああああアアアアアアアアア!?」」」

「「「「えええええええ!? 何で切っちゃうんですかああああああああああああ!?」」」」


 こわ。特に女性陣が発狂していた。見開かれた目が本気すぎて充血しているし、むしろ血涙を流しているように見える。怖い。


 いや、すぐ伸びるからね? 私これでも神様だから。毛髪の長さとか自在だから。あと数秒で戻るから!


 なだめすかし、実際に髪が元の長さに戻っても、落ち着くまでに十分くらいかかった。叫んだ彼女らいわく、髪の毛一筋まで私は至宝なのだそうで……こわ。


 なお、阿鼻叫喚が収まるまでの間ずっと髪の毛を鷲掴みにしているのはアレだったので、とっくに変形させている。三振りの漆黒の剣へと。


『ゴホン。えっと、今度はエル、ジル、エー。これをもって、持ち場について。使い方は錫杖と同じよ』


 ただし、私自身の髪を媒介にしている分込められた力が強い。阿鼻叫喚の女性陣たちに一歩引いていたエルたちだったが、苦笑しながら私の傍にきて、剣を受け取る。すると持っただけで込められた力の強さが分かったのだろう、エルとジルはゴクリと息を飲んだ。さすがにエーは平然としていたけれど。


『それぞれの持ち場は、聞いたと思うけれど、一応確認ね』


 パチン、と指を鳴らして、立体映像再び。世界全体の地図が空中に浮かび上がる。そこに黒と白の点が光る。黒の点三つ、『秘魔の森』を囲むように。白の点は六つ、三人をさらに囲むように。そして『秘魔の森』の最奥……中心部をとん、と指さす。


『ここに、私が行くわ。小夏は、私と一緒よ』


 こくこくとうなずく小夏に微笑みかけ、私はぱっとルーを振り返る。


『あと、何分?』

『十分、だな』


 それは、世界が崩壊するまでのカウントダウン。


『さて、聞いたわね。すべてはこれからの十分間で決まるわ』


 不安な顔はない。何故なら――私たちは信じあっている。









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