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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/112 ゆえに、『ひと』足り得る


「えっ」


 国王様の思わずといった声が漏れた。どんぴしゃりで自分たちに関係する話だったことに激しく動揺しているようだった。判る。私も最初にこのことを知った時には。『うちの話かよ!?』と突っ込みを入れずにいられなかった。そしてこの場にいるのは一人残らずメイソード王家とランスリー公爵家の関係者である。驚愕が支配するのは当然だった。


 しかし、そんな動揺をガンスルーしてルーは続ける。


『まあ封じるのは、『魔』の力というか『魔の力を蓄積された森』なんだが。森を封じるとエーの力もある程度制限されるから似たようなものだな。そして、『初代国王と公爵の血を引く子孫が固い信頼関係がある限り『秘魔の森』への封印が続く』という盟約を結んだのだ』

「……っ」


 国王様は息を飲んだ。アリス様と王太子殿下は眉根を寄せ、ジルはきれいに笑っていた。エルとアリィ・メリィ、『影』四人娘はそっくりよく似た微笑を浮かべていた。……なるほど、彼らはすぐさま、気づいた(・・・・)らしい。一方で、いまだピンと来ていない者もいるようだ。


 ――そう。王弟(・・)・クラウシオ・タロラードが、アドルフ・ランスリー公爵を手にかけたがゆえに、古の封印は破られたのだ。


「クラウ……わが弟のしでかしたことが、原因なのですね」


 後悔のような、嘆きのような、自己への怒りのような。国王様の表情は複雑だった。ピンと来ていなかった面々もその言葉で察した。みんなには、第一回若者会議で事件の真相まで情報共有したからね。


「なぜ、『信頼関係』という目に見えないものを、盟約のカギになさったのですか……?」


 尋ねたのは、思わずと言った様子のリズ様だ。合理的な手段を好む彼女には、確かに疑問だろう。そんな彼女を、ルーはぴたりと見据える。


『……神はすべてを救わない。まさか、神の傀儡になりたいと人間は望んでいるのか? 違うのだろう? ゆえに託した。選んだのは人間だ。……あの混沌の時代、他人を信じるのは今より難しかっただろう。それでも――彼等(・・)は我との盟約を結んだのだ』


 ルーは言った。選んだのは人間だと。……その盟約の条件を望み、受け入れたのは、メイソード王国とランスリー公爵家の始祖なのだ。


『ま、私やエルと、ジル達との関係が良好だからある程度封印の効果が持ち直してはいるのよ。だから『魔物の氾濫(スタンピード)』が起こったのも、かなりの年数が経過した後だったでしょう? ……まあ、ベルキス将軍が森でいろいろとやらかしたのもあって魔物が狂暴化したのも『魔物の氾濫(スタンピード)』に拍車をかけたけれど』


 本当にあの屑はロクなことをしない。ただでさえ世界の歪みの所為で不安定なぎりぎりの均衡を綱渡りしていたというのに。


 ともかく。


『じゃあ、話を世界の歪みのことに戻すわよ。……目に見えた影響はそれほどなかったけれど、歪み自体は大きくなっていたのよ。でも私が修復するにしてもそれに耐えられるほど世界の成長が追い付いていなかったのよね。だから、世界の成長と歪みが拮抗するギリギリで、一気に修復してしまいましょうってことになっていたのよね』

「そう、なん、だ……?」


 エルは、こんなとき、どういう表情をすればいいかわからないの……。とでもいいたげな微妙な顔だった。もう無表情でいいんじゃないかな。笑う場面ではないだろう、たぶん。私は満面の笑みだが。


 その満面の笑みのまま、私は告げた。



『そしてここで発表です。私が、あの世界で顕現したことで、一気に歪みが進みました!』

「「「「は?」」」」」



 エーまでそろってとてもきれいな唱和だった。ルーは頭を押さえていたけど。しかし私は躊躇せずに続ける。



『世界はあと少しで崩壊してしまいます』

「「「「は、はああああ!?」」」」



 ガタガタっと立ち上がるもの多数。まあ、うん。そうだよね。何を悠長にしているのかと焦るよね。判ってる。しかし、だ。


『はい、焦らない! 今いるこの領域での時間はあちらでの数秒にも満たないから充分間に合います』

「あっ。……ああ、そうでしたね」


 立ち上がっていたジルが再び座る。ほかの子たちもそういえばそうだった、とほっと息をついて各々席に着き、落ち着くためか紅茶をすすった。一瞬だけ、まったりとした静寂が満ちる。紅茶おいしいわあ……。


 そして一拍置いたのち、ジルが口を開いた。


「それで、シャロン? ……私の予測ですが、その崩壊を何とかするよりも先に、私たちをここに集めた理由があるのですね?」


 その言葉は確信をもって投げかけられた。まあ、それもそうである。その『理由』がないのならば、なんやかんや説明するにしろ何にしろ、世界の安全確保してからでもいいんじゃねって話だ。


『もちろん。一つは、小夏のことね。彼女をもとの世界に帰還させるには、世界の挟間を通り抜けなくちゃいけないのだけど、彼女の体や心を無事に送り届けることができるのは、世界を修復するその瞬間のみよ』


 バッと、ものすごい勢いで全員が小夏を見た。当の本人は愕然といった様子だった。うん、彼女、割と蚊帳の外っていうか、傍観者に近い立ち位置で聞いてたもんね。それが突如中心人物である。比喩でなく三センチくらい椅子から飛びあがった。そして「にゃんですと……!?」とキャラ崩壊している。落ち着け。


 ちなみに、彼らを集めた理由はもう一つある。


『あと、世界を修復するにあたって、現状を保つために私がいろいろと補助した場所への不安があるのよね。ほら、戦争が始まる直前、嵐が来たとか地盤沈下がおきかけたとか、いろいろあったでしょう? あんな感じの場所が複数あるのよ。私の魔術で何とかしているんだけど、世界修復のために力を使うとそっちが影響を受けそうなのよね。だからエルたちに何とかしてもらおうかしらって思って』


 何せルーは手出しできない決まりだし、エーに至ってはまだ神力取り戻してすらいないし。私も、自主的封印破って力を取り戻したのはついさっきなもので、エーが神格を失った状態に適応するのにアホみたいに長い時間眠り続けたのと同じように、私だってすべての力を取り戻すには相応の時間がかかるのである。


 つまり、世界の修復という一番大事な部分に集中したいのだ。よってその他はみんなに任せることにした。ここに集まったメンバーならいける。まさに信頼と必要性で集められたメンバーである。


「シャロン……。そういえば、僕らの魔力がいつの間にか回復しているのはそういうことだったんだね……?」


 そういうことである。エルたちは遠い目をしているが、やる気はあるようだ。ぐっぐっと手を握ったり開いたりしているし、じゃあどこに行ってどうすればいいのか、などと具体的な話を進めようとしているし、何なら役割分担を話し始めている。


 なお、女性陣は小夏との別れを惜しんでハグの嵐を降らせていた。小柄な小夏は今にもつぶれそうだけれども、「なんてやわらかフローラル……!」などと言って幸せそうなので、大丈夫だろう。


 なんだかんだ言っても、あれは彼らの世界なのだ。


(……私が救ってあげるから、自分たちで守りなさい)


 さあ、行こう。












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