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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/109 あるいは、互いに手の届かぬ別離


 いろいろと脱線した気がするが、まあいいだろう。私は義弟たちにこれでもかと愛されている、とすべてを受け入れた。


 ともかく、話を戻そう。ちょっとルーがしなびているけれど、些細な問題だ。あの子は二度見するほど打たれ強いので、しばらくすれば復活することを私は知っている。


『それで、簡単に言うと私たちは間に合わなかったわ。エーがいるであろう場所にむかっている最中にあの子がやらかしたものだから、崩壊が始まったのよね』


 私はそう言い、再び動き出した室内の映像は崩壊していく世界の光景を映し出していた。映像に写るかつての私も盛大に舌打ちをしているが、それらを見ているエルたちも呆然とした後エーをじっと見つめていた。エーはふいと視線をそらした。


 映像の中では私とルーが協力して崩壊を食い止め、エーをひっ捕まえたところまでを映し出し、ようやく止まる。


「え。……思ってたより崩壊してたよ? え? 大丈夫だったの?」

『全然大丈夫じゃなかったわ。エーの作り出した『方舟(アーク)』に住まう知的生命体は永遠を失い、全て死に絶えたもの。それに崩壊の余波を受けた無数の神々の世界が天変地異とか次元の歪みとかでとんでもないことになったわ』


 今思い出しても頭が痛い。何とか私とルーが間に合ったからこそ、消滅した世界こそなかったが、被害は甚大だった。そしてブチ切れた神々もたくさんいた。


『……ジル。あなたたちの住む世界の、大陸の形って知っているかしら?』

「え? そうですね、北東にある連合諸国を除き、『秘魔の森』を中心にほぼ円形に大陸が配置しています」


 私の唐突な問いに答えたジルに、うなずきを返す。小夏は流石に知らないだろうから、パチンと指を鳴らして空中に世界地図を描いた。


『ええ、ジルの言う通り。ここ、北東以外は丸く配置されているのよね。これもエーの本質を表しているのよ。『円』は永遠の象徴だもの』


 なお、地下や空、海が延々と続き果てがない形状であるのもしかりである。そしてそれを聞いたエルたちはうなずき、やがて「あ」、と何かに気づいた声を上げた。


『そう、もとは『森』を中心にまん丸い一つの大陸だったのよね、あの世界。でも今は亀裂が入って複数の大陸に分かれて、連合諸国がある……つまり、あそこにエーの一撃が入ったから、ああなったのよ』


 丸いせんべいの右上をかじったようだ、と以前思ったが、丸い大陸の右上にストレートパンチが入って砕け散った、というのが実情に近い。


「……くだけちった」


 エルがドン引きの声でエーを見た。エーは頑なに目をそらし続けた。


『――そうして、我々は『罰』を受けることになったのだ』


 そこで、復活したルーが重々しく告げた。みんなの視線が彼に集まる。


「……『罰』、ですか」

『うむ。神々にも不文律……やっていいこととやってはいけない事ぐらいはある。そして普通なら、あれだけほかの神々の『方舟(アーク)』に被害を与えたならば存在を滅されても致し方なかった』


 ルーの言葉に、私は再度パチン、と指を鳴らす。映し出されたのは、甚大な被害を受けた数多の世界(・・・・・)だ。先ほどはデフォルメ過多だったが、今度はそうしない。


 それでも、ほんの一部、しかも本当にひどいものは除いて、さらりと俯瞰で見せたに過ぎないが。それであっても、その悲惨さは息をのむほどの物だった。さらにここに集まるのはほぼすべて王侯貴族――為政者である。それらの被害がもたらした結果(・・)を予想できないわけがない。女子高生であった来た小夏でさえ、口を押さえて絶句している。


 エルたちは見た。エーを。彼は……もう目をそらしていなかった。ただ、私が映した映像を見ている。見て、そして――ああ、この子は、ようやく後悔をしたのだと、己の愚かさを悔いたのだと、……それができた(・・・)のだと、私とルーは知ったのだ。


 あの時、はるか昔に起きたあの事件の折、この子は、自分の行いが何をもたらしたのかは理解しても、なぜそれをしてはいけないのかを理解できなかった。慈しみ育てた世界に手を出された神々の怒りも、悲しみも、憎悪も、絶望も、解らなかったのだ。そんなこともわからなかったから、あの子は軽率にその強大な力をふるってしまっていた。


『当然、『方舟(アーク)』を傷つけられた神々は怒り狂い、エーの断罪を望んだわ。そして私たちも、普通ならそれを無視はできなかった。……ただ、エーが担うものは簡単に滅してしまうには大きすぎたのよ。腐っても『最初の三柱』の一角だからね。あの子を滅してしまうと神々の世界が根幹から揺らぎかねなかったの』


 ゆえに、と私は続けて、首を巡らせる。静かに聞き入る彼らに、あえてカラッとした声で言った。


『私たち三柱で、『罰』を分担することにしたのよ。私たち二人の監督不行き届きもあったしね』

「へぁ!?」


 ふふふ、と笑う私に、衝撃を受けた、という顔で奇声を上げたのは小夏。しかしその他の面々も実に感情豊かな表情をしていた。ちょっと面白かったが、ここで噴き出すわけにはいかないと自制した。


『あの、ロー姉、その、我……』


 珍しくも眉を下げたエーが気まずそうに何かを言いかけたが、結局言葉が見つからずに黙り込んだ。それもまた、この子の成長なのだろう。私はエーには答えずに、話しを続ける。


『エーへの罰は、神格をはく奪し、神力を隔離封印したうえで、己が破壊しようとした世界に堕とすこと。もちろん記憶も封じてね』


 なお、この時、隔離封印した神力を神々の世界の維持に使用している。エーが存在さえしている間は根幹的につながっている神力は尽きないんだけど、エーを滅しちゃうと減っていくばかりになるのである。


『そしてエーは、この世界で『己の罪悪』を自覚し、心から悔い改めなければいけなかったの。そうしなければ封印は解けず……長きにわたる時間の中で神々によって育てられた次の『永遠の神』が生まれることになっていたのよ』


 ぺらっとそう付け足すと、まさについ先ほど起こった、『エイヴァの暴走→私が間一髪防ぐ→エルとジルへの謝罪を行った』という感動の仲直り劇が思い起こされたのだろう。アレか!? と雷が落ちたかのような顔をしてエルとジルとドレーク卿が互いに顔を見合わせていた。ソレである。


 ちなみに、遠目や映像転送魔道具で大枠は把握していたのだろうそのほかの面々も『アレかあ』と遠い目をしていた。その時遠い他国に散っていて、そんな仲直り劇など知る由もないシルゥ様・ソレイラ含む『影』四人娘たちは若干首をかしげていたので、メリィとアリィから簡単に顛末を聞いていたけども。


 ……まあ、そんなこんなで、結果的に今、エーの封印は解けたのだ。なんていうか、最初に私が『エイヴァ』に対峙したあと、目に見える処罰をしなかったのも、大事な人を作ることでその人たちに何かがあった時にどんな気持ちになるか理解しろ、という意図があったんだけど。神々からの罰に完全に一致したよね。その時、私まだそこまで思い出してなかったんだけどね。


 とにもかくにも、そうして『罰』を受けて悔い改めたエーは、私たちか隔離封印している神力さえ戻せば神格も取り戻す。神々が育てていた次の『永遠の神』候補は、たぶんその子に合った別の神として生まれるのだろう。


 そこまで心の中で思いをはせたのち、みんなのざわつきが落ち着いたころを見計らって、私は話を続ける。


『ルーへの『罰』は、本来三柱で保つはずだった神々の世界を含めたすべての統治。この時、ついでにエルたちの世界もルーに管理者権限が委譲されたのよ』

「ついで」


 何か言いたげな国王様の復唱に、私は肩をすくめた。


『ま、エーへの罰に使う必要があったというのもあるわ。ほかの神々は自分の世界にエーを受け入れたくなかったみたいだし、新たに創造すると忖度が入りそうだし。この世界は一度崩壊寸前までいった上、そもそもエーとルーの力って根本的に相反している部分があるから、ここまで安定させて育て上げるのは『世界の神』であるルーにしかできなかったでしょうね』

「おおお」


 国王様の感嘆の声が上がる。そこはかとなくルーが得意げになった。イラっと来たので無視して私の話に移ることにする。


『そして私は……』

『ロー姉が受けた『罰』は、神格と記憶を封印したうえで、エーの力の余波で崩れかけた世界を巡り、その傷を癒すことだ』


 なぜか、私の言葉をさえぎってまで言ったのは、さっきまで得意げだったルーだった。












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