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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/108 全なるものの最愛(アレクシオ視点)

11/6 すみません、ターナル男爵夫妻の存在が抜けていたため、今話以前の各話に追記しております。


 あー、たぶんこの映像、本来は全部神々の言葉なんだろうけど、俺らのために翻訳再生しているんだろうなあ、軽く二重音声で聞こえるもんなー。


 と、俺が思っていたのは、はっきり言って現実逃避である。だって目の前でシャロンを巡る混沌(カオス)が始まったからな。爆弾落とした本人は至極楽しそうだし。うちの粘着質な息子と帝国のやっぱり粘着質そうな皇女と、何気に一番怖いランスリー公爵に詰め寄られているというのに余裕すぎだろ、あいつ。


 とりあえず、俺含む数名は、嵐が過ぎ去るのを待つしかない。盛大に脱線しているのはわかっているが、時間経過はあんま気にしなくていい場所みたいだし、そもそもこの場の約半数がシャロン過激派なせいで、関係ない話はいったん横に置くという発想が蹴りつぶされている。


 てか、シャロンとエイヴァに対しては今更として、ルーヴィー様には一応残っていた礼儀や遠慮ももう残ってないなあいつら。あの人ら……人じゃないけど、とにかくシャロンたちって雲の上すら突き抜けた存在のはずなのにな。俺らのレベルで話してくれるせいでそんな感じしねえな。


 あー、そういや、二、三年前にシャロンに想い人がいるってことで王国に激震が走ったことがあったが、確かあの時、どんなに探してもその相手が見つからなかったせいで、話は紆余曲折を経た挙句、『きっとシャーロット様の相手は人ならぬもの。シャーロット様は神に愛をささげておられるのだ』ということに落ち着いたんだったな。


 何がどうなってそこに落ち着いたのかさっぱりわからないと、当時の俺は遠い目になったが、シャロンは輝くばかりの笑顔で受け流し、肯定も否定も一切していなかった。あの荒唐無稽な着地点がまさかの大正解だったんだな。通りで相手が見つからねえわけだよ。地上にいないもんな。仕方なかったな。


「シャロンの幸せは祝福したいよ? でもそれはそれとしてシャロンは僕の姉上だし、まだまだまだまだお嫁にいかなくていいと思ってるんだよ!」

「そうですよシャロン、今すぐ婚姻というわけではないでしょう? あと百年くらい後でもよいのでしょう?」

「お姉さまあ! わたくしまだまだお姉さまと一緒にいたいですわ! お姉さまと過ごす時間が減るのは悲しいですわ!」

「シャーロット様、あたし、あたし、女神様は唯一絶対なので、旦那様が誰であってもシャーロット様が絶対です……。でもでも、シャーロット様、ああ……うええん」

「お嬢様、……それがお嬢様のご意思というのならば我らは血涙を呑んで盛大に祝福いたします……。こちらのルーヴィー様には、もちろんお嬢様と、この世のどなたよりお幸せに、笑顔で、折れることなく、ともに歩んでいくお覚悟があるということでございますよね? 当然そのお幸せな道には我らも同道いたします。それを受け入れて下さるほどに器が大きい方であられるのでございましょう?」


 脅迫か? 俺はそう思った。


 恐怖を感じてアリスを見たが、彼女は笑顔で微笑ましそうだったし、ラルとイリーナ嬢を見てもやはり微笑ましそうにしていた。……俺がおかしいのだろうか?


 なお、ターナル男爵夫妻は部屋の構造に夢中だし、ネイシア嬢は事の成り行きを見守るがごとく真剣な瞳でシャロンたちを見ていたし、ドレーク卿はラルたちとジッキンガム卿だけを見て幸せそうにしていたし、ジッキンガム卿にいたっては完全なる無の表情だった。……俺も、全てを受け入れてほほ笑むのが正しいのかもしれなかった。


 ――まあ、ほかの奴らがどう考えているのかまでは知らねえし、過激派どもに共感も出来ねえんだけど。俺はシャロンに、そういう風に想える相手がいて、よかったと思うんだけどな。想い合っていると、わかる相手でよかった、と。


 あれだけ詰め寄られても一切揺らがないのは、ルーヴィー様にとってあいつらが木っ端程度の力しかもっていない事なんかが理由ではないだろう。だって、かの神は、適当なあしらいすらしない。揺らがないほど、適当に済ませないほど、互いに強固で深い想いがあるのだろう。ないわけがないよな。何千年では済まないほどに長く、寄り添ってきたのだろうから。


 かつて。『シャーロット・ランスリー』は最愛を失った。俺の弟が奪ったのだ。その用いた手段がどうであれ、裏で唆したのが誰であれ、実行したのは、クラウ――クラウシオ・タロラードだった。全部思い出したのは割と最近だ、とシャロンは言ったが、それはいつ、どのようにして思い出したのだろう。一気にすべてを取り戻したわけではなさそうだった。そして俺が知る彼女を思い出す限り、両親を失ってしばらくしてから、記憶を取り戻し始めたのだろう。


 両親を失った時のシャロンは、正真正銘たった九歳の幼く弱い少女だったのだ。


 やがて少女は変わったが――けれど、『ランスリー家の怪』と呼ばれた事変が起こった時も、『人ならざる』と自覚をしているようには見えなかったから、あれは『思い出している途中』だったのではないだろうか。


 彼女はあの頃変わり、強くなった。でも、多分あの時の彼女は、『人』としての記憶だけで生きていた。誰より強い彼女は孤独すら欠点にならなかったし、それが強がりでも何でもなかったけれど、それでも幼い子供だったのだ。


 寄る辺のない少女に、それでも俺は彼女の隣に立つことはできない人間だと一歩引いていた。


 それを後悔はしないし、あの頃に戻れたとしても俺がとる選択肢は同じだろう。


 だからこそ今、心からよかったと思う。彼女がただ人ではないとしても。彼女は最愛を、見つけたのだ。取り戻した、と言った方がいいのだろうか。ともかく、ずっと一人で多くの物を背負い、独りで立っていた少女は、もういない。


(アドルフ、ルイーズ。……よかったな)


 ……いや、アドルフは娘を嫁にはやらないと泣き叫ぶかもしれないけども。そんでルイーズに拳で沈められるんだろうなあ……。ははっ。


 思わず漏れた笑いに、アリスが俺を見上げ、柔く笑んだ。俺が返した笑みも、同じ柔らかさだったと思う。


 ――とまあ、それはそれとして、そろそろこの尋問終わらねえかな。体感でもう小一時間経ってるけども。そんで、ルーヴィー様は流石にぐったりしているものの、シャロンは『あらあら、かわいい義弟たちに私は愛されているわね』といった様子で変わらず楽しそうだ。一方過激派たちはますます喧々諤々話し合っている。もはやお前ら全員シャロンの小姑なのかと言いたい。


 ちなみに、割と空気になっているエイヴァは、恐怖しか覚えない笑みでジルとエルシオに凄まれて、いいように言質を取られている。そうしてエイヴァが自分(実兄)よりジル達(友達)を取ったことに衝撃を受けたルーヴィー様は半泣きだったが、シャロンに『そういうお年頃なのよ』となだめられていた。彼女らはエイヴァの親なのだろうか。


 ……で、さらに一時間くらいたってから、やっと『シャロンはシャーロット・ランスリーである限りエルシオ・ランスリーの姉であり、嫁には行かない』と決定したらしい。承諾したシャロンを信じられないものを見るような目でルーヴィー様は凝視していたが、『あら、待てないの?』と挑発的に笑んだシャロンに『待てるけども!』と叫び返していた。掌の上で転がされている、と世界神(ルーヴィー様)を憐れんだのは俺だけではあるまい。


 ……うん、途中から、手持無沙汰な俺たちのために、そこらにふわふわしている球を覗かせてくれたりとか、シャロンも一応気を使ってくれたっぽいけど。それがアリスとイリーナ嬢とターナル男爵夫人のためだったとしても、大変助かったけども。


 だが、それでも言いたい。絶対にシャロンの鶴の一声で収まった尋問会だったのだから、もっと早く止めてくれよ、と。














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