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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/107 最初の三柱(ルーヴィー視点)


 あー、そうだったなあ、『番い』としてロー姉と我の二柱だけで動くことも多かったんだよなあ、と思いながら進んでいく過去の景色を追っていた時だ。


「ちょっ……と待って。待ってください。え? なんですって? 『ツガイ』? シャロンと? は?」


 ぐしゃっと複数個所から破壊音がしたと思ったら低すぎる声音でエルシオ・ランスリーが言った。……今の本当にこの子の声だったろうかと耳を疑うほどにドスの利いた声だった。


 しかしそれは彼だけではなかった。第二王子に帝国皇女、侍女を筆頭とした使用人全員が我を見ていた。なお、地球人の少女は放心していた。


「私も詳しく伺いたいです。誰と誰が何ですって?」

「うふ、ふふふ、うふふふふふふふふふふふふふふ。お姉さまはわたくしのお姉さまよね。そうですわよね」

「お嬢様はわたくしたちのお嬢様でございますよね。運命? 信じません」

「「「「「信じません」」」」


 え、こわ。は? 怖っ。バッとロー姉を見た。彼女は優雅に紅茶を飲んでいた。むしろ茶菓子をむさぼるエーの口の端をぬぐっていた。仲良しか。


「……というか、ご姉弟、なのですよね?」


 荒ぶる『シャーロット・ランスリー過激派』たちに我がドン引きしていたら、見かねたのか国王が口を開いた。同時にこれでもかという眼力で過激派たちに彼はにらまれていたが、根性で気づかなかったことにしたようだ。


『ん? うむ。人間のそれとは異なるが、姉弟ではあるな』

「それは……」


 国王たちはわずかに困惑に眉をひそめたが、それはどういう意味なのだろうか?


『神族にはあんまり関係ないのよ。そもそも『血がつながっている』という定義にすら当てはまらないもの。『兄弟姉妹』と称する理由は同じ神から生まれた、というだけだし、そもそも人間と同じように婚姻を結ぶわけではないからね』


 我の戸惑いに気づいたのか、ようやくロー姉が口をはさんだ。なるほど、人間の法律では禁忌の一つであったか? だがまあ、神々には確かに特にそういった縛りはないな。必要がないともいえる。何なら涙や頭髪からも新たな神々が生まれるのだぞ? 『番い』と言いつつ三人や四人で番っている場合もある。そして基本的に、手を握り合ったり、むしろ祈るだけだったり、或いは同じ聖物に対して力を注いで新たな神を生むこともある。


 人間などのそれとは、根本的に異なっているのである。


 もちろん、神々に恋愛感情が存在しないとは言わない。むしろ愛の神などもいるし、恋多き神々もいる。だが、人間の恋愛観よりも自由で多様だといえるだろう。


『我とロー姉は、『原初』に最も近いからな。我らが並び立つ『番い』となり、エーが決して崩れぬものとする『要』となるのだ』


 『原初』には、隣に誰もいなかった。我ら三柱すらも隣ではなくあの方の背中を見ていたのだ。それでもあのお人はすべての神々の頂点に立っておられた。お父様のすべてなど、我は知らない。ロー姉でさえもご存じないだろう。あのお方が完璧だったともいわない。迷惑なら数えきれないほどかけられてきた。支えてきた自負は我らにもある。


 それでも、最後はすべてをあのお方が決めていた。


 そんなお父様を、我らはずっと見ていた。長く長く、見ていたのだ。似たことはきっとできる。ロー姉ならば力は十分だろう。実際に、ロー姉こそが頂点に立つのだと、思っていた神々は多い。我らは最もお父様に近かった。力も、立ち位置も、心も。


 逆を言えば、我らとそのほかの神々には隔絶と言えるほどの差が未だ在る。きっと多くの神々にとって、我ら三柱の力の差はほぼ比較も出来ず、誰が立っても同じだとも感じていたことだろう。そうであることを察していた。エーすらもだ。


 それでも、三柱で支えあい、補い合うことを選んだのは、思い出せないほど昔の話だ。


 そう、我らは選んだのだ。強制されたことはない。それをお父様は一度も我らに問うこともしなかった。選択肢は常に我らの手にあった。


 つまり、我らは放棄も出来たし、静観も出来たのだ。その他の神々など捨て置いて、自らの世界だけを慈しむことにしても、誰にも文句を言わせない、そんなことができるだけの力を持っていた。もちろん、我らの内、ひと柱だけが上に立つことも出来ただろう。それでもそれをしなかった。三柱で立つことを選んだ。


 それが最善だったからではない。そうしたかったから、そうあることにしたのだ。


 ……まあ、だからといって本質が変わることはないのだが。というか、神々を統べる立場に必要なのは、やらかした神々を抑え込める強さと、神々の住まう世界を管理できる能力と、神々の持つあらゆる力の影響で常に不安定な理や力場などを安定させる力なのだ。


 それ等さえ持っていれば、実行する神の性格――本質は、よほど破綻していなければ問題ないということだ。我らがお父様も割と理不尽だったが堂々たる『原初』だった。そういうことだ。


 そしてエーは能力だけは大体備えていたが、いかんせん寂しがりで一等幼い心のままだった。我やロー姉が一緒なら『エーのわがまま』で済むのだが……我らはエーの我慢強さを過信していた。かくして傍にいられなかった結果、あんなことになって、今、こんなことになっているのだ。


 と、いろいろと考えつつかいつまんで説明をしたところ、若干過激派たちの視線が緩んだ……ような……?


「なるほど。つまり、『人間』でいう恋人や夫婦とは違う、とそういうことか、シャロン」


 納得したようにうなずく国王。そして周りは、「たぶらかされたのではない、ってことだよね、シャロン?」「そういう『役職名』である、ということなのでしょうか、シャロン?」「お姉さま、つまり恋愛ではないのですわよね、ね! わたくしだけのお姉さまですものね!」「あたしの女神はやはり女神……!」「お嬢様……!」と、我に対する視線は逸れたが、ロー姉に対する勢いが強まったような。地球人の少女も復活してるし。


 この人間たち、怖い。しかも我が触れないようにしていた、『我らの気持ち』の部分に踏み込んだ。ヤバい。我は何とか収めてくれとロー姉に視線で懇願した。だって今、盛大に本題から話がずれている!


 しかし、ロー姉は無情にも言った。



『あら。ルーも言ったでしょう? 選択肢はいろいろあったのだから、私が選んだのよ。たとえルーだけその気でも、私が嫌なら拒否るわよ。当然でしょう? つまり人間でいう婚姻を結びたいと思うのは、私にはルーヴィーだけよ』



 そういう意味で、愛しているから、と。



 爆弾だった。









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