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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/106 罪科を問う(ルーヴィー視点)


 我はルーヴィー。ロー(ねえ)に振り回されまくっている『自称神』である。自称ではなく神なのだが? 最強に近い神だが? むしろお父様が眠り、ロー姉の力がまだ完全に戻っておらず、エーに至っては実は今も我とロー姉で力を隔離封印したままだったりする現状、まぎれもなく一番強いが?


 ……『シャーロット・ランスリー』であった姉上にさんざん好き勝手されたのは、もろもろの影響を考えて我の力のごく一部しか遣わしていなかったからだからな! だから青っぽい光にしかなれなかったのだ!


 それはともかく。


 ロー姉が話し始めたあの事件……エーによる世界創造・破壊・神堕ち事件が、今ここで集まっている理由の発端である。


 あの事件は、……うむ、我々の監督不行き届きゆえに起こったのだ。


『まあ、見た方が早いわよね!』


 そう言ってロー姉は、パチンと指を弾いた。室内を漂っていた球が光を放ち、我々はまたしても遥かなる過去を視ることになるのである。


 我は思う。我らの黒歴史をこうも躊躇なく暴露するこの姉は、やはり一番お父様に似ている、と。




   ✿✿✿




 それは、お父様の姿を見なくなってかなりの時間がたったころ。寝耳に水の事態を、部下である下級神から聞かされたのだ。


『はあ!? エーが世界創造をしただと!? しかも『箱庭(ガーデン)』ではなく『方舟(アーク)』!? あいつは阿呆か!?』

『あの、その、エイヴァ様はいつもの気まぐれでどこかへ姿を消していらっしゃったのですが、お戻りになったと思ったら、『世界を創った!』と楽しそうに……』

『あああああもおおおおお! あいつはあああああ!』


 ひい、と下級神は悲鳴を上げてのけぞり、慌てて頭を下げて逃げるように出ていった。……あやつに当たっても仕方がない。エーを止められるのは私とロー姉だけだ。ここしばらく静かだと思ったら本当にあの子は……。


『しかも『方舟(アーク)』だと? エーには絶対に向かないからやめておけとあれほど言ったのに』


 そも、エーは『永遠』である。不変であり純粋である神。エーは、『永遠の神(エイヴァ)』は、『方舟(アーク)』の創造に最もむかない神のひと柱なのだ。


 破壊神や死神など、『方舟(アーク)』の創造に向かない神々はいる。その神の本質が、創造する世界にも反映されることが多いからだ。もちろんそうならぬよう、器用に調整する神々もいるが……エーにそんな繊細さはない。私は知っている。繊細さは、ないのだ。


 エーは『永遠』だ。だから『箱庭(ガーデン)』ならばその本領を発揮できるだろう。本気を出せば、ロー姉にすら侵せぬ不変の世界を創り上げられる。


 しかし『方舟(アーク)』は別だ。エーの本質は不変に通ずるがゆえに世界は発展しない。変化をしない。作り上げられた時点が完成であり、そこからの進化をしない。できない。その思考を持たない。それをおかしい(・・・・)と思うこともなければ厭うことすらない。その性質を最初から持っていないのだ。


 知的生命体を生み出したところで、結果は同じ。それはただそこに生きるだけの動物と何が違うのだろう。


 だから、発展を、変化を、進化を、『人間の自立』を求めるのなら創造に相応の手間をかけろと、私たちはエーに言って聞かせていた。なぜなら、手順を踏まず、調整もせず、ただ力を注ぐだけでは、その生き物はどうしようもなくゆがむ(・・・)から。


 それでも、その世界をエーが慈しむのであればいい。ゆっくりと共に成長するように、おのが本質すらも凌駕する力をはぐくむのであれば、それもまたあの子のためになるだろう。


 けれど。


『あああああもおおおお、どうせ、暇だったから作ったのだろうな! 私もロー姉もかまってやらなかったものな! 忙しかったから!』


 どうせそれがすべてである。私は知っている。あの子は絶対何も考えていないし私たちの教えを実践していない。知っている。長い長い長い時を共に過ごした兄弟なのだから。


『せめて私か姉上に一言声をかければよいものを!』


 そんな気遣いができる子じゃないことも知っているけどな! 思い立ったら即実行の子だからな!


 ――神にも、不文律はある。超越した力を持つがゆえに、私たちは自らを戒めているのだ。それができるからこそ、我らは高位の存在なのであり、そうでないものは神格から堕ちてゆくのである。


 世界の創造は誰もがする。『領域(テリトリー)』、『箱庭(ガーデン)』、そして『方舟(アーク)』。『領域(テリトリー)』を持たない神はいないし、『箱庭(ガーデン)』も持たない方が珍しい。


 『方舟(アーク)』も同じだ。創造し、育み、滅ぼし、また再生する。神々の間で管理する世界同士を交換したり、共有したり、交流をさせたりと様々ある。


 だが己の管理下にない他の神々の世界に、無断で手を出すことは許されない。たとえ上位の神々が下位の神々にそれをするのであっても、許されないのだ。


 特に、『方舟(アーク)』は。それは神々が愛おしむもので、神々だけではない人の手で育ってきた世界であるからだ。


 それを前提として。


 断言するが、エーは創造した自らの世界に早々に飽くだろう。そしてその世界を放棄する。……放棄するだけならいい。私やロー姉が後を引き継ぐことも出来るし、『箱庭(ガーデン)』に作り替えてもいい。


 けれど、もしもあの子が放棄だけでなく破壊をしたら、それはあの子の世界だけに影響をとどめないに決まっている。加減のできない子だ。そして永続性を持つその力は何処までも破壊を推し進める。


 すなわち、ほかの神々の管理する世界までもが崩壊する危機なのだ。


 そう、危機なのだ。だから、私とロー姉は、『方舟(アーク)』をエーが創造することを止めていたのだ。『方舟(アーク)』をあの子が作り出せば、最終的にどうなるかわかり切っていたから。


 ……というか、昔、時間があったころ、複数回にわたって挑戦し、私たちも指導し、にもかかわらず最終的に投げ出したという前科がエーにはある。あの時の私とロー姉には徒労感だけ残った。


 つまり、あの子は『方舟(アーク)』の創造にも向かなければ、管理者となるにはいろいろと足りていないのだ。今は特に忙しいから、私とロー姉がいつもいつでもつきっきりで助けられるわけではないのだし。……つきっきりになれないからこんなことに……。


『あの子はもう少し我慢強いと思っていたのが間違いだったのか!? ああ、本当に寂しがり屋なんだから……!』


 考えつつ、私は次々と世界を渡った。下級神の報告では一度戻ってきたようだが、また出かけたらしい。ずいぶんと遠くへ行ったものだ。ちなみに、一気にエーの所に行こうと思えば神力を目標にして行けるが、あの子の座標自体がはっきりしない今、それをすると多方面に影響を与えて本末転倒なのでこうして痕跡をたどっているのである。


『急がねば。一度戻ってきたのは、たぶん飽きたからだ……!』

『ルー』

『姉上!』


 痕跡をたどる中で、ロー姉と合流した。ロー姉は怒っていた。美しい顔にほほえみを浮かべて、お怒りでいらっしゃった。


『うふふふふふふふ、あの子ったら、ちゃんと課題も定期的に与えて、遊び相手も派遣して、ときどきお仕事も任せてあげたのに何が不満だったのかしら?』

『……たぶん、エーは私やロー姉と一緒に遊びたかったんだと思いますよ』

『あらあら、寂しいならそう言わなくっちゃ駄目よね。あの子ったら自分をいくつだと思っているのかしら』


 そうだな。生まれたばかりの子供ならまだしも、最初の三柱の一角だからな。いつまでたっても幼い弟だが、あれでも全神々のほぼ頂点だからな。部下もいれば仕事もある立場だからな……。


『……はぁ。それでも、私たちの責任でもあるわね。あの子、私たちに仲間外れにされたと思ってしまったのかしら』

『あー、そうかもしれません。しかし、私たちが『番い(・・)』と、あの子も納得していたはずなのですが』

『私たちが『(つが)い』であの子が『(かなめ)』なのにね』


 わかっていただろうに、と大きくため息をついて、また世界を渡ったのだ。









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