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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/104 原初


 『原初』。


 全ての始まり。その存在に名はなかった。その存在に不可能はなかった。その存在は全でありながら無と同一だった。


 その存在も、始まりは矮小だったのかもしれない。あるいは始まりから偉大だったのかもしれない。そこに『個』があったのか、『思想』があったのか、『感情』を持って生まれたのかも分からない。それを語るものはいない。『原初』でさえ自覚はなかった。


 いうなれば、全ての始まりに自他の区別も、感情の意味も、存在しなかったのだ。


 だがしかし、途方もない時間をかけて、あるいは瞬きほどの時間もなく。……『時間』というものが存在しなかったがゆえに、それらの境は曖昧であるどころか差すらなかったが、そんな中で『原初』は『最初の三柱』を生み出した。


 最初の子。最も『原初』に近い力を受け継いだ女神。何もかもを内包した黒。『全て(ローヴァ)』。


 次の子。最も『変化』に柔軟な男神。生み出し育て慈しむことを識る青。『世界(ルーヴィー)』。


 末の子。最も『無』に近い男神。永遠であり、不変であり、純粋である白。『永遠(エイヴァ)』。


 三柱は『原初』から産み落とされたのか、あるいは『原初』より分かたれたのか。それは『原初』にしかわからない。少なくとも三柱にそれが語られたことはない。


 だがしかし、最初の三柱の存在から、のちに『歴史』と呼ばれるものは始まったのである。




   ✿✿✿




『『原初』を、私たちは『父』と呼んだわ。別に性別はなかったのだけれど、お母様って感じはしなかったのよね』

『わかる。あの方は『お父様』だった。父母という概念が生まれてからそう呼ぶようになったが、議論もなく全員が『父』と判断した』

『お父様はお父様だろう?』


 私の言葉にルーとエーがうなずきながら同意する。だよね。とりあえず、『母性』と言われて思い浮かぶような情動や言動をあの方に見たことがない。だからと言って『父性』を示したかと言えば疑問が残るが、まあ、頼りになる存在だったのは確かだ。私の上をいく唯一だからね、あの方は。


 ……ただ、こうして思い返すと結構、割と、奇々怪々な行動をとる父親だったなとも思う。威厳があったのはあったし頼りにしていたのは本当なんだけど、威厳と頼りがいでそれ以外のすべてをごまかそうとする理不尽な存在だった。趣味で奇怪な生物を生み出したり、趣味で謎法則の世界を生み出したり、気が向いたという理由であらゆる原則や法則を書き換えてみたり。


 そんな気まぐれすぎる性格が故なのか、私たちの前に姿を現す時には、纏う色も年齢も様々だった。老婆に見える時もあれば美少年に見える時もあった。顔面は、我ら三兄弟をご覧いただければわかるように目がつぶれんばかりの美貌だったけども。


 そしてその美貌の父親は、お前この糞が何してやがる、的なことをしでかしておいてシレッとしているような性格でもあったのである。三柱(私たち)の生みの親だもんね。仕方ないね。……そのせいでほかの神々から押し寄せる苦情を受け付けるのが私たちの役目だったのは、今でもイラっと来るけどね!


 ともかく。ちょっと語りつくせない思い出はいったんおいておくとして。


『まあつまり、そんな感じで三柱(私たち)が生まれたの。ちなみに、『原初』から生まれ出でたのは私たちだけよ。その後に生み出された神々は、装飾品とか自然現象とかから生まれたからね』


 生まれたっていうか、変じたっていうか。日本の古事記とかで、イザナギが投げ捨てたものから神々が生まれたとか、スサノオの息から神々が生まれたとかあるけど。あと日本と言えば八百万の神――川や山や自然には神が宿っているというのとも多少似通うところはなきしにもあらず。


 と、言うようなことをざっくり説明した。なお、話し始める前、ひょいっと引き寄せた球――室内にふわふわ浮かんでたものの一つ――をぱっと展開させて、『原初』から始まり、あまたの神々が生まれるまでをデフォルメも交えつつダイジェスト映像でお送りした。映像っていうか、あたかもその場に実際に入り込んだかの如く見えるよう3Dでご覧いただいた。これを動かした際、リズ様がぎらぎらとした目で見ていたが、アーノルド様に抑えられていたのでスルーした。


 この球、異世界の景色や私の記憶など、本当にあらゆる(・・・・)ものを映して室内に浮かんでいるのだが、当然私の意のままに映したいものを映したいように見せることができるのである。


「そーなんだー……」


 エルの返事が棒読みなのは気にするべきだろうか。一応この世界の宗教は『青教』が一般的で、一神教だから理解しにくいのかもしれない。むしろ理解することを諦めた感じもする。うん、気にせず続けよう。私たちの生まれは本題じゃないし。むしろ前置きだから。『そういう存在なんだな』ってふわっと頭に入れておいてくれればそれでいいのである。


『それで、そんな私たちと『この世界』の関連の話だけれどね。ちょっと覚悟を決めてね。壮大すぎる神々の話より身近な分、衝撃的な事実を語るわよ』


 私はそう切り出す。エルたちは遠い目からしゃっきりと姿勢を正した。そして各々が深呼吸をしている。むしろエルとジル、ラルファイス殿下とリーナ様、ドレーク兄妹、シルゥ様とソレイラ、ターナル男爵夫妻、アリィとメリィあたりは手に手を取り合って励ましあってる。うん、こういう切り出し、ランスリー邸の若者会議でもしたもんね。あの時も衝撃を受けてたもんね。そんなエルたちを見て、若者会議にはいなかった国王様達まで身構えているほどだ。


 慈悲深い私は当然、覚悟が決まるのを待ってあげた。ルーも同じく生暖か……慈愛のこもった瞳で彼らを見守っている。エー? エーは、メリィが淹れた紅茶のお代わりをしている。あの子に気づかいの精神は備わっていない。


「……うん、シャーロット嬢。衝撃を受ける覚悟をしたよ。傷が浅く済むことを願っている」


 やがて、ことさら大きく深呼吸したラルファイス殿下が男前な笑顔で言った。言っていることは男前どころか負傷前提の弱気だけれども。


 だがしかし、覚悟が決まったのならば私も笑顔で暴露することをためらわないのである。ゆえに、言った。




『ならば遠慮なく。この世界の『管理者』はルーヴィーだけれど、『創造主』はエイヴァ(・・・・)よ』




 しん、とした。


「………………………………ゑ?」

『『創造主』は、エイヴァよ』


 愕然、という表情で、エルたちは慄いた。そしてギ、ギ、ギ、と壊れたブリキ細工のように首を回して、エーを見た。


『ん? うむ。我が作ったな! 飽きたから壊したけどな!』










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