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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/28 二人の天使(メリィ視点)

 

 エルシオ・ランスリー様。シャロンお嬢様専属であったわたくしは存じ上げなかったのですが、亡き旦那様と奥様の間では跡取りとされるお話が秘密裏に、すでに進んでおられたようです。一度は立ち消えにはなっておりましたが……かのアッケンバーグ伯爵が再度ランスリー公爵家に持ち込んできたのです。


 何を言い出したかあのタヌキツネ伯爵は。


 ええ、最初はランスリー公爵家使用人一同、そう思いましたとも。ほとんどの者が寝耳に水でしたし。その上それはまだ領地の立て直しが始まってから一年ほどしか経っていなかった時期です。それでなくても手いっぱいであるというのにもう少し時機をうかがってはいただけないものでしょうか。馬鹿なのでしょうか。


 いえ、それでも話はきちんとシャロンお嬢様にお伝えし、ほぼ即答で「分ったわ。準備をします」と立ち上がったものですから、まあその後はいろいろと手続きに走り回る日々でした。あの一瞬でおそらくシャロンお嬢様の脳内ではすさまじい計算が繰り広げられていたのだろうと推察いたします。抜け目のないお方ですので。わたくしたちのお嬢様は明晰な頭脳をお持ちです。


 そしてお迎えしたエルシオ様はシャロンお嬢様に負けず劣らず愛らしく、あのタヌキツネ伯爵とは似ても似つかぬ謙虚なお方であられました。


 天使が、増えた。


 ランスリー公爵家使用人一同ハイタッチをかわしたのは秘密ですがきっとシャロンお嬢様は知っておられることでしょう。

 シャロン様はお可愛らしくて美しく凛々しいお方。

 対してエルシオ様はお可愛らしくて繊細で柔らかなお方です。


 あのお二人が並ぶと女王と姫、いいえ――ランスリー公爵家お抱え実技指導担当者であるディガ・マイヤー武術師範殿とノーウィム・コラード魔術師殿へシャロン様がかました側頭回し蹴りの鮮やかさからのひざまづいてエルシオ様の手を取り「怪我はない?」と即座に案じた紳士ぶりから考えて――騎士と姫に見えてまいります。


 ともかくも、タヌキツネ伯爵には時期はもう少し考えていただきたかったものですが、結果的に収まる所におさまったと言えるのでしょう。


 ですがエルシオ様をランスリー家にお迎えしてからのお嬢様はまた八面六臂の働きでした。勉学に武術に領政、商会経営。時折お姿が見えないこともございましたので他にもさまざまに手掛けていらっしゃるのでしょう。そのうえでエルシオ様とも友好を深めていらっしゃいました。お嬢様は何を目指していらっしゃるのでしょうか。


 まあ突飛なお嬢様の行動にエルシオ様が驚愕・困惑・諦め・理解という四段階を踏んでおられましたが。そしてそのたびにわたくしやエルシオ様付き侍従であるアリィに助けを求める瞳を向けていらっしゃいました。わたくしたちとしてはもはや「シャロンお嬢様はそういう方です」としか申し上げられないのが心苦しかったです。しかしその答えが全てでした。エルシオ様が順応力の高いお方でよかったと心から思っております。流石シャロン様。あの方は最初から見抜いておられました。


「礼儀を欠いたのに謝罪もしないアッケンバーグ伯爵を横にして、『何考えてんだこいつ』とばかりの混乱をにじませ、申し訳なさいっぱいだった初対面時のエルからして、本質は結構いい性格してると思うわよ」


 とイイ笑顔で言っておられたのです。高い順応力、そして本質的に『イイ』性格。シャロンお嬢様に振り回されることが前提のランスリー公爵家では必須の条件です。


 案の定、半月の間にエルシオ様は見る見るうちに理解されて行かれました。初めは「何を言っているのだろうあり得ない」と瞳で語っておられましたし、シャロンお嬢様の逸脱した能力に消沈したお顔も見られましたが、最近は「ああ、そういう人なんだなあ」と境地に達したお顔をしておられましたし実際そう言っておられるのをエルシオ様専属侍従・アリィが聞いております。もちろん使用人一同情報を共有しました。シャロンお嬢様が今のシャロンお嬢様になられてから使用人の結束力は日々高まっております。


 ちなみに、エルシオ様専属侍従のアリィはわたくしの実弟、しかも双子の弟という裏話もございます。示し合わせたわけでもなく、家を出てからは手紙のやりとりしかしておりませんでしたが、まさか仕事先で再会するとは夢にも思っておりませんでした。アリィからは老辺境伯との結婚騒動について父が、


「勝手に話を進めてごめんね、反省してます、違うんだ、うちは貧乏だから裕福な暮らしをしてほしかったの! 権力とかは……ちょっと考えたけど、そんなつもりじゃなかったのだから帰ってきて! 俺の娘でいてえええ!」


 という涙の伝言を預けてきたという話を聞きました。迫真の演技は必要だったでしょうか弟よ。……わたくしの実家であるレンドール男爵家は女系です。そして父は入り婿です。つまり母が強い。確かに貧乏子だくさんを地で行く家ですが、おかげさまで女も男もガンガン働く逞しい一家でございます。そして婚期を逃すという悪循環からは目を逸らしております。


 そう、父の思惑を大体知っておりました我が母はお仕置きとしてわたくしを野に放ったことにしたのです。ええ、わたくし、今は平民ともいえると最初に自己紹介しましたがそれは対父への表面上のこと。一応まだ貴族の端くれでございます。こっそり仕送りも実家にはしております。泣き叫ばなくても父の娘、やめておりません。


 その辺りの事情はこれまで雇ってくださった当主の方々、勿論シャロンお嬢様にも説明しております。能力を買って下さる方々ばかりでしたのであまり問題視されませんでした。シャロンお嬢様に至っては「おっけー、じゃあサプライズだね!」と呵々大笑されました。実弟・アリィと母もひっくるめて現在父へのサプライズカミングアウトを計画中です。ちょっと規模が大きいほのぼのとした父娘げんかでございます。


 ああ、盛大に話がそれてしまいました。申し訳ありません。







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