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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/103 あるいは、運命を捻じ曲げるための指先

11/6 すみません、読み返したら若者組にターナル男爵夫妻がいないことに気づいたため、追記しております。


 ぱっと、景色が切り替わる。モノトーン調で統一した場所だ。一応会議ができるように整えてはある。


 そうはいっても広々としているし、椅子はふかふかだし、テーブルに至っては巨大な黒水晶が円形に掘り出されたうえで卓面だけがふわふわと浮遊している。天井はなく青空と白い雲がのぞき、柔らかな光が優しく降り注いで、室温湿度共に快適。ゆらゆらと無数に周辺を漂っている大小の球にはあらゆる(・・・・)場所の景色を映している。実は壁に見える場所は壁ではなく境目(・・)で、私以外が触ると優しく押し返されるようになっているけれども、私自身ならそこから望む場所へひとっ飛びできたりする。よく見るとこれまたゆらゆら揺れてキラキラしてたりする。


 まあつまり、私が用意した、私の『領域』である。そして、ここに呼んだメンバーは以下の通り。


 私と『彼』、エイヴァ、エル、ジル、ドレーク卿は当然として、国王様と王妃様、ラルファイス殿下。イリーナ様、シア様、小夏。シルゥ様にソレイラ。ターナル男爵夫妻。メリィとアリィ、ルフ・マンダ・ディーネ・ノーミー。


 そう、若者会議のメンバーにプラスして国王夫妻と『影』の代表者たちである。そして私と人外以外の全員がそろって唖然としている。顎が落ちそうだが、大丈夫だろうか。まあ驚くのも無理はない。国王様達は王城にいたし、シルゥ様たちに至ってはヴァルキア帝国の皇宮を制圧中だったはずだ。ベルキス将軍がいなくても、護りは固められていたはずだけどバディア商爵をルフ達が抑えたからね。実質のトップスリーがいないので指揮系統は割とボロボロだった。


「え……はっ?」


 国王様の間の抜けた声はもしかして、呆然としている面々の内心を表しているのだろう。


『いろいろ説明が必要だと思って、私の『領域』にご招待しましたわ。どうぞおかけになって下さいな』

「え、……はぁ?」


 理解が遅いなこの国王。人外どもはもちろん悠々と座っているし、若者組は見た目が多少変わったことなどものともせずに、私をシャーロット・ランスリーだと正しく認識し、獲物を捕獲するかのごとく飛びついてひとしきりぎゅうぎゅうと抱きしめた後、満足したように席についた。襲撃かと思った。王妃様も仕方がないわね、というように微笑んで座っていらっしゃる。


 なお、メリィたちに至っては脊髄反射のごとくお茶の用意を始めた。もちろん設備は整ってるけど、だからと言って明らかに異空間なのにその行動に何の躊躇もない彼女たち。使用人の鑑過ぎる。いや、まあ彼女たちは若者組と同じく私とエルとの再会への狂喜を溢れんばかりににじませて飛びついた後の行動だけれども。


「え、いや、おい。シャロン……だよな?」

『もちろん。どうぞ、おかけになって下さいな?』

「あ、ウィッす」


 にっこり笑った私に引きつり切った国王様はようやく座った。ドッキリに弱い系国王なので順応に時間がかかったのかもしれない。でも多分そのうち爆笑しだす気もしてる。すでに周囲を見渡してそわそわしている。少年か。


 そしてお茶がいきわたり、メリィたちも席につかせることに成功したところで私は切り出す。


『聞きたいことはいろいろあるでしょう。私や××××、××××についても。皆様どこからお聞きになりたいですか?』


 にっこり、微笑むと全員が目を見合わせる。無言のやり取りの末、おそらく私と最も付き合いが長いという理由で選ばれたエルが挙手をした。


「あの、まず、ここが『シャロンの領域』って言ってたけど、戦場はどうなったのかな? 強制的に僕ら全員がここに転移しているってこと?」

『ああ、心配は無用よ、エル。私の信頼と必要性を基準に、肉体ごとではなくて精神だけをこの空間に招待したの。ざっくりいうと夢の中で意識を持って動いているのと同じね。だからドレーク卿もしっかり意識を持っているでしょう? ちなみにこの空間は元の世界の百万倍の速さで時間が流れるから、ここでじっくりしっかり理解できるまで話し合っても向こうでは数秒意識が遠のいた程度の時間しかたたないわ』

「え、あ、うん」


 エルは微妙な声を出したけれども、まあいいだろう。なお、当然あちらの世界の時間を止めることも出来たけれど、それだと瀕死に鞭打つがごとく負荷をかけすぎてしまうからね。この方法の方がよかったというだけだ。と、ここでなぜか頭を抱えて国王様がうなって口をはさんできた。


「待て。待てシャロン。信頼と必要性……?」


 そうである。ちなみに、その前にあった私の覚醒による影響からの守護は無意識だったのでもっと大勢いた。『影』メンバー含むランスリー公爵家の人々はもちろん、領主代理だった彼とか同級生の皆様とか領民さんとか私の『お友達』とか。なお、宰相様とか騎士団長様とか、変態師匠連は守護範囲に含まれなかったようだ。たぶん、前二人は親密度が足りなかったし、後者二人は守る必要性を感じなかった気もする。ともかく、それに比べれば、今この場のメンバーはぐっと絞り込んだのである。


「あのさ。アリスとかラルとか、ぱっと光って消えたの俺見たんだ。俺だけ、三回くらい点滅してからここに来たんだ……」

『ちょっと迷ったのよね。ラルファイス殿下がいらっしゃればいいんじゃないかしらって。でもアリス様はご招待したかったし、仕方なかったわね』

「なぜ!?」


 私の中で、国王様には事後報告、という感覚が染みついているせいだと思うけれども、ただ微笑んで流しておいた。国王様は肩を落としたが、それ以上の発言はしなかった。そして再びエルが口を開く。


「えっと、とにかく、ここで話し合っても時間を気にしなくていいってことはわかったよ。じゃあもう一個先に聞いておきたいんだけど、……その、エイヴァ君たちのこと」


 うん、それは説明をしなければならないだろう。私は静かにエルを見つめ返した。――が。


「なんで、なんでシャロンのことを『姉上』って呼んでるの? シャロンは僕の姉上だよ?」


 ……ん? そこ? そこがそんなにも重要だった? そう来るとは思わなかった私は盛大に困惑した。しかしメリィを筆頭に『影』さんたちは真剣に私を見ている。シルゥ様に至っては「そうですわね、お姉さまをお姉さまと、エイヴァさんたちが呼んでいたなんて由々しき問題ですわね」と言いつつヤバい形相をしている。……なるほど、この場の約半数の人間にとって非常に重要な案件だったようである。私は認識を改めた。


 まあ、どうせ説明した方がいい事柄なので、いいのだけれど。


『……××××と、××××は――』


 と、私が話そうとしたときだ。ちょっと待ってください、とジルが割って入った。


「遮ってすみません、シャロン。その、名前? だと思うのですが、あなたがエイヴァやそちらの方を呼ぶときも、エイヴァたちがシャロンを呼ぶときも呼称が聞き取れないのです。エイヴァのことなら、イーア? やジア? に聞こえたりしていますね。差し支えなければ、先に私たちにもお呼びできる名前を教えていただけますか? また、そちらの青髪の方とは初めてお会いしますので、自己紹介をさせていただきたいのですが」


 盲点だった。うっかり高位者の言葉で名前を呼んでいた。あれは普通の人間にはまったく聞き取れないのを忘れていた。そして自己紹介も、今更必要を感じなかったのでスルーする気満々だった。


『あら。そうね、ごめんなさい』


 そして私は青と白の二人を振り返る。察した青の方が白の方の頭をはたいて、口火を切った。


『ふむ。そなたらの言葉に合わせて発音すると、我の名は『ルーヴィー』、だな』

『我は『エイヴァ』だ! 知っているだろう?』

『そして私……『シャーロット・ランスリー』のもう一つの名は、『ローヴァ』よ』


 そうして名乗り、国王様から始まって順に名乗るだけの簡素な自己紹介を聞く。まあ私とエイヴァ……エーは言わずもがな、ルーヴィー……ルーも、『自称神』であった彼にさんざん私は友人たちの話をしていたし、彼はそもそも『管理者』なのだから名前どころか色々知ってはいるのだけれど。だから私も、うっかり最初から全員顔見知りみたいな気になっていたんだし。


『さて、ここでエルの質問に話を戻すわね。エーやルーが私を『姉』と呼ぶのは、そのまま、私たちが姉弟だからよ。……うん、エル、エル、シャーロット・ランスリーはエルの義姉(あね)よ。大丈夫よ。……ただ、同時に『ローヴァ』である私は彼らの姉なのよ』


 エーやルーと姉弟、と言った瞬間のエルの殺気が恐ろしかった。重度のシスコンぶりを久しぶりに見た。どうどう、と義弟をなだめつつも私が言ったことに、ジル達はやはり、という顔をしていた。シルゥ様だけはソレイラがどうどう、となだめていたけど。


「『姉弟』……つまり、今が本来の姿であり、シャロンは『シャーロット・ランスリー』という人間の姿を取っていた、ということでしょうか?」


 幾分か顔色悪く、ジルが問う。私は答えた。


『おおむね正解よ。ただ、『シャーロット・ランスリー』は仮の姿というわけではないわ。確かに私はランスリー公爵家に生まれたのは間違いがないし、過ごした時間もやってきたことも虚構ではないのだから。それにだましてもいないわよ。ざっくりいうと封印状態にあって私も全部思い出したのは割と最近だし、エイヴァに至ってはついさっきなのよ』


 なお、人間の姿を取っていたというよりは、必要があって人間として生まれたのだけれど、そこは必要に応じて説明するつもりだ。一気に話しても理解しがたいだろうしね。


『そしてじゃあ私たちは何なのかと言われると、『高位存在』……『神』と言った方が認識的にはわかりやすいのかしら? ……その中でも、『最初の三柱』と呼ばれる存在だわ』


 私は軽く言ったが、ジル達の空気はピリッと引き締まった。……が、やっぱりね、みたいな空気が直後に漂った。肝太いなこいつら。


 強いていうなら、どちらかというと男性陣の方が緊張を残して真剣な顔をしている。一方の女性陣はと言えば、アリス様とリズ様は背筋を伸ばしてキリリとしつつも優雅さを失っていないし、リーナ様は「まあ!」とほほを染めているし、シルゥ様は「やっぱり! お姉さまほどになれば当然ですわね!」と謎の納得を叫びそうになったところをソレイラに抑え込まれているし、小夏は『私の女神が女神だった!』と崇める姿勢に入っているし、メリィを筆頭に『影』さんたちは「さすがお嬢様!」の一言ですべてを受け入れた。あの子たちは通常運転すぎる。


「『最初の三柱』……って、一番最初の神様、ってこと?」


 そんな空気の中で首をかしげてエルが疑問を上げる。私はルーと目を見合わせる。まあ、全部話すと決めたからね。最初から(・・・・)、話しましょう。


『いいえ、正確には違うわ。私たちは『原初』の存在から生み出された、一番最初の神々なのよ』











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