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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/94 すべからく降り注ぐ(小夏視点)


 祈っていた。画面越しに広がる絶望に、ただ祈ることしかできなかった。『魔』たるもの。人ならざるモノ。白を纏った美しい青年。


 組んだ指から腕、足先まで、震える。画面越しにだけじゃない、遠く離れているはずのこの、王都も確かに揺れていて、それ以上にあたしの体は震えが止まらない。歯の根が合わない。


 怖い。怖かった。ほほを伝う涙は止められなくて、拭うことすらできなくて、ただ祈る。


「お願い、助けて、刈宮様……!」


 あたしの女神。刈宮鮮花様。この世界の、シャーロット・ランスリー様。祈る。祈る。祈って、……


 ――そして奇跡は起こる。すべてが終わるのだと思ったその瞬間、あたしの女神は降臨した。


 あれほどに美しい瞬間をあたしは初めて見た。黒に塗りつぶされてゆく白。一般的に言えば、黒ってちょっと怖いイメージがあるかもしれない。でも画面が映し出すそれは何処までも、神々しいほどに美しかった。


「あいつ……やりやがった……」


 つぶやいたのは国王様。その腕の中の王妃様も頷きを返している。


 今、この部屋の中はあたし以外に、国王様達だけじゃなくってイリーナ様はもちろん王太子殿下とか、戦場の様子を目の当たりにすることになるあたしたちに気遣ったのか、ほかの騎士さんたちより仲がいいっていうことで、学院警備の方から呼ばれたネイシア様も護衛として一緒にいる。それに、宰相様とか宰相補佐様とかも集まっていた。異常事態発生の報告でみんな飛んで集まってきていて、すぐさま慌ただしく指示を出そうとして、そんな暇もなく今に至る。


 ちなみに宰相様と宰相補佐さんたちは手を取り合って安堵に崩れ落ちているし、イリーナ様は王太子殿下に抱きしめられているし、ネイシア様はあたしと同じくシャーロット様をあがめていた。だよね! 魔王ポジだってことを聞いても疑問しかわかなかったエイヴァさんがマジで魔王だったっていうのもさることながら、あたしの女神がマジ女神。マジ英雄(ヒーロー)。崇めるしかない。


 ……だって、ほんと、これあたしも死んだって思ってた。だってエイヴァさんのあの白い攻撃、このお城まで届いてたもん。朝からどんより曇り空だったのに目もくらむような真っ白が窓から差し込んで、ああ終わりだなって。白い光ってきれいなはずなのに、恐怖しか覚えなかった。あれってなんだろ、『格の違い』っていうの? それを感じて、ああ勝てないって。抗えないって思った。


 だけどすべてを包み込む黒に、救われた。エイヴァさんの攻撃より前、常に緊迫していた空気も緩んだ気がする。


「シャーロット嬢が来たのであれば、負けはありえないな」


 王太子殿下がそう言っていたけど、それがすべてで、みんなの総意だったっぽい。だよね! だってシャーロット様だもんね!


 そうあたしも全力で同意しつつ、それでもまだカタカタ震えている手で顔をぬぐう。涙どころか鼻水とか汗とかでぐっちょぐちょだったから、借り物且つ多分きっと真剣に考えたら卒倒するくらいお高いんだろうドレスの袖で拭うとか死んでも出来なくて手で拭った。当然のように手がぐっちょぐちょになったけど。気づいたネイシア様がそっとティッシュを渡してくれた。ネイシア様の女子力に感服した。


 手をぬぐいながらずぴずぴと鼻をすすっていると、お守りのように抱きしめていた本がするりと腕の中から抜けていった。


「あっ」


 へたり込んでいたおかげで膝ではねて、とさっと床に落ちる。杉原斗海様著、『空に還る』。慌てて拾い上げようとして――落ちた衝撃で、偶然開いたページにふと手を止めた。


 それは、最後の最後。伝記のあとがき。刈宮様を崇拝する人々には、賛否両論あるみたいだけど、あたしはこのあとがきも好きだった。指でそっと、文章をなぞる。


『――あとがきに代えて。


 ここまで、私から見た『刈宮鮮花』を思うままにつづってきたわ。破天荒で突拍子もなく、何を考えているかわからないこともあったし、ドン引きすることすらあったけれど、おおむね悪人ではなく、完全無欠に見えてどこか抜けていることもある人だった。


 ――あの日、本当に息が止まるほどに驚いたのよ。あなたが私より先に逝くなんて思いもしなかったから。……いつか、ふとした時に姿を消すことは、あるかもしれないと思っていたけれど。


 まあ、鮮花なら早々に、生まれ変わって生きていそうね。それがこの世界なのか、あるかも知らない別の世界なのかはわからないけど。いずれにせよ周囲を振り回しながら、あなたにとっての『敵』を地獄に叩き落しつつ、あなたにとっての『大切な人』をなにものからも守り、『意図しない大勢』を救っている気がするわ。そして信者が増えるのね。目に浮かぶわ。


 神様って、人を救うだけではなく、罰も与えるのよね。そして決して怒らせてはいけない存在。私は鮮花を神様扱いはしていなかったけれど、確かにちょっと鮮花に似ているわね。まあ、私にとって鮮花は鮮花でしかないけれど。


 ――鮮花。あなたは永遠に私の一番の親友で、悪友よ。誰が何と言おうとも、あなたにとっての私もそうであったと、ちゃんと知っているわ。


 子供のころからずっとそばにいたから、存在が大きすぎていつまでたっても薄れやしない。それでもあなたはもう隣にはいない。あなたがいない事に、いつか慣れてしまうのかしらね。まだそれは先になりそうね。


 あなたと出会わなければよかったと思ったことが一度もないとは言わないけれど、あなたがいない人生はつまらなかったでしょう。鮮花、あなたと親友であったことを、誇りに思うわ。


 ――いつか、また』


 これは手紙だ。そう思っている。杉原様から刈宮様へ贈るメッセージ。


「杉原様は、本当に、刈宮様のことをすっごくよくおわかりなんだなあ……」


 それほど長くはないそれは、あえて口語で、茶化すような軽い調子を崩していないけれど、万感の思いが籠っているんだろうな。


 まさに今、生まれ変わって異世界で無双しているシャーロット様を、予知のごとく言い当てている杉原様もすごすぎる。


 ふふ、とちょっと笑いが漏れてしまった。――けれど。


 あたし、油断してた。まだ、戦争は、終わっていなかったし――ベルキス将軍は、最悪なほどに『やらかす』人だったんだ。


 わずか緩んでいたあたし含む部屋の中の面々の顔は、画面に映し出される光景に、再び強張ったのだ。










エイヴァをシャロンが止めるまでの内心↓

国王様(え? やばいやばいやばい、人外がヤバい。ここまで届いてるうっそだろ? あああ国の結界強化! 防御! 防御……無理! シャロンの管轄だろ間に合うよなそうだよな……オッシャ来たあああああ!!)

宰相様(は? 人外が人外してますが? 指示が間に合わないというかそんなの意味がないというかランスリー公爵令嬢調教はどうなったのですか??? クニホロビル……ってきましたアアアアアア!)

似たもの主従。

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