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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/27 小さな背中(メリィ視点)


 ――確かに、お嬢様はもともと奔放な方でした。

 ですが極度の人見知りでもあられて、そして感情表現がどこか幼いお方でした。


 それがどうしたことでしょう。一週間ほど何かを狂ったようにお調べになったと思っていたら不意に吹っ切れたように涼しげに笑うようになったではありませんか。

 その笑顔はあまりにお可愛らしく、そして恐怖でした。

 ええ、率直に言って、恐怖でした。


 何か取り返しのつかない事態になったのではないかと使用人一同、当時の領主代理殿に隠れて深夜まで意見を戦わせたものです。よほどお医者様を呼ぶべきかと思いました。

 ですが、今まで人形のようだったお嬢様が笑って下さるのが嬉しかったのも事実です。


 ですので、今度こそはと、無礼を承知でわたくしは真正面から尋ねました。


「なぜここまで変わられたのか」と。

 お嬢様の答えは静かな声でした。


「……気づいただけよ。私は『シャーロット・ランスリー』なのだと」


 愕然としました。いいえ、意地でも顔には出しませんでしたが。

 答えのようで答えにはなっていないことは判っていました。きっかけは語ってはくださいませんでしたから。ですがそのお嬢様の御言葉が意味することには気づいてしまったのです。


 ……まだ九歳だったお嬢様は、『ランスリー公爵家』を背負ってしまわれた。そのことに気づいてしまわれた。

 覚悟があったのです、お嬢様にはすでに。公爵家を、公爵領を、そこに住まう人々を、守っていくという覚悟が。


 おかしいと、思わなかったわけではありません。疑問を持たなかったわけがないのです。でもそれ以上に、小さな体で立ち上がったお嬢様を、お支えしたいと思いました。


 もう間違えては、いけないと。


 想像しかできません。けれどお嬢様は熱に浮かされた三日間、そしてその後の一週間で、『何か』を知ったのだと思います。そしてそれがお嬢様を変えた。

 今ではかつてのお嬢様のどこまでが真実で、今のお嬢様のどこまでが演技かもわたくし共には推し量れません。


 それでも。


「お父様とお母様がいないのは、寂しいわ。……今まで迷惑も心配もいっぱいかけたのも分かっているの。でも、私はこの世界で頑張ると決めたの」


 だからごめんね、今の私がこれからの私よ。


 そう言ってお嬢様が浮かべていたのは天使の微笑みでした。

 はっきり言いましょう。絆されました。絆されないのは人間じゃありません。わたくしたちのお嬢様は気高く可愛く美しくそしてかつてとはまるで違う意味で奔放です。


 天使で悪魔な、わたくしたちの大事なお方です。


 おかしいかもしれません。わたくしたち自身も、あの頃のことを思い返すと夢を見ていたのかと思うこともあります。使用人一同、見事な陥落具合でありました。さながら操られていたかのようです。それも当時の領主代理殿には全く感づかせなかったのですから。お嬢様の手腕は素晴らしいです。流石わたくしの天使。


 それから二年と少し、日々お嬢様は磨きがかかってます。その美貌もさることながら魔術に勉学、どれほど言ってもやめてはくださらなかった武術全般。商才も発揮されておりますし料理も極めていらっしゃいます。領民の間にもいつのまにか溶け込んで仕舞われました。お嬢様は何処を目指していらっしゃるのでしょうか。いいえわたくし共使用人一同は何処までもついていきますが。


 可愛く凛々しく美しい、わたくしたちのシャロンお嬢様は天使で悪魔で女王で騎士です。喩えジルファイス第二王子殿下でもお嫁に出したくありません。むしろわたくしのお婿さんになっていただけないでしょうか。大事にします。


 論点がずれてしまいました。


 お嬢様は変わられて、今のお嬢様になられました。けれど、最近はまた少し変化があるように思うのです。

 そう――次期ランスリー公爵、エルシオ様をお迎えしてから。












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