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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/70 泡沫に、


 エメとリクがまさかのヴァルキア皇族血縁者、というのは各所に衝撃を与える事実だけれども、最も重要な問題は何かと言えば、彼らの実母がベルキス将軍の実妹だったことだ。実妹、つまりベルキス将軍とエメ・リクの母君は同母・第三側妃だったのである。


 さて、以前ヴァルキア帝国の話をした時に、大奥もかくやというハーレムを作り上げていた前ヴァルキア皇帝の子供たちはその覇権を競いに競い、約二十年前の戦争が終わったころには皇族男子はまさかの二人しか残っていなかったということを語った。


 皇族男子『は』、ザキュラム帝とベルキス将軍しか生き残っていなかった。しかし例にもれず男子にしか皇位継承権のないヴァルキア帝国、覇権を競ったのは当然皇子たちが中心だった。……いやまあ女帝にならんと立ち上がった女傑たちも結構割といたみたいだけれども。それでなくても(血の気が多いから)いろいろとあった挙句、減りに減った皇女たちも生き残ったのは数人だったようだけど。


 ともかく。強かに生き残った皇女のうちの一人がベルキス将軍の同母妹にしてエメとリクの母君であったのだ。そんな彼女はさすがはヴァルキア帝国皇女と言わしめる行動力でもって、戦争の混乱の中城から逃亡。紆余曲折を経てメイソード王国に流れ着いたらしい。そして自力で旦那(行商の若者だったらしい)をゲットし子宝に恵まれたというアグレッシブ皇女である。行動力というか実行力というかがあふれていた上に、まさにベルキス将軍の妹と言えようか、城からの逃亡の際に自らの死を偽装し、まんまと逃げおおせているその周到さがそっくりである。


 そんなアグレッシブ皇女はエメを出産してすぐ、夫婦そろって事故に巻き込まれ(純粋に事故であったらしい)、天に召された。ゆえに子供二人は女傑なシスター率いる孤児院に所属することになったという経緯。


 その事実がここにきてなぜ発覚したのかと言われれば、エメとリクの顔が、実母にそっくりだったからのようだ。なお、エメとリクはそろって若葉色のやや釣り目、金茶の髪をしている。これはお母君も全く同じ色彩かつ、祖母君……ベルキス将軍の母でもあるかつての第三側妃に顔立ちが瓜二つなのだとか。ちなみに、緑系の瞳はヴァルキア皇族に多い色である。第三側妃は金の瞳に金茶の髪色をしていたらしい。


 それはさておき、その母譲りであるエメとリクの持つ色彩はそのままベルキス将軍が持つ色彩でもあったりする。同母兄妹だからね! 要は、個別に見ればそうでもないが、並べてみればおや? と思う程度にエメとリク、そしてベルキス将軍の三者は似ていた。ベルキス将軍側も、当初は本当に対エイヴァとして誘拐したのだろうが、いざ連れてきてベルキス将軍と並べてみたら『もしかして』を想わずにはいられなかったのだろう。


 そこから冷や汗をかいたベルキス将軍の部下たちが血眼で情報を漁って発覚したのが前述の事実なわけである。


 ただ、その事実が発覚したからと言って、今更肉親の情に転ぶほどベルキス将軍がお優しい人間じゃないのはお察しだ。だがしかし、そこで話は終わらない。何故ならベルキス将軍は独身だから。そう、齢四十二歳(生誕は現皇帝と数か月差)にして彼は後継者がいないのだ。


 まあ今から実子を授かるということも不可能ではないが、かつては存在したらしい婚約者がいつの間にかいなくなっている(婚約破棄のち別の男性と婚姻済み)所からしてこいつは今後も結婚しないんじゃねえかな、と周囲もうすうす思っているらしい。ベルキス将軍の両腕であるラクメイナム騎士爵とバディア商爵が揃いも揃って独身を謳歌していることも多分その確信を支えている。こいつら野望と結婚してんな、と私も思った。


 そんなときに発覚した甥姪。明らかに血縁な顔立ち。本来、男系男子にしか皇位継承権はないので現時点でリクにもエメにも当然継承権はない。でもヴァルキア帝国ではかねてより、男子に恵まれなかった皇帝の後継者として妹の子を養子として引き取る、なんてことも公然と行われてきたわけで。


 長々と説明したが、だからつまり、リクに皇位継承権という名の養子縁組が発生するかもしれないフラグが降ってわいたのだった。


 一番動揺し、そしてそのフラグに静かに沸き立ったのはベルキス将軍を補佐する文官たちだったようだ。彼らはそのフラグが現実のものとなった時に備え、エメとリクを予定よりも数倍厳重に隠し、囲った。だから見つけるのにこんなに時間がかかったし、見つかったと思ったらそんな事態になっていてさすがの私も開いた口が塞がらない。


 で、それでなぜ私はエメたちの奪還に躊躇しているのか。突如発生したフラグは予想外ではあったがフラグクラッシュする気しかないのでピンポイントの問題はそこじゃない。……正直、見つけるのに時間はかかったものの見つかりさえすればこの私にとって救い出すのは簡単だ。でも、それをしてしまうとエメとリクから、『今の時間』を奪うことになる。


 あの子たちの母君は生前、他者との交流が少なかった。時勢上仕方なかった面もあり、それこそシルゥ様と同じような深窓のご令嬢的育ちだったようだ。知り合いと言えるのは兄であるベルキス将軍と、そば仕えの者たちだけ。それで逃亡・結婚というアグレッシブを発揮・成功したことに驚嘆するけれども、ともかく結婚後も旦那の行商という職業故にメイソード国内を転々と移動し、結果的に友達と言えるほどの人はいなかったそう。


 だから、生前の母君を知るベルキス将軍の側近たちの話を、ひどくうれしそうに聞いていた。それを見てしまったら、ちょっとはためらうよね、人として。


 なお、エメリク発見の一報はエルたちには流していない。私しか知らない事実である。何故なら流した瞬間エイヴァが何も考えずにエメリクを奪還するだろうから。彼には情緒も配慮もあんまり備わっていない。わずかに芽生えかけているような気も最近するが、その面では赤ちゃんみたいなものだ。


 ……当然、本当にベルキス将軍の養子となってしまえば、今後戦争終結後に連座で刑に処される可能性さえある。私たちは負ける気は微塵もないので必然ベルキス将軍側に罰を受けていただく方向で考えているのである。だからこそ、そんなものにあの子たちを巻き込みたくない。そしてよしんば養子縁組計画がとん挫するか、あるいはリクだけ引き取ってエメだけ、という方向で当初の対エイヴァ計画が実施される、ということも防ぎたい。


 だから奪還は決定事項だ。でもそれを今すぐしていいのかな、程度には迷っている。


(やっぱり、エメとリクに直接希望を聞こうかしら?)


 私の薫陶を受けた二人は年齢を感じさせない冷静さでもって自分の意見を語ってくれる気がする。


(……それがいいかしらね)


 まあともかく、まずはあとちょっとでなかったことになる魔物の氾濫(スタンピード)を片付けて、ヴァルキア帝国へ行こう。















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