表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
605/661

10/69 裏工作者は苦悩する


 あぶなっ。今のルフめっちゃ危なかった。間に合ってよかった。


 ――さてこんにちは、シャーロット・ランスリーです。私が何をしたのかというと、『影』の一員であるルフの危機を察知して颯爽と助けました。


 ……そんな私の現在地は聖国近く、小さな山の中。そんなところで何をしていたのかと言われれば、発生した魔物の氾濫(スタンピード)が思いのほか規模が小さくて、私だけで対処ができそうだったので、現地の人間が発生に気づく前になかったことにしようと奮闘していたに他ならない。とても頑張っている私は似たような理由で三日前まで南の共和国の近くに居たし、その前は北の連合国の一つに侵入していた。規模や範囲によっては現地の人たちに後を任せることもあるけれども、今回のように小規模ならばそっと発生の事実をなかったことにしたことも少なくないのだ。


 それはともかく。その私がなぜ世界の反対側にいながらにしてルフの危機を察知できたのかと言えば、無線機の通信を傍受していたからである。


 無線機ってさ、現在でも傍受とか盗聴とかあるじゃん。最近そのことにふと思いいたったのでやってみたらできた。まあ、双方に気づかれず、かつ通信を邪魔せずに傍受するにはそれなりにテクニックと魔力量が必要だったので大抵の奴にはできないだろうけど、エルやジル程度の技量があればやってやれなくはないので、今後無線機はその点、要改良である。


 それからたびたび、近況確認も兼ねて定期報告に使用される無線を傍受していたんだけど、数日前にヴァルキア帝国潜入組で事件が起こったことを知った。ルフ達はこれに対してどう対処する気なのかと思いつつ、結界を確認して補強したり、魔物の氾濫(スタンピード)を何とかしたり、地域に蔓延る犯罪者集団に遭遇してどうにかしたり、今回の戦争とは全く関係のない誘拐事件を目撃してあれそれしたりと多忙だったのですべて聞いていたわけではもちろんない。


 でも興味はあったので最終的にどんな作戦で行くのか、くらいは把握していた。思っていたより力技だった。あの子たちならきっとやり遂げるだろうと確信はしていたけれど、だからと言って皇帝の言動があれで本当によかったのだろうかと思わざるを得ない。


 何であれ、これまでの『影』たちの作戦の中では綱渡りの部分が多いこともあり、本当ならばヴァルキア帝国に戻って近くで観戦……違った、見守りたいとも思っていたのだけれども、聖国近くで魔物の氾濫(スタンピード)が起こるという憂き目にあったのでそれはかなわなかった。


 よって私は、作戦の都合上ソレイラとルフ・シルゥ様・ケイラの無線がつながれっぱなしになることを知っていたため、今まさに湧き出続ける魔物たちを殲滅しつつ、まるでイヤフォンで作業用BGMを聞く『ながら作業』のようにルフ達の作戦を現在進行形で盗聴……違う、傍聴していたのである。


 だから、〇・五秒の刹那で彼女たちがやり遂げたことも、ちゃんとわかっている。音のみで状況を判断できる程度に私は彼女たちを知っているし、そういったことに慣れているのである。


 そう、慣れているからこそ、私は気づいた。シルゥ様の氷魔術が見事爆発の衝撃による被害を抑え込んだのであろう轟音のさなか、全く異なる場所から『何か』が風を切ってルフに近づいてきていることに。


 いくらなんでもその場が見えていない私にはそれが『何』であったかはわからない。判らないが、直感的に嫌なものを感じた。そもそもその風切り音が作戦の中に組み込まれていない予定外のものであることを(盗聴していたがゆえに)私は知っていた。


 ならば防ぐべしと結論を下したのはもはや本能と言える速さであった。


 そしてその防御をどうやって実行したのかと言えば、無線機だ。傍受できるということは介入しているということだ。そしてこの世界で開発した無線機は電気通信ではなく魔力・魔素によってつながっている。つまり私の魔力が、ルフの無線機につながっているのだ。それを通じて魔術を送り込んだにすぎない。風切り音がむかっている正確な場所までは把握できなかったので、ルフとルフに抱えられている皇子殿下を丸っと囲む形で光魔術結界を展開させた。パンっと音を立てて飛来物が砕けた。ルフは守られた。そういうことである。


(音なんかからして鋭い形状の金属かしら? たぶん、『塞の玻璃箱』を囲っていた鋼の檻の欠片ね)


 そう分析しているうちに何が起こったのかわからなかったであろうルフ達が、着々と状況を把握しつつあることを私は知る。


『何が起こったんですの!?』

『……とりあえず、砕かれて散った柵の欠片を、隊長に向かって投げた見張りの男は仕留めましたヨ』

『この、魔力……まさか、ボス……』


 把握が早い。ルフは本当に私のことが大好きよね……。


『はっ! まさにこの魔力はお姉さまですわ! お姉さまぁ! いらっしゃるんですのね!』

『いえ、ここにおられるのならばお姿を見せてくださるはずですヨ! 魔術の発動経路……無線機? 無線機に仕掛けがあったのですカ!?』

『シャロンお嬢様ならば次元を超越してワタクシに救いの手を伸べてくださることすら可能だとは思うが、今回は確かに無線機のあたりから発動を感じたな。だが無線機自体が魔道具として稼働した感覚はなかった。むしろ、無線機を通して魔術が発動したような……』


 いや、ルフだけじゃない。この三人、全員私ガチ勢だった。そして推測でしかないのにどんどん真実に近づいていく……。こわ……。どうにもソレイラの持つ無線機からドンパチが起こっている音がするし、それを彼女らも聞いているのであろうに意にも解していないぞこの子たち……。


「……まあ、ルフが助かったならいいのよ。後のことは後で考えましょう」


 私はそう割り切って、潔く傍受をやめた。多分この後、ルフからエルたちに私の生存報告がいくと思うけれども、まだ戻るわけにもいかない。マジで魔物の氾濫(スタンピード)乱発してるし。


(……まあ、この魔物の氾濫(スタンピード)をおさめたら、一度ヴァルキアに行く予定だけれど)


 どうにも厳重に丁重に念入りに隠されていて、この私をしてなかなか見つけられなかった子たちの居所をようやくつかんだんだもの、行かなくてはね。


(……エメ、リク)


 そう、私はベルキス将軍の差し金で誘拐された孤児院の子供たちの行方をようやくつかんでいた。あまりにも見つからないせいで最悪の事態も視野に入れていたが、それでは何のために手の込んだことをしてまでエメとリクを誘拐したのかわからなくなる。


(あの子たちに何をさせたいのか、予想はできているのよ)


 そして、それを実行させてはならないことも。ベルキス将軍にとって、あの子たちの利用価値は対エイヴァでしかありえないと考えていた。けれど、本当に対エイヴァとして誘拐をしたならば、私に対してそうであったように、ベルキス将軍の人外への見積もりはひどく甘いといえる。


(『人ならざるモノ』を、彼は理解していないのよ)


 だから実行させてはならない。ただ、……問答無用でいつもなら取り戻すのに躊躇はしないのだけれど、今回だけは迷いが生じている。むしろ、エメとリクを誘拐した目的が対エイヴァだったという考えにも揺らぎが生じている。なぜならば。


(……いや、まさか思わないじゃない。ホント、衝撃の事実なんだけど)


 エメとリク。魔力が多いとは思っていたのだけど、ただの孤児じゃなかった。貴族のご落胤じゃないかと思って探っていたけど、マジでそうだった。


 ――やたらと子だくさんだった先代ヴァルキア皇帝の、孫だった。つまりエメとリクは、ザキュラム皇帝陛下やベルキス将軍の甥姪であり、シルゥ様のいとこだったんだよ!











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ