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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/66 破、(オレアノイド視点)


 え、この男、最低だろ。


「えー。四つの王子殿下を人質にとった挙句、失敗作一歩手前の危険魔道具に閉じ込める輩にはそんな顔されたくないっす」


 心の声は出力されなかったが、顔面にはにじみ出ていたらしい。ピクリとも動かない死んでる表情筋のジッキンガム卿がこの時だけうらやましかった。あと、ダブからの反論には確かにとしか言えない。確かにな! 幼児を人質に取ってる時点で儂の方が多分最低だわ。


「ザキュラム帝が全面的にこちらの意見をのむのであれば、全て解決するのですがねえ?」

「いやいや。あの皇帝陛下っすよ?」


 確かにな! ザキュラム帝ホント、今この瞬間にもこの邸崩壊させんじゃねーかってひやひやだよ。愛息子を人質に取ってるんだから嘘でも神妙な態度でくると思ってたらそんなことなかった儂の心境はうわって思っただけでなく、こいつやべーなって思った。ベルとも一応このことについて相談したけどよ、ベルとザキュラム帝、とことん性格不一致だよな。思考回路がかけらもかすらないよな。あの襲撃のような殴り込みのような来訪はさすがの儂も、ベルも予測してなかった。


 そしてあれをやらかしたということは、だ。屋敷が崩壊したら衝撃で皇子もドカンだというのはわかってる(はず、たぶん)のでそんなことはしないと願いたいが普段の素行からやらないとは限らないという考えが現実味を帯びるんだよ、これが。


 そしてこの目の前の、最低男と鉄仮面女騎士だ。


「……交渉が、決裂するとおっしゃいましたね。決裂した後、どうなさるおつもりです?」


 ……正直、膠着状態だった。儂、死にたくないし。博打は好きだが、自殺の趣味はないからな。かといってここを引くわけにもいかない。ダブたちが『塞の玻璃箱』を解除してウィルネラム皇子を救出なんてできない、と言い切れる根拠が儂にはない。どうにも常識を逸脱した人間どものようだし、メイソード王国は魔術大国であり魔道具の最先端の国だ。儂らが知らない技術を持っている可能性は高い。


 何より、このダブという男は胡散臭すぎていちいち発言は信用できない。


 だからあえて、尋ねてみる。何一つ信用できない発言の中、かけらでも真実をこぼさないかと。間違えれば死ぬだろうな。判っている。判っていて、儂は、……少し、愉しいってのはやっぱいかれてんだろうな。


 だが、儂も、ダブも。笑顔を崩さず、あちらの本心はどうだとしても、儂は偽りではない表情で、応酬する。


「皇子殿下を救出するっすよ?」

「その手立てがあると?」

「なきゃ来ないっすけどね」

「……それは、そうでしょうね。ですが、これまで姿も見せずに随分とこちらを調べていらっしゃったようなのに、本日は『堂々と』いらしたものですね? それは本当に皇子の生存確認及び、『保険』を掛けるためだけに私に姿を見せたのですか?」

「疑ってくるっすね、当然か。ま、俺がバディア商爵様とお話したかったのもあるっすかね。俺、基本的には子供、好きなんで。こういうこと平気でやっちゃう人ってどんなんかなって」


 なんというひとかけらも信用できない回答か。そしてさり気に儂のことこき下ろしてくるし。なんだこいつ。


「なるほど。それで、私と相対して何かつかめましたか?」

「そっすね。意外と人間臭いんだなあ、って」

「君たちはお二人とも、人間味が薄いですねえ」


 言葉を交わす。中身がないような会話を。のらりくらりとした受け答えの、全てが嘘ではないだろう。


 ……考えろ。『皇子を救出する手立てはある』とダブは言った。それはなんだ? 魔道具の解除か? あるいは破壊か? それとも別の方法があるのか? ()、それをしない理由はなんだ?


 考えろ。剣の柄に手をかけてはいるが、表情も動かなければ一言もしゃべらないジッキンガム卿、反対にぺらぺらとしゃべるダブ。おそらくは『囮』のザキュラム帝。


 ここでこうしていても、今の時点で皇子は死なないかもしれないが、それだけだ。魔道具内に皇子が捕らわれて命の危機に瀕していることは変わらない。『交渉は決裂する』とダブは言った。例えば決裂の末、宰相閣下をザキュラム帝が説得できたとしても儂の意思は変わらない。皇子を解放することはない。けれど、彼らは皇子を救う方法があると判断したからここに乗り込んできたという。


 それは、つまり、……。



 そうだ、ジッキンガム卿は、『何を』している? 常に隣にいた、『皇女』は何処だ? ……ダブが『副隊長』ならば、『隊長』は何処にいる!?



「……まさかっ」


 血の気が引いた。


「そのまさか、っすね」


 ダブが笑った、その時。


 ――背後の部屋から、爆音が響いたのと、応接室から悲鳴に似た怒号が轟いたのと、ジッキンガム卿とダブがかき消えた様に見えるほどの速さで動いたのと。全てが同時だった。


 ああ、畜生が。










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