0/6 シャーロット・ランスリーという少女
そう、そんな感じで私は思い出した。思い出したさ。肝心かなめの命令は聞こえてないけどな?
……おい、自称神。
な に を し て ん だ ?
一体君は何を言いたかったんだい。というか頼みごとをするくせに上から目線をなぜやめなかったんだい。頼み事は土下座と相場が決まっているだろう。もしくは相応の見返りが必要だろう?
強制参加とでもいうつもりだろうか。だからこその『シャーロット・ランスリー』なのだろうか。ふざけろよ。
そもそもだ、このファンタジーな小説異世界で何をしろというんだい自称神。
そしてなぜ、あれだけ無礼も超越した態度を初対面でとった私が素直に命令を聞くと思ったんだい。ポジティブ? いや、死んだばかりで精神的に苛立っていたのを差し引いても驚きの反抗的魂だったからね。私だったらこれは人選を誤ったと反省してなかったことにする。
ともかく。
思い出したことを整理するとだ。
此処はファンタジー小説『明日世界が終わるなら』の世界。
私はその中でのチートであて馬な公爵令嬢、シャーロット・ランスリー。
私には前世の記憶がある。
そして礼儀知らずの自称神に、何らかの命令をされたためにこの世界に生まれ落ちた。
私が前世の記憶を持っているのも、この自称神のせいかもしれない。
……おのれ自称神。たった今お前は私の『あとで泣かすリスト』に堂々一位でランクインした。覚悟をしておくのが賢明だ。
なお、私の中で定着したかの人外の名称『自称神』はもう覆らないことも決定した。
何故ならば彼は私にいじり倒されて地団太を踏んで悔しがるような人間味を持っているからだ。少なくとも決定的な裏付けが取れるまでは『自称』が妥当であると判断する。
威圧的な雰囲気なぞ一瞬で消し飛んだのだ、キャラ付けが甘いと評価しよう自称神。ビビらせて屈服させたいなら徹底的に痛めつけないとダメなのを知らないのか自称神。根こそぎ反抗心をこそぎ取ることこそ最善の手だぞ自称神。
そう、初対面のよく知りもしない相手に、それも私のような自他とも認める傲慢な精神の持ち主に言うこと聞かせたいなら自分のペース崩すのはあり得ない悪手。手玉に取られて終わりだ。次があるならばあらゆることを想定してそれでも己に有利な状況に持ち込めるように考えておくべきだ自称神。
……まあいい。自称神は一旦置いておこう。
おのれの前世を思い出した挙句、自称神が残念だったという突飛な事態を脳みそが理解したところで、今度は私、『シャーロット・ランスリー』が『明日セカ』で本来たどるべき命運についてもう一度、詳しく考察しよう。
――『シャーロット・ランスリー』。名門公爵家の一人娘として生まれ、家族には甘やかされて育つ。家系が子供ができにくい体質であったために、シャーロット以外の子供はなし。両親に溺愛されたシャーロットは、少々わがままな性格に育つ。けれどもそれは内弁慶であり、両親があまり外へと連れ出さなかったためか人見知りが激しい。使用人へのあたりは強いけれども、見知らぬ人間の前では息をするのもままならないほど。ここでも高低差が激しい。情緒不安定という文言も必要かもしれない。
そんなシャーロットは九歳の時に両親を病でなくす。溺愛され、溺愛していたラブラブ親子であったシャーロットの落胆はすさまじい。代理人は業突張りだし、もともと内弁慶で、身内へのわがままは『お可愛らしい』じゃ済まなかったシャーロット、使用人にも味方がいない。
――で、根暗な女に成長する。わがままは鳴りを潜めたが、内にこもって本ばかり読む、典型的なインドア派。社交界での二つ名は『幽霊姫』。黒髪も不吉を思わせて噂はおどろおどろしいものばかり。それを助長していたのは、彼女の肩書きおよびチートな能力にある。突出した魔力を誇り、その能力は建国からみても最高峰。性格と能力が釣り合っていない典型である。
結果、恐れられ、嘲笑され、利用されてきた彼女は根暗を拗らせまくって、天真爛漫な異世界由来の主人公に嫉妬するわけだ。そんで、元婚約者候補である第二王子に近づくのも気に入らなかった彼女は嫌がらせを開始することになる。孤独な彼女にとって優秀な王子様は己と真逆の『光』にでも見えていたのだろう。元王子の婚約者候補っていうのに縋っていた節がある。それでなくても『候補』で、しかも『元』なのに、粘着質である。
そして、先にも述べたように、結局は主人公によって改心させられる。そしてそのチートな能力を惜しみなく主人公のために使うわけだ。そしてそれが全て。主人公の友人ポジション。別に最後、王子と結ばれるわけでも何でもない。戦闘では大いに貢献するから改心後は有能なサポートキャラではあったと言えよう。
が、彼女の物語はそこで終わりだ。
……そう、物語の中の『シャーロット・ランスリー』の人生はそこでストップ。その後どうなったのかは語られていない。続編は発行されなかったからだ。
あっけないものだ。
でも、まあ、物語の中の『シャーロット』が辿る人生、改心させられたお蔭で人間的には向上したのかもしれないが、……まあ、本当に幸が薄いあて馬である。