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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第十章 世界の全て
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10/63 偏りはあるが、乱れはない(ルフ視点)


 執念を感じると思った。ワタクシたちは、作戦会議中続々ともたらされる情報を聞いて思うことは共通していた。皇子殿下をとらえている魔道具の仕掛けについて、……厳重過ぎてもはやアホかよ、と。


 まず殿下は、あの後、シャロンお嬢様(自主的)誘拐の折に使用されたのと同じ薬にて眠らされたようだ。まあ、皇子殿下に騒がれて魔道具が作動、などは笑えない。ワタクシたちが救出するにしても、幼い皇子殿下に下手に動かれては不測の事態が起こってしまう可能性もあったため、この行為には目をつぶった。


 そして次に、予測通りあの物騒な首輪型魔道具は外されたが、代わりにさらに物騒な箱型魔道具に入れられた。入れられたのち、首輪を外すという用心深さのせいで、隙を狙っていた部下は殿下を奪取できなかった。


 さて、そんな物騒な箱型魔道具であるが。


「復習しましょう。かの危険魔道具の機能を」


 ウィルネラム皇子奪還作戦決行前夜。ワタクシたちは隠れ家の一室に集い、作戦について最後の詰めをしていた。


「形状は透明な箱型六面体。中に殿下が眠らされています」

「遠隔操作はもちろん、箱の中から指定の物体……この場合は皇子殿下っすね……を、取り出すと爆発するっすね」

「箱を安置されている場所から動かしても爆発しますヨ」

「箱を破壊しようとして傷をつけても爆発するということでしたわね」


 ソレイラ殿、ダブ、ケイラ、そして皇女殿下の順で口々に、すらすらと出てくる情報。そう、これが、ワタクシたちが収集した情報から導き出した、あの箱型魔道具の実態である。


 アホかよ。首輪型魔道具といい、爆発しすぎだ。ベルキス将軍は『芸術は爆発だ(物理)』とでも言いだすタイプの技術者でも抱え込んでいるのか?


 だがしかし、ワタクシたちにはあきらめるという選択肢はない。なぜならば、ロッセイ公爵が提示した、『ザキュラム帝がヴァルキア帝国を手放す』というのはそのまま、ベルキス将軍に国を正式に譲り、認めろということに他ならない。むろんそんなことは許さない。何のためにここまでお嬢様とエル様が奔走してきたと思っているのか。お家騒動は他人に迷惑をかけない範囲でしていただきたいものだ。


「……何度聞いても、何を想定してそんな魔道具を開発したのかと問いただしたいな。動かしたら爆発するのならば、奴ら自身も一歩間違えば爆死ではないか」


 ため息とともに言うのは皇帝陛下である。そう、この箱型魔道具、どうも安全装置がついていない。そのうえ一度起動したら最後、解除方法すらただ一つ。開発者を召喚して丁寧に解体するしかないという仕様だった。『箱の中に入れられた指定の物体』を奪われないという一点にのみ特化した魔道具である。メイソード王国であればありえない。どんな場所にも馬鹿はいるというのに、うっかり爆発させたらどうするつもりなんだ。わがメイソード王国では、神出鬼没な人外の存在もあってそのあたりはかなり基準が厳しいのだ。


 まあ、ヴァルキア帝国謹製・アホみたいな機能の魔道具であっても、お嬢様の手にかかればものの数秒で解体される気もするが、……ワタクシたちはお嬢様ほどの技術を残念ながら持ち合わせていない。ああ、お嬢様のすばらしさ、その見識の深さ、技術の高さ、ワタクシはこんな時でも惚れ直しておりますお嬢様ぁ!


 ともかく。そんなワタクシたちがとった作戦は……各方面に配慮をせずに言うと力づくで奪う方法であった。


 もちろん策は色々出た。魔道具を解除できる技術者をひそかに拉致していうことをきかせる作戦から始まり、ロッセイ公爵およびバディア商爵側の手勢を秘密裏に、かつ可及的速やかに殲滅してからゆっくりと魔道具を解析・解体する作戦まで多種多様だった。


 だが、どの作戦も、救出に至らず爆発するということが予測としてはじき出されたため却下され続けた。


「もはや……正面突破(力づく)しかないのでは?」


 クマの浮かぶ目で言ったのは、お嬢様いわく『クール美女の皮をかぶった脳筋』であるソレイラ殿だった。しかしワタクシたちは彼女の意見に全会一致で賛同したのだった。


 当然作戦は練りに練った。囮から破壊、奪取、結界と役割は多岐にわたり、ワタクシたちはだれがどの役をするべきかの最適解を導き出すのにさらに時間を費やした。この時、己が乗り込む気しかなかった皇帝陛下は自分が皇子殿下奪取役になるといって聞かなかったがシルヴィナ皇女殿下が黙らせていた。結果的に、彼は囮役である。むしろそれしかない。バディア商爵はともかく、ロッセイ公爵の関心はこの脳筋……ちがった、ヴァルキア帝国皇帝陛下に一身に向けられているのは明らかであった。


 ……皇帝および皇女殿下は安全のために後方待機をするべきという意見は何処からも出なかった。何故ならこの二人は高い戦闘能力を持つからである。『使えるものは使うべきですよ』、と、無線機越しにもいい笑顔と分かる声音でジルファイス王子殿下がおっしゃったのをワタクシは覚えている。


 なので、後方待機、というか隠れ家でお留守番をするのは戦闘能力皆無なセミーリア皇妃殿下おひとりである。もちろん護衛はつけるが、結界内でおとなしくしていただく予定だ。


「わたくしは、ここでも……何もできないのですわね……」


 彼女はそう己の無力を嘆いていたが、彼女が安全な場所で帰りを待っているからこそ皇帝陛下と皇女殿下が十二分にその実力を発揮できるのだと知るべきである。物理的に喝を入れるのがわがメイソード王国の王妃殿下であるならば、問答無用で庇護欲を抱かせる儚さで周囲のやる気を引き出すのがセミーリア皇妃殿下であったようだ。


 なお、正しくその役割を果たした皇妃殿下は最終的に熱く家族三人で団結し、「必ずみんなで帰ってきますわ!」と皇女殿下の意気込みは十分だった。


 そんな作戦を練るにあたって、エル様をはじめとした御三方にもご意見を賜ったが、メイソード王国王子殿下お二人による「こうしたら、こうなると思いますよ。だからあれをああすればいいと思います」「そうだねジル。ああそれから、私は、ヴァルキア帝国民の気質から言って、こういった行動が多いと思うんだよ」という、誘導+予測による未来予知もかくやという意見に加え、エル様の魔道具の性能に関する鋭い考察を踏まえ、作戦は完成した。


 ちなみに、無線機の存在は未だに皇帝夫妻には知らせていないが、最初から存在を知っていた皇女主従は通信に参加することも多々ある。それゆえにソレイラ殿からはこんな疑惑を頂戴した。


「メイソード王国の王子殿下方は、シャーロット様と同じく未来を見る特殊能力をお持ちなのですか?」


 お嬢様の御力はあんな殿下お二人ごときが敵うものではない。おこがましい勘違いでああったので、そのまま返しておいた。ソレイラ殿は「……そうですね」と納得していた。もっと彼女はワタクシたちのボスを崇め奉るべきだ。それに比べて皇女殿下はわかっていらっしゃる。


「ジルファイス殿下はお姉さまのお友達ですものね!」


 その言葉で全て説明されたとばかりの笑顔だった。


 まあ、そんなこともありつつ、時間はあっという間に流れて作戦決行当日なわけであるが。


「さて。許されるのは成功のみ。……お覚悟は?」

「「「「「とっくに」」」」」


 ワタクシたちは、バディア商爵の屋敷へ、襲撃を開始した。











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