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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/22 あなたが見ている世界(エルシオ視点)


 僕が? 魔術?

 だって僕は、そう、ずっとそれが使えなくて……


 いやでもそう言えばこの部屋は燃えた。

 僕の意志で。


 ――あれっ?


 ……いや、まさか。

 このため、とか。

 色々と規格外な彼女だとしても、まさかこんな大掛かりで下手したら命の危険もある様な事を、そんな。


 思ったけれど、瞬時に、容赦なく師匠に側頭回し蹴りを放ったりスラム街に悠々と突撃して行ったりチンピラに絡まれたのを絡み返して最終的に『よい子』を作り上げた光景が脳裏を駆け巡った。


 ……駄目だ、否定しきれない。


「ねえ、エル」


 彼女は、本当は僕を想ってくれていたのか、僕が憎んだあの人の方が噓だったのか。そうだったらいい、そうだったらいいのに。

 でも今はまだ、結論が出ない、どちらが本当の彼女なのかが僕にはわからない。


「醜い感情も恐怖も、全部飲みこんで前へ進め」


 信じたら、裏切られる。そんなの何回でもあった。血のつながった実の家族だって。さっきの彼女だって。

 でも、彼女の今の言葉が演技だとするなら、それはそれで怖すぎるほど慈愛に満ちている。


「エルなら、出来るよ」


 やめて、優しく言わないで。

 信じたく、なるから。

 希望を持ちたく、なるから。


「私を倒すつもりでね?」


 姉上(・・)は、本当によく分らない。だってさっきの僕を見捨てた彼女が本音なら、今こうして助ける必要も言葉をかける必要もないんだ。

 いや、でもでもあの悪辣な笑い方も堂に入っていたから何かもっと真の目的があって僕を懐柔しようとしているのかもしれないし。


 ……わからない。


「受けて立ってあげるから、かかっておいで?」


 ふふ、と笑って、彼女は僕を床に寝かせる。

 その手つきさえも、優しく。

 それから彼女は視線を部屋の入り口に向けた。そして、ため息をつく。


「――ああ、お前ら、まだ居たんだ。逃げないなんておりこうさんだね!」


 彼女の声に、複数の悲鳴が上がる。……犯人の、男たちのものだ。


「今のうちに逃げてれば、外の衛兵に捕まるだけで済んだのに。まあ私が逃げられないようにしてたんだけどね!」


 だって逃がすつもりなかったから!


 そう彼女は肩をすくめた。

 お道化るように。

 そして笑う。不敵に。挑戦的に。


「ねえ?」


 それは清々しいまでに、僕が半月間見てきた、義姉の姿。


「あんたら、私の可愛い弟を、ずいぶん虐めたみたいだよねえ?」


 ひんやりと気温が下がったのは、部屋が凍っているせいだけじゃない。


「この子は大事な跡取りなんですけど? 私は、私の家族に害をなすものに、容赦なんてしないわよ?」


 ぼきぼきと関節を鳴らす音がする。

 僕からは見えないけれども、声なき悲鳴が上がった気がした。


 ……姉上、きっと肉食獣の様に獰猛に笑っているんだろうなあ。


「覚・悟・は・い・い・か・な?」


 そのあとはひたすら破壊音が響いていました。


 誘拐犯の末路がどうなったのかは、途中で意識は落ちた僕にはわからなかったけど。


 ――ねえ、姉上。

 貴方は変な人だ。

 訳が分からない。

 憎いと思った。

 本気で、ふざけるなと思った。


 何が、貴方の本当?


 何にも信じられなくなりそう。でも、それなのにあなたをきっと僕は信じていたい。

 怖い。

 僕はどうすればいい?


 きっと自分で考えなければいけないんだ。

 あなたが助けてくれるんじゃなくて、僕が僕であるために。

 あなたをもう一度信じても、希望を持ってもいいかなあ。


 何が、真実であったとしても。


 憎んでもいいと姉上は言った。

 僕は、強くなりたいと思った。


 あなたを、倒せるくらいに。

 だから、まだ、


 ……貴女の傍にいたいと思うんだ。











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