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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/21 それが優しさではないとして(エルシオ視点)


 一瞬だけ、気を失っていたようだった。

 視界が戻ってくる。

 でも、気を抜いたらすぐに気を失ってしまいそう。

 全身がだるい。ぼんやりする。


 部屋の中は、焦げ臭さの中でもひんやりとしていた。

 僕は床に転がっているようだった。でも頭は痛くない。誰かがそう、僕の頭を抱えている、みたいに。


 ――いや、誰かが、僕の頭を、膝の上に載せて、なでている?


 やわらかな感触が、した。

 そして、予想外の声が降ってくる。


「――ちょっとやりすぎたかなあ、エル」


 凛として澄んだ、その声は。

 その声、持ち主は。

 憎い、憎い、僕の心を黒く染めた、彼女。


 ――シャーロット・ランスリー。


 ガバリとおきようとした。

 手を払いのけようとした。

 感情の全部をぶつけたいと思った。


 ――でも、全然体は動かなかった。なんでか、鉛みたいに、重い。指一本、動かすことさえ億劫だ。

 なんで、どうして、判らない。


 ただ彼女はゆっくりと僕をなでている。

 多分、僕の意識があることに気づいていない。何とか瞳だけ動かしてみた彼女は、僕じゃなくて、凍り付いた部屋の中、どことも知れない虚空を見ていたから。


「ここまでやるとは思ってなかったけど。力は最初から、エルの中にあったからね」


 囁くような声は、先ほど聞いた侮蔑の色はない。

 困惑する。

 罠だと思う。

 でも。

 彼女は言った。


「いじめてごめんね、エル」


 ――まあエルに人殺しはさせられないから最後は止めたけど、と。


 ……なんで。

 意味が分からない。

 全然、判らない。


「……世界は広いから、簡単に善悪もひっくり返るけど……。エルは私に傷つけられた心をそれだけにしない反骨精神があると思ってたんだよね。思ったとおりだわ、さすがあの伯爵家で十年耐えただけはある。……うちの跡取りになる、それだけの力を、ちゃんと示した」


 囁くように。

 呟くように。


 独り言だろうか。独り言にしては長い。あれ、もしかして気付いているんだろうか、僕が目覚めていることに。


「エル。私を憎んでいいよ。怨んでいいよ。どんな形でも『騙した』のは事実だからね。まあうちの使用人さんたちはあんまり関係ないから責めないでほしいな。その感情を力に変えて私を越えていける力を持ってるでしょ? ねえ、エル」


 優しく、僕の名前を呼ぶ。

 さっきまで、ああそうだ、先ほど姿を現した時は、一度も呼ばなかったくせに。

 エル、と。


「揺れてもいいよ。弱音を吐いていいよ。間違えることだってあるよ。そうしないと、進むことなんてできない」


 なんだろう、この人は。

 なんで、こんなに、優しく言うの。

 僕を殺そうとしたでしょう。

 僕が要らなかったんでしょう。


 あと絶対気付いてるよね僕が目覚めてるって。


「自分で考えて、自分の力を正しく知って成長してほしいな。私は優しい姉じゃないけど、エルは大事な、私の家族だよ。トラウマだって乗り越えて、魔術をつかえたでしょう? それはすごいことなんだよ、エル」


 密やかに笑う。

 嘲るような、笑みじゃなくて、優しくて、綺麗で、この半月見慣れた……


 いやそこじゃない。


 ん? あれ? ……ま、じゅつ?







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